アートバーゼル近年の動向:バーゼル・マイアミ・香港における展覧会と市場の分析
序論
アートバーゼル(Art Basel)は現代美術・近代美術の国際的アートフェアであり、1970年にスイス・バーゼルで創設されて以来、マイアミ・ビーチ(米国)や香港(中国)など世界各地で年間開催される。その規模と影響力から、アートバーゼルは美術市場の動向を示す指標と見なされ、各開催地の文化・経済環境とも相まって独自の発展を遂げている。近年(おおむね2020年以降)、アートバーゼルの各開催地は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによる中断とその後の回復を経験し、来場者数や出展ギャラリー構成、取引成績に顕著な変化がみられた。本稿では、スイスのバーゼル、米国のマイアミ・ビーチ、中国の香港におけるアートバーゼルの近年の展開について、展覧会の傾向、出展ギャラリーおよびアーティストの動向、来場者(コレクター)の属性、市場動向と売買実績、注目作品やテーマ、批評家・参加者からの評価といった観点から総合的に分析する。各年の特徴的事象(パンデミック後の回復、新興ギャラリーの台頭、アジア市場の変化など)にも言及し、アートバーゼルが直面する課題と展望を論じる。
バーゼル(スイス)における展開(2020–2023年)
スイス・バーゼルで開催される旗艦フェアは、美術市場の最高峰に位置付けられ、質の高い作品と国際色豊かなコレクター層で知られる。しかし2020年はパンデミックの影響で開催中止となり、オンラインビューイングルーム(OVR)による代替開催が試みられた。2021年には通常6月の開催を延期し、9月に規模を縮小して再開された。出展ギャラリー数は272と例年(2019年は約290)に迫ったが、アジアや米国からの渡航制限により来場者はヨーロッパ圏が中心となった。それでも「総来場者数は約60,000人」であり 、パンデミック前の2019年(93,000人)からは減少したものの、欧州各国の主要コレクターや300以上の美術館関係者が参加し、会場では活発な売買が終始報告された。主催者は、この年のバーゼルが「2019年以来初の本格的国際アートフェア」となったことを強調し、現地とデジタルを融合した“Art Basel Live”プログラムも展開した。渡航困難な状況に対応するため、出展各ギャラリーに対して150万スイスフランのソリダリティ基金を設けるなど経済的支援策も講じられ、危機下でのフェア継続への努力が評価された。マーケット面では欧州の蒐集家による購買意欲が顕著で、「アジアと米国の一部欠如を欧州の力強いコレクター層が補った」と報じられている。実際、初日には欧州の著名美術館による大型作品購入(ウォルフガング・ティルマンス作品をノルウェー美術館が100万ドルで取得など)が相次ぎ、早くも数百万ドル規模の取引が成立している。ギャラリストからも「予想以上の成功であり、パンデミック下でもコレクターの食欲は旺盛だった」との声が上がった。
2022年のバーゼルでは、開催時期が6月に戻され、内容・規模ともにさらなる正常化が図られた。出展ギャラリー数は289(40か国・地域)とパンデミック前に匹敵し、19の新規参加ギャラリーが加わった。アフリカ(ルアンダやダカール)や中東(サウジアラビア)から初参加のギャラリーが見られたことは、地域的多様性の拡大傾向を示している。来場者数はおよそ70,000人で、前年より増加したものの2019年比では約75%程度に留まった。これは2022年初夏時点でなお一部アジアからの渡航が制限されていた影響も考えられるが、それでもヨーロッパ・北米・中東・アフリカ各地域から主要コレクターや美術館関係者が集結し、会場は活況を呈した。市場動向としては「全セクターで売上好調」と伝えられ、パンデミックを経た蓄積需要(ペントアップデマンド)の放出が指摘された。実際、初日から国際的なVIP顧客が来場し、ギャラリー大手による高額販売が次々と公表された。たとえば、アジアのコレクターがフェリックス・ゴンザレス=トレスの作品を1,250万ドルで購入し、他にもアリス・ニールの絵画が350万ドル、エイドリアン・ゲーニエの新作が180万ドルで売れるなど、「まさに旧来の日々が戻った」との声が聞かれた。ディーラーのタデウス・ロパックは「アメリカ人もアジア人も戻ってきた。まるで元通りだ」と述べ、前年に感じられた国際顧客層の欠落が解消されたことを強調している。この年、バーゼルではUnlimitedセクション(巨大作品の展示)が再び大きな注目を集め 、市中心部での野外彫刻展Parcoursや特別パフォーマンス夜間イベント「Unlimited Night」の新設 など、芸術体験の拡充も図られた。加えてウクライナ支援を目的とした特別展示やチャリティ企画(反戦メッセージを込めた大型写真の展示、パンクバンド「プッシー・ライオット」による公演と11万スイスフランの人道支援寄付)を実施し、社会的メッセージの発信も行われている。
2023年のバーゼル・フェアはパンデミック後の完全復調を印象付けるものとなった。開催は6月15~18日で、来場者数は約82,000人に達し、ほぼ2019年の水準に近づいた。出展ギャラリー数は284(36か国・地域)で、このうち21が初参加、さらに12が主セクターに初出展するギャラリーであった。質・量ともに充実した出展に批評家からも高評価が寄せられ、「バーゼルには他のどのアートフェアにも代えがたい輝きがある」と評された。この年、これまで香港やマイアミで親しまれてきた「カビネット(Kabinett)」セクションがバーゼルで初めて導入され、出展ブース内にギャラリーが企画した小規模展覧会を併設する形式が好評を博した。またUnlimitedでは76点の大型作品・パフォーマンスが発表され、街中でのParcours(全24か所に拡大)は史上最大規模となるなど、プログラムのスケールアップが顕著であった。世界中から集った名士・美術関係者には、欧米や中東のみならず中国・東南アジア・アフリカの美術館代表者も含まれ、グローバルな交流の場としての役割が再確認された。マーケット面では引き続き好調な売上報告が相次ぎ、20世紀の巨匠から現代美術の旗手、新進気鋭の若手に至る幅広い作品が取引された。一方で、世界経済の先行き不透明感が広がる中で市場の変調への備えも語られるようになった。2023年時点でインフレ高進や景気後退の懸念が漂い、実際グローバルなアートマーケットは成長の減速が指摘されている。バーゼル会場でも「価格設定が依然高止まりしており、一部の作品が売れ残る傾向」が見られ、専門家からは「売り手が市場現実に合わせて柔軟に価格を見直す必要性」が提言された。ギャラリー側も戦略の見直しを進めており、例えば大型作品をUnlimitedに出品して初日(プレビュー前日)から話題を獲得する、ブース設営コストを抑えて利益率を確保する、といった工夫が報じられている。また若手コレクター層への訴求も課題として浮上した。主催者は「来場する若い収集家が増えている」と分析しつつ、業界アドバイザーからは「バーゼルは依然として‘オールドワールド’(古い世界)の雰囲気があり、子育て中の若い富裕層には足を運びにくい」との指摘も出ている。これに対し、一部のギャラリーは若年層にも手の届く版作品や小品を取り揃えるなど間口を広げており、「以前よりバザール(バーゼル)は随分開かれた」と評価する声もある。総じてバーゼルの旗艦フェアは、パンデミック後に再び揺るぎない地位を示したものの、世界的な市場環境の変化に対応するべく出展者・運営者が戦略調整を図る段階に入りつつある。ただし質の高さと伝統に裏打ちされた求心力は依然健在であり、「Art Baselは究極のアートフェアだ」という評価に揺るぎはない。実際、多くのディーラーが「バーゼルは他と一線を画す特別な存在」と認め、パリ開催の新興フェア(Paris+, 2022年開始)が台頭しても「依然比較にならない」との見解を示している。バーゼルという都市環境も含め、同フェアが持つ独自の価値が再確認されたと言えよう。
マイアミ・ビーチ(米国)における展開(2020–2023年)
米国フロリダ州で毎年12月に開催されるアートバーゼル・マイアミビーチ(以下、ABMB)は、北米・中南米の富裕なコレクターや美術関係者が一堂に会するアートイベント週間の中心であり、「アメリカ大陸における最重要アートフェア」という地位を確立している。パンデミック以前の2019年には約81,000人の来場者を記録したが、2020年は開催中止を余儀なくされた。2021年12月、ABMBは2年ぶりに対面イベントとして復活し、「パンデミック開始以来米国で初の本格的国際アートフェア」と位置付けられた。出展ギャラリー数は253(36か国・地域)で、このうち実に44ものギャラリーが初参加を果たした。初参加組にはサンパウロ、グアダラハラ、グアテマラ市などラテンアメリカからの中堅ギャラリーや、デトロイト、トロント、ソウル(現代画廊)といった各地の画廊が含まれ、出展者の多様化が進んだ。またアフリカからの出展(ウガンダ・ハラレ・ラゴス拠点の4画廊)が初めて複数実現し 、同年のABMBはこれまで以上にグローバルかつ多声的なプラットフォームとなった。これはコロナ禍でギャラリー業界が変容したことを受け、参加資格要件を緩和して新興ギャラリーを積極的に受け入れた運営側の戦略の成果である。具体的には「年間開催展覧会数」「常設スペースの有無」「開業年数」といった従来の参加条件が緩和され、新規開廊や非固定型ギャラリーにも門戸が開かれた。来場者数は約60,000人で、パンデミック前より2万人以上少なかったものの 、米国・中南米・欧州・アフリカ・中東など72か国から主要コレクターや美術館関係者が訪れた。会場では冒頭から「全セクターで活発な売買」が報告され 、大型成約も相次いだ。例えば、有力ギャラリーの一つであるペース(Pace)社長のマーク・グリムチャーは「Robert NavaやMarina Perez Simãoの作品が主要美術館に収蔵され、NFT作品も含めデジタル分野で新たな機会が生まれた」と述べ、「メタバースと現実が交差した記念すべき年」であったと振り返っている。実際この年は、会場におけるNFTアートの存在感が指摘されており、ペースはデジタルアート部門の販売に注力してNFT作品を出展、他にも複数ブースで暗号資産アートが紹介された。またティム・スナイダーなど新進作家の作品が初日から完売し、タデウス・ロパックは「パンデミック前以上のエネルギーと多くの新顔に出会えた」と語るなど 、ギャラリストたちはABMBの復活を歓迎した。主催者も「非常に多様な声を取り込んだ」と評価し 、会場の感染対策(マスク義務や入場制限)を講じつつデジタル配信“Art Basel Live”を実装するなど 、リアルとオンライン双方での盛況を収めた点を強調した。コロナ禍で高まったオンライン発信力と、対面ならではの熱気が融合した2021年のABMBは、「北米アート市場復興の象徴」として評価できるだろう。
2022年のABMBは、フェア創設20周年の節目であり、規模・実績ともに過去最大級となった。会期は12月1~3日(プレビュー11月29~30日)で、来場者数は約76,000人に達し前年から16,000人増加した。出展ギャラリーは282(38か国・地域)と過去最多を記録し、そのうち25が初参加、パンデミックで一時参加を見送っていた有力ギャラリーも多数復帰した。主催者は「20年間で培った南フロリダ及びアメリカ大陸全体への文化的貢献」を誇示し、同年のフェアが「過去最大かつ内容的にも最も充実した版」であったと総括している。実際、展示内容は北米・南米のギャラリーによる地域色豊かなプレゼンテーションと新しい視点が際立ち、特別セクションのMeridians(大型インスタレーション展示)は例年にも増して注目を集めた。市場面では会期中「全マーケット区分で活発な売買」が報告され 、著名アーティストの高額作品から新進作家の作品まで幅広い価格帯で取引が好調であった。例えば、現代アフリカ系米国人作家ケリー・ジェームズ・マーシャルの大型絵画が初日に数百万ドルで売却されたほか 、数千万ドルにのぼるブルーチップ作品も水面下で成約したと報じられた。加えて、世界88か国から著名コレクターが来場し、150以上の美術館・文化機関の代表者も訪れたことで、グローバルなネットワーキングの場としても成功を収めた。ABMBならではの地域貢献としては、マイアミビーチ市の公立学校に現役アーティストを派遣する教育プログラムへの資金寄付キャンペーンが展開され、地元コミュニティとの連携を深めた点も見逃せない。参加ギャラリーやアート関係者からの評価も上々で、ペイスのグリムチャーCEOは「20年間でアートワールドを拡張しマイアミを国際的中心地に変貌させたABMBの功績は計り知れない。スピグラー全球ディレクターの最後のマイアミ参加を称え、新CEOノア・ホロウィッツのもと今後さらに発展するだろう」とコメントしたと伝えられる。他のギャラリストからも「持ち込んだ作品が完売し、毎日会場から離れたがらない来場者で賑わった」「世界中の新しいコレクターと出会え、大成功だった」等の声が報告され 、20周年のABMBは量的成果のみならず質的評価においても「史上最高」と言える盛り上がりを見せた。
2023年のABMBは12月6~10日に開催され、引き続き堅調な成果を収めた。来場者数は約79,000人に達し、前年を上回ってほぼコロナ前の最多水準に近づいた。出展ギャラリー数は277(五つのセクター合計)で、25の新規参加ギャラリーを含んでいる。この年は会場のフロアプラン(配置図)が刷新され、新規参入組とベテラン画廊のブースがバランスよく配置されたほか、通路レイアウトの改善により来場者動線が向上したと報じられた。展示面では、米州の玄関口である土地柄を意識しラテンアメリカやカリブ海地域に焦点を当てた企画が目立った。公式トークイベント「Conversations」ではキューバ系米人アーティストのマリア・マグダレーナ・カンポス=ポンスや、ラテンアメリカ美術の蒐集家エストレジータ・ブロドスキーらを招き、地域文化に根差した討議が展開された。マーケットに目を向けると、今回も20世紀巨匠の作品(ルネ・マグリット、アリス・ニール、キース・ヘリング等)から当代一線級の作家(草間彌生、バーバラ・クルーガー、村上隆、ラシード・ジョンソン等)、さらに新進・中堅の注目株に至るまで満遍なく売買が成立し、市場の裾野の広さを示した。特徴的な取り組みとして、「Access by Art Basel」と銘打った新たなオンライン販売プラットフォームがこの年のABMBで初稼働した点が挙げられる。Arcualというブロックチェーン技術を用いたシステム上にギャラリー15社が出展作品を掲載し、購入者には作品価格の最低10%相当を慈善寄付することを条件とするユニークなモデルである。寄付先はマイアミ財団や赤十字などから選択でき、作品代金はギャラリーとアーティストに全額支払われる仕組みで、フェア期間中に10万ドル以上の寄付金を集めた。この試みは富裕層コレクターの社会貢献意識に訴えるもので、今後のアートフェアにおける新潮流として注目される。来場者の顔ぶれを見ると、92か国から高額所得のパトロンや美術関係者が訪れた。米国内のみならず欧州・アジア・中東・ラテンアメリカ各地の主要美術館から200以上の関係者が視察に訪れたことは、依然ABMBがグローバルなプラットフォームであることを示している。運営面では2023年版をヴィンチェンツォ・デ・ベリス国際見本市ディレクターが統括し、翌2024年から新任のブリジット・フィンがフェアディレクターに就任することが発表された。デ・ベリスは「作品の質と意欲が非常に高く、地元・海外双方のコレクターの出足も素晴らしかった。新規ギャラリーや新コンセプト導入で新鮮さも加わり、地域の文化活性への貢献も大きい」と総評し、次期ディレクターによるさらなる発展に期待を寄せた。新ディレクターのフィンも「初めてディレクターとして体験したABMBはかけがえのないもので、ギャラリー・アーティスト・協力機関・パートナーと築いた学びを次に活かしたい」と抱負を述べ、北米最大のアートフェアの次章への意気込みを示した。総じて、2021–23年のマイアミビーチではパンデミック後の段階的復興が遂げられ、2022年には記念すべき最大規模・最高実績を達成、2023年もその勢いを維持しつつ革新的試みに踏み出したと言える。批評的視点では、かつて「商業主義的」と評されることもあったABMBが、近年は地域コミュニティや慈善活動への配慮、ギャラリー出展多様化による新陳代謝などを通じて評価を高めている。依然ナイトライフやセレブの来訪など華やかな側面はあるが、フェア自体の質も保たれており、米国・中南米市場のハブとしての地位は揺るぎない。
香港(中国)における展開(2020–2024年)
香港で開催されるアートバーゼル香港(以下、ABHK)は2013年に始まり、急成長するアジア美術市場のゲートウェイとして確固たる地位を築いてきた。2019年の来場者数は88,000人に達し 、東アジア・東南アジアからの膨大なコレクター人口を背景に、市場規模・来場者数ともバーゼル本展に匹敵するまでになっていた。しかし2020年の香港展はパンデミック初期に開催直前で中止となり、急遽オンラインビューイングによる代替開催が行われた。2021年5月、香港は世界のアートフェアに先駆けて限定的ながら対面でのフェア開催を再開した。この第9回ABHKは「ハイブリッド形式の初導入」となり、物理会場とデジタル参加を組み合わせた運営が特徴的であった。出展ギャラリー数は104で、香港に渡航できない海外ギャラリーのために「衛星ブース」制度が新設された。衛星ブースとは現地代理スタッフが作品を展示・販売し、本国のギャラリストはオンラインで商談に参加する形式であり、当時の香港の厳格な入境制限下で編み出された措置であった。多くのギャラリーがこの方式を活用し 、またArt Basel Live: Hong Kongと銘打ったオンライン配信プログラム(VR映像によるブースツアー、生中継トーク等)で海外顧客と結びつく努力がなされた。結果として、会場には香港在住のコレクターや美術関係者を中心に一定の観客が訪れ、同時にオンライン上では30か国以上のプライベートコレクターがバーチャル参加した。売上は全般に好調で、「現地来場者とデジタル越しの購入者の双方から堅調な売買報告」があり、大手ギャラリー幹部は「アートバーゼル香港が帰ってきた」と述べている。著名ギャラリーのゴゴシアン香港代表は「結果に驚いている。ABHKは戻ってきた」とし、ハウザー&ワース総裁のイワン・ウィルトも「アジアのアート市場が盛り上がっていることを90%の初日売上が証明した」とコメントするなど、参加者からは復活への手応えが示された。同時に、香港の地元画廊経営者からは「若い新世代のコレクターが増え、自信を深めている」という声も聞かれ 、パンデミック禍で蓄積された購買意欲と芸術への関心が一気に表出した様子が窺える。入場者数こそ2019年比で大幅減となったが(※公式発表はないが会場規模縮小から推定すると数万人規模)、限定的な環境下で一定の成功を収めた2021年のABHKは、美術市場のデジタル適応力と香港におけるアートコミュニティのレジリエンス(復元力)を示すものとなった。
しかし2022年も香港の渡航制限は続き、5月に開催された第10回ABHKも大幅な規模縮小を余儀なくされた。出展ギャラリー数は130(前年104から増加)であったが、そのうち実に75ギャラリーが衛星ブースによる参加であった。香港政府は海外からの入境者に当時7日間の強制隔離を課しており、依然多くの海外ディーラー・コレクターが来港できない状況だった。その結果、会場は通常2~3フロア使用していた展示面積が1フロアのみに縮小された。2021年に比べても地元来場者は減少したと指摘される。皮肉にも2022年春には香港市民の海外渡航制限が緩和され、長らく閉ざされていた反動から多くの富裕層が旅行に出たため、前年熱心に通った地元客の足がやや遠のいた面があった。それでも「来場者数の減少は売上やバイヤーの関心に大きな影響を与えなかった」。多くのギャラリーがリモートで顧客と接点を持ち、フェア開始前から予約・販売を進めたためである。実際、プレビュー初日にホワイトキューブはアンソニー・ゴームリーの彫刻(45万ポンド)を含む7点を計130万ドルで売約し、デヴィッド・コーダンスキーはレスリー・ヴァンスの絵画6点(各5万~10万ドル)を販売、ハウザー&ワースはジョージ・コンドの大型絵画を韓国の美術館に260万ドルで売却するなど、高額取引が次々と成立した。LGDR(新設ギャラリー連合)はバンクシー作品を展示しつつ、周辺の中堅・新鋭作家への関心を引き出すことに成功したと報告している。このように、渡航制限下でも遠隔販売で成果を挙げる柔軟性が見られた点は注目に値する。また2022年のABHKでは、香港の新設美術館M+や香港故宮博物館の開館と連動した企画や、香港人ビデオアーティストのエレン・パウによる大型映像作品《The Shape of Light》をヴィクトリア・ハーバーの夜景に上映する試みなど、地域アーティストへのフォーカスが強まった。加えて、ブロックチェーン企業TezosによるNFTアート展示がフェアで初開催されるなど 、デジタル・暗号資産領域にも一定の足掛かりを作った。しかしある評論家は「依然としてNFTやデジタルアートへの取り組みは限定的で、本格的な考慮が欠けている」と指摘し、この分野の深化は今後の課題として残った。総合的に見て、2022年のABHKは「縮小開催ながら遠隔販売とアジア美術重視で持ちこたえた」と評することができる。国際的旅行が困難な中、香港の税関港・金融ハブとしての機能、美術品無税港の利点などを活かし、アジア域内の富裕層コレクターを中心にマーケットを維持したのである。
2023年3月、香港はついに入境制限を撤廃し、ABHKも4年ぶりに本格的な国際フェアとして復活した。第11回となるこの年の出展ギャラリー数は177で、前年比で約37%増(2022年の130から)と大幅に拡大し、パンデミック前の水準(2019年は242)には及ばないものの、会場を再び2フロア全面使用する規模で開催された。特別セクター(「Encounters」「Film」「Kabinett」「Conversations」)もすべて復活し、大型インスタレーションの展示や映画上映、講演イベントがフルに行われた。展示面では、コロナ禍で参加を見送っていたギャラリー42社が復帰し、新規参加も22社にのぼった。香港域内に拠点を持つギャラリーは33社で、全参加の約2割弱を占め、全体の3分の2以上はアジア太平洋地域の画廊が占めた。かつてより地元・近隣重視の傾向が強まったが、これは同地域のギャラリー台頭を示すとともに、パンデミック下で海外展開の難しかった間にアジア市場内でネットワークが深化した表れといえる。来場者数は86,000人に達し、「2019年以来最大のエディション」と謳われた。5日間(VIP含む)の会期を通じて多くの海外客が香港を訪れ、M+など新設美術館も巡る文化的盛り上がりを見せた。世界約70の国と地域から著名プライベートコレクターが来場し、100を超える国際美術館・財団の館長や学芸員も視察に訪れたと報告されている。これは香港がアジアアートマーケットのハブとして復権したことを裏付ける。マーケット面では会期を通じて「あらゆる価格帯で活発な売買」が続き、新進気鋭の才能発掘も多く報じられた。本年はABHK創設10周年でもあり、記念的な演出としてエチオピア系米国人作家アウォル・エリズクの巨大インフレータブル彫刻《ツタンカーメン》(キング・タット像)が会場外の商業施設に展示され市民の話題をさらった。この作品は参加ギャラリー(ベン・ブラウン・ファインアーツ)と香港企業の協賛で実現し、街ぐるみでアートフェアを盛り上げる香港の熱気が感じられた。同年のセールスハイライトとして公表された例には、大手ギャラリーのユニオンパシフィック(ロンドン)が新人作家の作品を初日で完売させたケースなどがあり、新規参入ギャラリーにも成功機会があった。参加ギャラリストからは「規制解除後の香港のエネルギーは素晴らしく、対面の意義を再認識した」「オンラインでしか知らなかった顧客と遂に会え、新たな層とも交流できた」といった喜びの声が多く聞かれ 、運営ディレクターも「香港が再びアジアの頂点に立つ文化ハブであることを実感した」とコメントしている。こうした成功の背景には、中国本土が2023年初頭にゼロコロナ政策を終えて海外渡航を解禁し、多くの富裕層コレクターが香港に戻ってきたことが大きい。かつてABHKの主要顧客だった中国本土の有力収集家(例えば上海のジョー・チービンや北京のリウ・イチャンなど)が再び多数来場し 、韓国・東南アジア・欧米からの顧客も合流して、真の国際フェアの賑わいが蘇ったのである。
2024年3月の第12回ABHKは、この回復基調をさらに発展させた。出展ギャラリー数は242とついにコロナ前の水準(2019年242)に戻り 、40か国・地域から過去最多タイの参加となった。新任ディレクターのマイケ・クルーゼの下で迎えた本年は、VIPプレビューがやや静かな立ち上がりだったものの最終的に75,000~91,000人規模(報道によって差異あり)の来場者を集めた。公式には約91,000人とされ、これは2019年実績(88,000人)を上回る数字である。中国本土・香港・韓国・日本・シンガポールなどアジア各地からの来場が引き続き強く、特に30代前後の新興富裕層コレクターが目立ったと報じられる。彼らは現代アートを資産クラスとしてだけでなく文化・社交の象徴として捉えており、美術品購買への意欲が高い。ギャラリー側もこの傾向を踏まえ事前販売や顧客育成を重視する姿勢を見せ、全般には「購入決定は慎重になったが売上は堅調」というバランスに落ち着いた。参加ギャラリーにとって香港出展は相当な投資負担を伴うが、「それだけの価値がある市場だ」との認識が共有されている。実際、オーストラリアのあるギャラリーは毎年着実に香港での顧客基盤を築き、強気の新作投入で完売を達成した。一方で全体の傾向として、即断即決の投機的な買いより作品内容を吟味した上での購入に移行していると指摘される。これは市場の成熟化とも言え、ギャラリー間の競争においても質の高いキュレーションや深化した文脈提示が重要になっている。ABHKはこうした流れを受け、アジア太平洋地域の芸術潮流を総覧できる場として機能している。現に、2024年の参加ギャラリーの約半数強は同地域に拠点を持ち 、展示内容もポップカルチャー的なフィギュラティブ作品から抽象絵画、テクノロジーと融合した新媒体芸術まで多岐にわたった。国内外の批評家からは「香港は依然アジア・パシフィック地域随一のアートフェア都市であり、その規模と質で東京やシンガポールを凌駕している」との評価が聞かれる。参加ギャラリストの声としても「4年ぶりに戻ったが、規模・質とも疑いなくアジア太平洋の頂点」「創設以来参加しているが、年々洗練され深みを増している」といった肯定的コメントが寄せられている。他方、香港社会の政治環境変化(国家安全維持法の施行など)による不安も指摘されるが、現状では香港の自由港・税制優遇と高度なビジネス環境が保たれており、「ビジネスに関しては香港は依然オープンだ」との認識で一致している。アートバーゼルのノア・ホロウィッツCEOも「中国市場の見通しに極めて強気であり、香港開催に今後も積極的に投資する」と表明し 、香港観光局との複数年パートナーシップ契約を締結するなど、拠点強化に動いている。ホロウィッツは「香港2024年は我々のプレイベントとしてパリ開催(Art Basel Paris)への名称変更や東京での提携アートウィークなど、新展開とも相まってプレ・パンデミック規模に回帰した」と述べ、香港の重要性を改めて強調した。このように、ABHKはパンデミックによる停滞を克服し、アジア市場の中心地としての地位を維持・強化している。もっとも競合の出現(2023年にシンガポールでArt SG創設、東京でも新興アートフェア開催)もあり、今後もその座が盤石とは限らない。だが香港には税制・地理・インフラなど多くの利点が存在し、現時点では「香港なくしてアジア市場は語れない」状況である。批評的には、2022年の極限状況下で見せたリモート販売力と地域連携、2023年以降の力強い反発に対し高い評価が与えられている。他方で、デジタルアート対応や超高額作品マーケットの持続可能性など課題も残る。総じてABHKは、新興コレクターと多様なギャラリーが交差するダイナミックな舞台へと進化しているといえよう。
総合考察:近年のアートバーゼルにみる潮流と課題
以上の各開催地の動向を踏まえると、パンデミック以降のアートバーゼルにはいくつかの共通した潮流が見出せる。第一に、物理的なアートフェアの復権である。2020年に全ての主要フェアが中止を余儀なくされた後、2021年から2023年にかけて段階的に対面イベントが戻り、2022~2023年にはおおむねパンデミック前の規模・活気を取り戻した。各地の来場者数は一時落ち込んだが、最新の実績ではバーゼル約82,000人(2019年比88%)、マイアミビーチ約79,000人(同98%)、香港は公式発表で91,000人(同103%)と、いずれも完全復調かそれに迫る水準である。この回復力は、美術品が依然として富裕層にとって魅力的な資産・文化財であり続けたこと、そしてオンラインでは代替できない直接体験や交流の価値が再認識されたことによる。実際、コレクターやギャラリストからは「画面越しではなく実物を見る喜び」「人と直接対話できるフェアの重要性」が繰り返し強調されている。これは人々がパンデミックを経て得た示唆であり、Art Baselというブランドはその象徴的な再集合の場となった。
第二に、デジタル技術とハイブリッド戦略の定着が挙げられる。コロナ禍で急速に導入されたオンラインビューイングルーム(OVR)やライブストリーミングは、パンデミック終息後も補完的サービスとして継続されている。Art Basel Liveやデジタルウォークスルーは各地で定着し、2023年にはオンライン販売と慈善寄付を組み合わせた新プラットフォームの試行など、フィジカルとデジタルの融合が一層進んだ。またSNS等を通じた発信も強化され、広範囲の潜在顧客にリーチする手段としてギャラリー側も積極的に活用している。この結果、地理的距離を超えて商談・販売が行われるケースが増え、特に香港2022年のように物理的来場が限られる状況下では遠隔販売がフェア成功の鍵となった。もっとも、完全オンラインの限界も明らかになっており、高額作品や新規顧客開拓には直接対面が依然不可欠と認識されている。したがって今後もリアルな場を核としつつデジタル技術で補完するハイブリッド型が標準となるだろう。
第三に、参加ギャラリーの新陳代謝と多様化である。近年アートバーゼルは各拠点で新興ギャラリーの参加を積極化させた。マイアミ2021では出展要件緩和により若いギャラリーや非西洋圏ギャラリーを多数受け入れた。香港でも2023年以降、東南アジア・中東など新規勢力の参入が目立ち、バーゼルも2022年以降アフリカ・南米から初参加が続いた。これらは美術市場の地域的拡大を反映するとともに、ギャラリー業界自体の変化(ポップアップ的なギャラリーや短期プロジェクトスペースの増加)にフェアが適応した結果でもある。より多様な声がフェアに集うことで、美術作品の内容面でも多文化性や多様性が向上し、新たな発見が生まれやすくなっている。参加ギャラリーの世代交代は、コレクター層の変化(若年富裕層の台頭)にも対応するものであり、将来的な市場基盤を広げる意義がある。一方で、新規参入が増える一方で撤退・不参加となるギャラリーも存在する。経済状況によっては出展コスト負担が重く、小規模画廊にはリスクが高いとの指摘もある。運営側には参加費用の軽減策や衛星ブース継続など、小規模・新興勢力を支える工夫が今後も求められよう。
第四に、アジア市場の重要性増大である。中国を中心としたアジアの富裕層コレクターは2010年代以降アートバーゼルにとって欠かせない存在となっていたが、その傾向がパンデミック後さらに明確になった。香港はもちろん、バーゼルやマイアミにもアジアの新興コレクターが姿を現し、バーゼル2022ではアジアのVIP顧客の復帰が大型商談を後押しした。香港2023・2024における本土中国からの来場急増や若手アジア富裕層の台頭は、市場の重心が多極化しつつあることを示唆する。主催者自身、「中国市場に極めて強気」で「香港を足掛かりにアジア全域へ一層注力する」方針を明言しており 、香港開催の充実や東京・シンガポールなど周辺都市との連携(Art Week Tokyoへの協力など)に力を入れている。これは裏を返せば欧米市場だけに依存しない成長戦略であり、実際2022年の世界美術品売上ではアメリカ42%に次ぎ中国21%(2位)、イギリス17%(3位)というシェアになっている。香港の国際金融都市としての復活はアジア市場活性化の鍵であり、アートバーゼルもその波及効果を享受している。もっとも、地政学リスクや為替・関税問題など不確定要素も存在する。アートバーゼルは米中貿易摩擦による関税課税や各国の富裕税動向など、市場を取り巻く政策的要因にも注意を払っている。今後もアジア市場拡大が続くとして、香港とパリの役割分担(それぞれアジア・欧州のハブ)や、新興アートフェアとの競争環境など、動的な変化が予想される。
最後に、批評的評価にも触れておきたい。一般にアートバーゼルは市場主導のイベントとして肯定・賞賛されることが多いが、近年はいくつかの建設的批評も浮上した。その一つは、美術市場の環境変化への対応である。パンデミックとその後の経済状況は、美術品販売にも慎重さや効率性を求める風潮をもたらした。ディーラーの中には、バーゼルでの出展において作品搬入点数やブース装飾を絞り込みコスト削減する例が報じられた。また「買い手市場(Buyer’s market)への移行」と「高止まりする価格設定」のミスマッチを指摘する声もあり 、超高額作品が売れ残る傾向が散見された。これは必ずしもアートバーゼル固有の問題ではないが、市場の健全な発展には価格調整や新しい購買層の開拓が必要との示唆でもある。また若年コレクターへの訴求力については、バーゼルのような老舗フェアが「やや古風」で若者にアピールしにくいとの指摘もある。一方で「各都市のフェアはそれぞれ異なる性格があり、均一化すべきでない」との見解も示されている。例えば、バーゼルは落ち着いた環境で質の高い美術に集中できる点が強みであり、ナイトライフや派手なパーティが多いマイアミ、都市全体が観光都市であるパリ、ダイナミックな変化の只中にある香港とは対照的だという。このように各拠点の個性と市場層の違いを尊重しつつ、それぞれのフェアが新時代に適応することが求められている。批評家たちは総じて、アートバーゼル各展が2020年代の試練に耐えてなお世界最高水準のアートフェアの座を守ったことを評価している。その上で、環境変化(経済・社会・世代)に機敏に対応し続けることが今後のカギだと指摘している。
結論
本研究では、近年のアートバーゼルについてバーゼル(スイス)、マイアミ・ビーチ(米国)、香港(中国)の3拠点それぞれの動向を考察した。パンデミックによる一時的な停滞を経て、3都市のフェアはいずれも2022~2023年に顕著な回復を遂げ、来場者数・参加ギャラリー数・売買実績の点でコロナ前の水準をほぼ回復または更新した。これは美術市場の潜在的需要の強さと、Art Baselブランドの集客力が再確認された出来事である。各地ともに強力な顧客基盤(欧州の伝統コレクター、米州の富裕層、アジアの新興富裕層)が支えとなり、取引面では数百万ドル規模の大作から数万ドル以下のエディション作品まで幅広いレンジで活発な売買が行われている。また、新たな傾向として、アートフェアが従来以上に文化的プラットフォームとして機能し始めた点が挙げられる。各開催地で特有のテーマ(バーゼルのUnlimited/Parcours、マイアミのMeridiansや地域連携企画、香港のEncountersやデジタルアート)に焦点を当て、単なる商取引の場に留まらない芸術文化交流の場としての色彩が強まった。さらに、教育プログラムへの寄付や人道支援イベントの開催 、地域の若手作家起用 など、社会貢献やコミュニティとの結びつきを意識した取組も散見される。こうした動きは、美術の公共性や社会性が問われる中で、国際アートフェアが果たし得る役割を模索する一環と解釈できる。
他方で、今後の課題も浮上している。美術市場全体では2022年に過去最高の取引高を記録した後、2023年にはわずかな減少が報告されており 、高額作品市場の伸び悩みや価格適正化への圧力が指摘される。アートバーゼルにおいても販売戦略や出展コスト管理など、ディーラー側が慎重な姿勢を見せ始めている。また新興のライバルイベント(例えばフリーズ(Frieze)のロサンゼルス・ソウル進出や、アートフェア東京・シンガポールの勃興)が、市場シェアや優良顧客の奪い合いを激化させる可能性もある。特に2022年に開始されたパリ開催(Paris+、2024年よりArt Basel Parisに改称)は、バーゼル本展との関係性が注目される。現状では「パリはまだバーゼルの直接の脅威ではない」との見方が多いが 、欧州市場の再編は継続中である。加えて香港の政治・社会環境の行方や米中関係の影響など、マクロ要因も注視が必要である。
しかし総じて言えば、アートバーゼルの各フェアは極めて高い適応力とブランド力を示し、美術市場のグローバルトレンドを牽引し続けている。批評家や参加者からの評価も、「質において他の追随を許さない」「世界のアートワールドが再結集する場」といった肯定的なものが大勢を占める。今後も各開催地の個性を活かしつつ、新しい潮流(デジタル化、新興市場、次世代コレクター)への対応を図ることで、アートバーゼルは国際美術市場のバロメーターとしての役割を全うしていくであろう。今回の分析から浮かび上がった「パンデミック後の回復力」「市場の多極化」「参加主体の多様化」というキーワードは、まさに現代のアートフェアが直面する試練と可能性を物語っている。それらに応えつつ進化を続ける限り、アートバーゼルは今後も「現代美術市場の最前線」であり続けると結論付けられる。
参考文献・出典(一部):
• Art Basel公式プレスリリース(2021–2023年各開催地ショーレポート) ほか
• The Art Newspaper, Artnet, Artsy等による現地レポート ほか
• UBS・Art Basel「グローバルアートマーケットレポート」2023・2024年版
• Wikipedia “Art Basel”