暴力と不平等の人類史読書メモ
第一部
第一章
植物の家畜化
農業が発達したことにより余剰生産が可能になり富を蓄積することが出来るようになった -> 富裕層の誕生
最初の1% - 少数のエリートを生み出す構造
国家の誕生
国家形成は不平等効果を生み出す
前近代での統治機構の不安定な国家形成ではまだ不平等を壊す力学も働いていた
略奪や侵略、国の没落により平等化効果が働いていた
奴隷制は不平等を生み出すメカニズムのひとつ
外部の奴隷を取り入れることで不平等効果が発生することは国家形成以前から見られた
第二章
不平等の帝国
破壊的な暴力がないことが不平等の決定的な必要条件だった
安定=不平等の条件、不安定=平等化の条件と言える
ローマ帝国でも君主制が250年続いた西暦200年頃には帝国全人口の1.5%が全体の3〜6割の富を得ていた
中国の各種王朝による帝国とローマ帝国は同じ不平等化のプロセスを共有していた
農業生産による余剰資産の投資による資産の蓄積と政治的特権による納税の回避等
オスマン帝国のように強制的な資産没収によって国庫に富を戻す帝国もあった
国家の力が弱い場合はエリートの抵抗により資産没収がうまくいかない場合もあった
前近代社会では経済的能力ではなく政治的権力とのつながりで富がもたらされていた
アテナイの直接民主制、軍事動員の文化下では経済的不平等が比較的抑えられていた。(吸い上げ率が最大77%に達する帝国の中アテナイでは49%だった)
第三章
国家総力戦 - 日本の大規模な平等化
日本は大二次大戦を経て上位1%、さらにその中でも上位1割の0.1%の富のシェアを97%減らした
第二次大戦の前0.6ほどのジニ係数が0.3まで一気に下がった. デンマーク等の先進国並の平等化だがそれを目指した訳ではなく、帝国化を目指し国家総力戦で全ての富を集中させた結果だった
一時期はアジアの広範な地域に軍事侵略し5億人近くの占領を主張していた
当時の成年男性の7人に1人が兵役に服し、最終的に250万人以上の戦死者を出し一般市民は70万人以上の死者を出した
また最も大きい影響は政府による各種の介入だった
賃金、雇用、株式等あらゆる領域に政府の統制が介入しその数は70近くにも及んだ
賃金の固定化や土地代を固定し農産物を一定以上は強制的に徴用するなどで一次生産者の土地に対する相対的な所得が上昇
またインフレにより物価が1年で300%上昇する一方家賃地代統制により地主の実質所得を押し下げ、債権と預金の価値を下げた
1945年の大規模な空襲では物的破壊により全体の4分の1近くが徹底的に破壊された
東京大空襲では25万以上の建物が破壊された
66の都市で空襲が起こり、市街地の40%が破壊され日本全体の30%が家を失った
文字通り焼け野原となった
しかしそれまでの重化学工業の急激な拡大により1937年と比較して生産設備自体は増えていた
上位1%の富は大幅に圧縮されたのに大して上位1%の次の4%の富は一貫して大きな変化はなかった
しかし1%の富の残り95%の富への転換により95%の国民所得における割合は1938年の68%から1947年の81%へ5分の1近く上昇し劇的な変化となった
現代のスウェーデンと同じ程の平等社会だったということになる
終戦後の占領軍による改革、財閥解体、労使関係の改革、農地改革等は主として戦争を駆り立てるに至った経済構造を見直すことにあった
最終的に海外への経済拡張主義的に至る制度の改革によって、戦争が起こりかねない制度自体が改革され再度戦争が出来ない構造とすること
また1946年〜1951年に最高90%に至る強力な累進課税を課すことにより最富裕層の富及び課税対象になる世帯の富の3分の一が最終的に国庫に入った
平等化と再分配を推し進めることにより拡張主義に至る支配構造を解体することが主な目的だった
財閥は軍国主義的な政治指導者と親密な関係にありパトロンとなっていた構造もあり解体が押し進められた
農地改革により全農地の3分の一が改革の対象となり不在地主(所有している土地と同じ村に居住していない地主)や1ヘクタール以上の小作地、3ヘクタール以上でも農地として機能していなければ強制収用された
物価のインフレに伴い土地の実質価値は劇的でコメの実質価格と比べて500倍も下落した
結果として全国の農地の半分は農村世帯に譲渡され、戦前に農地の半分を占めていた小作地は55年には9%まで低下し自作農の割合は70%となり農地のジニ係数は0.5から0.35まで低下した
他にも賃借人の保護による地主の実質賃金の押し下げなど平等化を推し進めるための改革が多く実行された
戦前の資産収入(キャピタルゲイン)が上位1%の富を大きく広げていた事実を省みて土地や株式、大企業の重役への報酬などキャピタルゲインに対して強い統制がなされた
旧借地法や借家法などは90年代に見直され家主や地主の負担を軽減するという名目で改正された. 平等化という目的で制定された旧借地借家法の理念に照らし合わせれば格差を助長する方向に働く