教育におけるIT利用に関する著作権法改正案とScrapboxによるアクティブ・ラーニングの効用
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第196回国会における文部科学省提出法律案「著作権法の一部を改正する法律案」が2018年2月23日、閣議決定のうえ、衆議院に提出、受理された。ITによる新たな著作物の利用形態に対応するため、著作権者の許諾を受ける必要がある行為の範囲を見直して、IT産業の発達、教育方法のIT化、より広範な障害者の情報アクセス支援、美術館等におけるアーカイブの利活用に係る著作物の利用の円滑化を図るものである〈注1〉。 著作権法は、著作物の保護〈注2〉と利用という背反する社会的要請を両立することによって文化の発展に寄与することを目的(著作権法第1条)とする仕組みである。本改正は、著作権を制限する著作権法第2章第3節第5款の規定に手を加えることによって著作物の保護と利用のバランスを調整し、ITの進化と急速な普及に対応することを目的とする。著作権の法的性質を部分的に「許諾権」から「報酬請求権」へとシフトすることにより、今般のIT環境において権利者の利益の確保と利用者の利便性の両立を図ろうとする点が注目される。著作権法の法目的に照らし、この改正案が未来の日本社会において真に著作物の保護と利用とを適正に調整して文化の発展に寄与するか、検討を要する〈注3〉。
文部科学省から同時に提出された「学校教育法等の一部を改正する法律案」は、平成32年度(2020年度)から実施される新学習指導要領を踏まえた「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善や、障害等により教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の支援のため、必要に応じて「デジタル教科書」を通常の紙の教科書に代えて使用(併用)できるよう措置を講ずるものだ〈注4〉。著作権法の改正案と合わせて、望まれていた教育現場のデジタル化、ネットワーク化に対応することを目的としている。 とはいえ、この著作権法改正以前の現行法〈注5〉においても、教育現場のIT利用に支障があったわけではない。むしろITの利用によってますます進化を続ける各種の教育手法に対して、著作権法が後ろ盾になっているといってもいい。32条によって認められる公正な慣行に則った引用による「利用」、35条で教育現場に認められる「複製」およびサテライト教室などに対して同時になされる「公衆送信」、36条が認める試験問題としての「複製」や「公衆送信」、37条および37条の2による視覚障害者、聴覚障害者のための「複製」や「利用」、38条によって認められる完全無償の「上演」、「演奏」、「上映」、「口述」、それらの利用における43条による「翻案」等。さらに美術の著作物に関する45条、46条、47条、ITを用いた「複製」等に関する47条の3から47条の9といった規定も教育手法の多様化に資するものである。毎年、新たなIT環境を取り入れて大学における教育を実践している筆者自身も常にそのような著作権法の恩恵を受けている。
本稿は、2017年度における法学教育に「Scrapbox」を使ったアクティブ・ラーニングの実践およびその用法と特性を記したあと、著作権法の観点から、Scrapboxを例としたITの授業利用についてその法律構成を明らかにすることにより、改正法案によって予想される変化を展望し、法案の妥当性を検討する。
折しも2017年度は法学教育、なかんずく法律論文の論述・起案教育においてエポックメイキングな1年だった。前年度までに比べて筆者が担当するゼミの学生たちが1年間に書いた文章の量が、圧倒的に増加したのだ。
その要因は、2016年11月にリリースされた「Scrapbox」と呼ばれるwebシステムの全面的な採用にある。法学教育のあり方、論述訓練の手法、そしてゼミ運営の環境にScrapboxが変革をもたらしたのだ。「リアルタイム相互添削メソッド」の実現である。 法律論文を学生たちが自主的に起案(drafting)し、書きなおし、学生同士で添削し合い、また書く。Scrapboxを使うとその繰り返しが自律的に行われる。自分の書いた文章のあらは見えにくいが他人の文章のあらは気づく。だから他人の文章を添削すると自分の文章を省みる。次第に整った論述を書けるようになっていく。4月の時点では司法試験の論述式試験問題の答案を書いてもほとんど形にならなかった学生たちが、約1年後には論述答案として認めうる内容的なクオリティを備えるようになったのだ。目をみはる成長である。
学生たちが論述やコメントする様子を教員もオンラインで観察し、必要があればコメントする。教室に集まって顔をあわせる実際のゼミのみならず、それ以外の時間にも起案したりコメントするといった学生たちのパフォーマンスを指導教員がいつでも見守ることができるのだ。
Scrapboxによって起案環境が可視化され、論述し、共有し、協働する「場」が生まれた。学生たちの相互作用によるアクティブ・ラーニングが深化したのである。
これによってゼミの様子が様変わりした。論述力を涵養するゼミにおいては、ゼミが始まると上級生と下級生とが2名または3名のグループで向き合い、MacやiPadを開き、互いの論文を読んで口頭でコメントし合う。その場で修正し、内容に関する議論も進む。教室内全体を見渡すと、20名ほどのゼミ学生全員が声を出して積極的に議論している状態が終始継続するのだ。従来の手法によるゼミでは見られなかった光景である。
また、ゼミ中のプレゼンテーションのスタイルも変わった。報告者は各種のプレゼンソフトは使わず、Scrapboxの画面をそのままスクリーンに映しながらプレゼンを開始。すると、その画面に、他の学生たちが各自の端末を使って自席から直接書き込む。静的なスライド画面とは異なり、Scrapboxの画面は生きている。報告中に報告を遮ってまで口頭で発言をすることには大いなる躊躇を覚えるが、気づいたことはできればその場で伝えたい。それをプレゼン画面に直接書き込むのだ。関連情報のリンクも貼る。事件現場や物件の写真を見つけてきて貼り付ける。地図で位置を示す。なんらプレゼンの進行を害すことなく、報告に対する積極的貢献を続けられる。アクティブ・ラーニング(能動的学習)が自然と実現する。また、そのような付加的情報の書き込みとは別に、議論の推移を記録している学生たちもいる。終了後、Scrapboxのページを報告者が開くと、今後の課題や研究のヒントが眼前に広がるのだ。そんな仕組みがかつてあっただろうか。
Scrapboxとは何か。一言で言えば「オンライン共有ノート」である。「オンライン」、「共有」が注目されがちだが、秀逸なのはその「ノート」。法律文書で必須の階層構造を容易に記述、表現できるのだ。だから起案環境、起案教育システムとして優れているのである。それをオンラインで共有できることによって付加価値が増す。2018年2月現在、利用料は無料である〈注7〉。
ユーザインターフェイスの研究者で慶應義塾大学環境情報学部の増井俊之教授が開発した「Gyazz」〈注8〉を基礎として大きく改良を加え、2016年11月にNota Inc.がwebサービスとしてリリースしたのが「Scrapbox」である〈注10〉。情報を階層化せずフラットに扱うことを目的とし、無限のスケーラビリティを備えた現代版のwikiシステムだ。サービス提供開始後も日夜開発が続けられており、日々、Nota社のエンジニアたちによって機能の改良や新機能の実装が続いている。 用法、記法はいたってシンプル。ページを開いて上部中央の「+」を押して開かれる新しいページに文章などを書く。「+」の右にある枠で検索できる。文章を書く時にキーワード的な文字列を[ と]とで囲む(square bracketsで囲む)ことによってその文字列を連結点としてページ間がリンクされて繋がる。その連鎖によって無限のコーパスが構築される。一般のwebサイトのようにリンク先(そのページからリンクした別ページ)が見えるだけでなく、そのさらにもう一つ先(2ホップ先)のページ、そしてリンク元(そのページにリンクしている別ページ)も一覧される(逆リンク)のが革新的である。また文字の装飾などもすべてこのsquare bracketsを使う。
トップページには各ページがそこに含まれる代表画像を伴ってカード状に表示される。また各ページの下部にも、そのページに関連するページが同様にカード状に並ぶ。その表示順序は、「Date modified」、「Date created」、「Date last visited」、「Trending」、「Most popular」、「Most linked」、「Title」から選択できる。初期値は「Date modified」であり、最近編集されたページほどカードが上に表示されるから、情報の鮮度が可視化されるのだ。さらに各ページの中に書かれた文章や画像といった情報は、段落ごとに編集日時が記録され、ページ左端にある「テロメア」と呼ばれるグレイ色の垂直線にマウスオーバーすることによってその段落の最終編集日時を確認できる。テロメアの幅はその段落が古くなるほど細くなっていくため、情報の鮮度が一目瞭然。初見(未読)の段落のテロメアにはグリーンの色がつく。
一人のユーザが個人で使うことも、複数メンバーのグループで使うこともでき、いずれの場合もプロジェクトごとにPublic Project〈注11〉(公開)とPrivate Project〈注12〉(非公開)を選択して設定する。その用途は多岐にわたる。個人が非公開で自分の研究、資料といった知識体系を整理するナレッジベースとする用途。個人が公開で判例データベースを作成したり、論文集を公開するといった用途。
例えば白石忠志教授は「競争法など」というScrapboxプロジェクトに競争法関係の事案、審決など各種の情報を公開しているし、遠山勉弁理士は「4IP-Law 知的財産法条文ネットワーク」で産業財産法の逐条解説などのデータベースを構築して公開している。筆者自身は2004年から継続してIT等に関する情報を公開している「shiology」の約5,000記事をScrapboxに読み込んで継承したほか、50以上のScrapboxプロジェクトを公開、非公開で使っている。 また複数メンバーで利用すれば、内容の充実が加速する。グループ、チーム、職場、あるいは家族などの情報を非公開で共有したり、情報公開に使えば、組織内外のコミュニケイションが円滑化する。従来のさまざまなデータベースシステムやブログシステムと比べて、はるかに容易に作成、公開できるから、特にITに通じていない一般人でも短時間で理解してコーパスを構築できるメリットは大きい。
Scrapboxの利用環境はGoogle Chrome、Firefox、Safariといったwebブラウザが開ければなんでもよい。Mac、iPhone、iPad、Windows PC、Android端末など、身近かつ一般的な環境で利用可能だ。専用アプリのインストールは不要である。教育現場においても学生がすでに所有している端末を使うから、新たにハードウェアやソフトウェアを購入するといった負担を強いることなく、授業でもゼミでもすぐに使い始めることができる。ただし、起案などに本格的に使い始めると、早晩、携帯端末よりもMacやWindows PCの方が効率的に使えることがわかってきて、学生たちがそういったハードウェアを購入する強いインセンティブになることを付言しておく。
webブラウザで開いたScrapboxのページに直接文章を書けば、同時に自動でクラウドに保存される。「保存」操作は不要。情報がすべて1ヶ所にあるから、どの端末からでもScrapboxを開けば確実に必要な情報を見つけられる。ゼミ論文終盤の1月になってゼミ学生が電車内でMacを盗まれたのだが、論文自体はScrapbox(クラウド)にあるから失うことなく、スマホと古いPCによって執筆を継続できた。2週間ほど後に警察から連絡があってそのMacはほぼ無傷で学生の手元に戻ったが、データはすべて消去されていたから、もし端末にファイルを置く方式で執筆していたら痛手は大きかったに違いない。その学生はクラウドの意義を実感していた。
複数人で使っているScrapboxプロジェクトの場合、メンバーが書く文章は、そのページを開いている他のメンバーの画面に同時に現れる。書き進むごとに、他のメンバーの画面にもその文字列が書かれ進む。複数のメンバーが同じページに同時に書き込めるから、ひとりの文章に他のメンバーが即時にコメントできる。これをゼミで行うと、あたかもゼミの議論が画面上でなされるが如く、文字による会話によってゼミが進行するのだ。グループで広大なホワイトボードに同時に書き込みながら思考や議論を進めていく様子に似ている。この「リアルタイム共同編集」がScrapboxの真骨頂である。
古来、情報は「分類」によって整理されてきた。分類は情報をグルーピングし、階層化され、ツリー構造をなす。例えば図書館の資料は日本十進分類法(Nippon Decimal Classification, NDC)にしたがって配架されるし、生物は「階級」によって界(kingdom)、門(phylum)、綱(class)、目(order)、科(family)、属(genus)、種(species)に分類される。また法律の条文も例えば民法は、編・章・節・款・目の5階層によって体系的に規定されている。いずれも樹形図状に広がっていくツリー構造だ。
すべての情報が明確に分類可能なら問題ない。しかし多くの情報は複数の要素や属性を兼ね備えるため、それを分類する場合、何か一つの属性に着目して分類したら他の属性は見失われてしまう。例えばピアノは一般的にオルガンと同じ鍵盤楽器に分類されるが、オルガンと異なり弦をハンマーで叩いて発音する点に着目すれば弦楽器でもあるし、打楽器ともいいうる。ツィンバロンのような打弦楽器に含めることも可能。多様な属性を有するものの「分類」には限界があるのだ。コウモリは獣と鳥との性質を兼ね備えているため、どちらに分類しても不十分であるし、同グループ内の他の構成員と性質を異にする。ツリー構造に収めるために「分類」を追求するとイソップ寓話に通ずる「コウモリ問題」に直面するのだ。
コンピュータでファイルを扱うときに「フォルダ」と呼ばれるツリー状のディレクトリ(directory)に収めるのもまさに「分類」である。最上位のルートディレクトリから「フォルダ」を作って下位の階層にツリーをたどり、適切と思われる階層の下にファイルを置く。「分類」思考によってフォルダの位置を定めファイルを保存するのだが、ファイルが増えるほど必要なファイルがどこにあるか行方不明が生じやすい。
そこで「検索」を使う。ファイル名を対象として検索する場合、ファイル名に工夫を凝らし、検索しやすいファイル名をつける努力が払われるようになった。しかし、コンピュータの性能が低かった時代にはファイル名だけを検索の対象として探す必要があったが、現在のコンピュータはストレジ内の全ファイル内部の情報全体を対象とする検索も短時間で済む。もしファイルの属性を示す目印(タグ)をいくつかつけておいてそれを検索するならさらに時間を要しない。
ファイルや情報を検索で探せるなら、もう基本的に分類は不要。すべての情報を網羅して1カ所に置き、見つけたい情報の各属性で検索すればたちどころに必要なファイルや情報が浮き上がる。情報を入れる時点で「分類」する方法から情報を取り出す際に「抽出」する方法へと移行したのだ。コンピュータの演算速度とネットワークの通信速度の高速化がもたらした質的転換である。著作権法12条が「編集著作物」について「編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する」と規定するのに対し12条の2が「データベースの著作物」につき「データベースでその情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有するものは、著作物として保護する」と規定し、「配列」ではなく「体系的な構成」を要件とする所以である。Macでは以前からこの方法が有効であったため、筆者は1990年代から検索による「抽出」を前提として情報を扱っている〈注16〉。
ツリーからフラットへ。情報の相互間に上下関係や優劣はないから、情報投入時に別の情報と紐づけてツリー構造の中でいずれかの階層に位置づけたりグルーピングするよりも、すべてを独立の情報として扱う方が適切だ。階層としてのフォルダではなく、すべての情報やファイルを一つの入れ物に入れ、フラットに記録する〈注17〉。個々の情報にはその属性をいくつでも記しておくことにより、情報を取り出す時には属性を指定して必要な情報を「抽出」すればよい。それが現代的な情報の扱い方なのだ。ビッグデータが価値を持つのも、同様の仕組みである。
そこでファイルやwebページといった情報の単位には、抽出時に目安となる属性を明らかにする「タグ」をつけておくことが望まれる。タグの付け方としては近年、属性を示す単語や文字列の前に「#」(hash mark)をつけることでその単語や文字列をタグとして用いる「ハッシュタグ」が普及した。TwitterやInstagramといったSNSでは日常的に用いられている。
Scrapboxも各ページ内にハッシュタグをつけることでページ内の情報の属性を記述する。また前述のsquare bracketsもハッシュタグと同様の機能を有する。「#」の付いたハッシュタグによって明示的にタグ付けすることもできるし、本文中の文言を[と]とで囲むことによってタグを埋め込むこともできる。この2種類のタグによってScrapboxは、各ページの属性をタグ付けするから、ツリー構造ではなくフラットに記録できるのだ。
Scrapboxではタグを書くと同時にそのタグがリンクになる。タグの文言をタイトルとするページにリンクされるのだ。さらにそのページには、そのタグが書かれたページがカード状にリストされる。これが「逆リンク」である。例えば「ピアノ」をタイトルとするページにピアノに関する情報を書く。そのページ内には「#鍵盤楽器」、「#打弦楽器」というハッシュタグをつけておく。そのハッシュタグ自体がクリッカブルなので、「#鍵盤楽器」をクリックすると「鍵盤楽器」をタイトルとするページに遷移する。その際、「鍵盤楽器」をタイトルとするページが存在していなければその時点で自動的に作成される。すると、「鍵盤楽器」をタイトルとするページの下部には「ピアノ」というカードが表示される。もし「オルガン」というタイトルのページにも「#鍵盤楽器」とタグ付けしていれば、「鍵盤楽器」ページの下部には「ピアノ」と「オルガン」というカードが自動的に並ぶ。
さらに「ピアノ」のページの下部にも「鍵盤楽器」という項目が現れて「オルガン」カードが表示される。「ピアノ」→「鍵盤楽器」→「オルガン」という2ホップ(2段階)先の情報まで、「ピアノ」のページに表示されるのだ。「ツィンバロン」に「#打弦楽器」をタグ付けしてあれば、同じことが起きる。「ツィンバロン」のページの下部に「打弦楽器」という項目が現れて「ピアノ」カードが表示されるのだ。「分類」方式が目的とする「グルーピング」がここに実現しているのである。
したがって、Scrapboxを利用する際、各ページの属性や特徴を表すタグをつけることが肝要である。いくつつけてもよいし、本文中の文言をsquare bracketsで囲んでもいい。うまくタグをつけることによってページ間が連結するメリットを享受できる。
「検索」による「抽出」に頼れない時代には、情報を保管する時点で「分類」によるグルーピングを必要とした。あとで探す際の手がかりになるからである。しかし、現代はコンピュータによって瞬時に情報の「抽出」ができる。すべての情報を1カ所に保管すればよく、適切なタグを複数つけておけば、タグの連鎖によって欲しい情報にたどり着ける。Scrapboxはそうしたフラットな情報取り扱いを実現する新しい宝箱なのである。
ページという単位で情報のまとまりを作り、そのページ相互間をフラットに扱うのがScrapboxである。ではページの中はどうか。
Scrapboxのページは、フラットに書くこともツリー状に書くこともできる柔軟なキャンバスである。ページの要素は7つ。タイトル、本文、テロメア、Links、検索窓、メニュー、そしてScrapboxメニュー。
タイトルには文字通り表題を記載する。そのタイトルと同じ文言が他のページでタグとして書かれた場合にリンク先になることを意識することが大切だ。またタイトルはそのページのURLとなる。日本語URLも問題ないので、タイトルのつけ方は自由だ。
本文の内容もまた自由。テキストで文章を書くほか、画像や動画を貼ることもプログラムを書くこともできる。文章はブラウザの画面に直接書く。画像はデスクトップからブラウザにDrag & Dropしてもいいし、コピーしておいた画像をブラウザ上でペーストしてもいい。Nota社が運営する「Gyazo」サービスに画像が自動的にアップロードされ、そのURLがScrapboxの該当箇所に貼られることにより、Scrapboxはその画像を表示する。同様にweb上の他所にある画像のURLを貼り付けることによっても、Scrapboxに画像を表示することができる。動画はYouTubeのリンクを貼れば、そのままエンベッドして表示される。画像も映像も、Scrapbox上に貼り付けられるのはあくまでもURLという文字列である。画像や映像を複製しない。Scrapboxはすべての情報をテキストのみで扱う仕組みだ。だからデータのサイズが小さく抑えられ、環境を問わず快適に動作するのだ。 Scrapboxでは、内容の如何を問わず、段落(行頭から改行まで)が情報のまとまりの最少単位になる。段落の頭には「・」が付き、段落ごとに固有のURLが付与され、最終編集日時を表示可能。段落左端にあるテロメアにマウスオーバーして表示される付箋にマウスオーバーすると、厳密な最終編集日時が表示されるし、それをクリックすると、その段落に付与されたURLがURL欄に現れる。そのURLを他のページや他のサイトに貼れば、その段落を直接参照できるのだ。
また段落の最終編集日時から時間が経過するにつれて、その段落左端のテロメア自体が細くなっていく。情報の鮮度を直感的に表現するのだ。最終編集後に初めてそのページを開く時には、普段はグレー色のテロメアがグリーンに変わるので、初見の段落を見逃すこともない。
テキストエディタ、あるいは法律文書の起案環境としてScrapboxが魅力的である理由のひとつは、段落の自在な移動機能にある。任意の段落にカーソルを置いた状態でcontrol+↑・↓・←・→を押すと、その段落が上下左右に移動するのだ。例えばブレインストーミングのように思いついた項目を改行しながら列挙した後、control+↑・↓によって順序を入れ替えつつ、内容のまとまりを作っていく用途に向いている。またcotrol+←・→によって、段落をインデントできる。大項目の下に中項目(子項目)を、その下に小項目(孫項目)を、といった階層を容易に表現できるのだ。ブレストの例であれば、前述の方法で項目を集めてまとまりを作った後、そのまとまりに見出しを与え、各項目は右にインデントして箇条書きとするといった用法だ。またoption+↑・↓・←・→なら、下位の項目を伴ったまま段落の移動ができる。なお、段落の頭にtabや半角または全角のスペースを置く方法によっても、その段落が右にインデントされる。
段落移動機能のおかげで、ページ内の情報を階層構造によって扱える。いわゆる「アウトライン・プロセッサ」(アウトライナ)なのだ。それもweb上でツリー状に情報を扱う他の環境より、自由度が高い。例えば、他の環境の多くは項目の下に作れるのは1段階下の子項目だけだが、Scrapboxは何段階右にずらしてもよい。また段落冒頭にはデフォルトで「・」が付くが、半角数字+半角ピリオド+半角スペースを段落冒頭に書くと、「・」は消え、数字による箇条書きに変身する。数字は連番である必要がない。
本文の下にはLinks。前述のようにリンク先のカードが並ぶ。本文中に書かれたタグに該当する項目と、そのタグを持った他のページがカード状に表示されるのだ。これによって関連ページが一覧され、容易にページを遷移して閲覧や編集が可能である。
ページ上部中央には検索窓が配置されている。プロジェクト内にある特定の文字列を検索によって抽出できるのだ。
ページタイトルの右端にある2つのメニュー。上のメニューを押すと、ページの作成時と最終編集時が相対日時で表され、作成者と閲覧数が表示される。下のメニューには、「Copy link」、「Start presentation」、「Hide dots」、「Drawing」、「Duplicate this page」、「Pin at home」、そして「Delete this page」が並ぶ。Copy linkはそのページのURLをクリップボードにコピーする。Start presentationはプレゼンテイションモードに移行して、各項目をプレゼンテイション用スライドの体裁で表示する。Hide dotsは各段落冒頭の「・」を非表示にする、Drawingは描画機能、Duplicate this pageは、そのページと同じ内容のページを作成する、Pin at homeはトップページで各ページがカード状に並ぶ時にそのページを先頭に固定して表示する機能。
最後に画面左上のScrapboxメニュー。各種の設定をしたり、他のScrapboxプロジェクトに移動できる。
個々の情報はページ単位でフラットに扱い、その属性をタグ付けすることによってグルーピングを可能とし、情報の内容に関しては段落を自在に動かしてツリー構造を柔軟に表現できる。Scrapboxはフラットとツリーの両立を実現しているのだ。
Scrapboxはすべての情報をテキストで扱う。だからデータが小さく、動作が軽い。文字に対する装飾もsquare bracketsを使ったテキストで指定する。主だったScrapboxの記法を挙げておこう。
内部リンク:[文字列]──「文字列」というタイトルのページにリンクする。
外部リンク:[文字列 URL]又は[URL 文字列]──例えば成蹊大学のwebサイトへのリンクは、[成蹊大学 http://www.seikei.ac.jp/university/]
太字:[* 文字列]──「*」の数を増やすほど「文字列」のサイズが太く(大きく)なる。
強調:[[文字列]]──文字列を強調表示する。
斜体:[/ 文字列]──文字列をイタリック体にする。
下線:[_ 文字列]──文字列にアンダーラインを引く。
抹消線:[- 文字列]──文字列に抹消線を引く。
アイコン:[文字列.icon]──「文字列」をタイトルとするページの最初にある画像をアイコンとして文章中にインライン表示する。
ユーザーアイコン:[ユーザー名.icon]──ユーザーが自分のユーザー名のページを作成してあると、そのページの最初の画像がアイコンとして表示される。control+iで入力できる。
引用:> ──行頭に「> 」をつけるとその段落は引用表記になる。
このほか、数式、コード、コードブロック、テーブルなどを表記できる〈注19〉。非常にシンプルなマークアップ言語なのだ。
webサイトを表現するHTMLは<html>と</html>とによって文字列をマークアップしていくが、高度な表現が可能な代わりに複雑である。それを克服しようとしたMarkdownという記法も、HTMLに比べればシンプルだが、依然として一般人には馴染みにくい。その点、Scrapboxは基本的に[ と]とのsquare bracketsのみですべてを表現可能であり、シンプルさを極めている。記法全体に一貫性があり、容易に理解できるので、多くの人にとって使いやすいだろう。
また「settings」というページを作成してCSS〈注20〉を書くことにより、各要素をユーザーの好みのスタイルに細かく指定することができる。さらに自分のユーザー名のページにスクリプト(簡単なプログラム)を書くと、Scrapboxプロジェクトに機能を付加できる。このようなUser CSSとUser ScriptはすべてのScrapboxプロジェクトで公開されているから、公開されているScrapboxプロジェクトから好みのUser CSS、User Scriptをコピーして自分のプロジェクトにペーストするだけで利用可能。「工夫は共有されるべき」とするScrapboxのエンジニア橋本翔氏らの思想が反映されており、賛意を表する。 Scrapboxには、情報を読み書きする通常のインターフェイスとは別に、「Stream」と呼ばれる表示が用意されている。リアルタイムに編集履歴を表示する機能、つまりScrapboxプロジェクトにあるすべてのページのうち、誰かによって何らかの編集が行われている段落を、最新のものから順にリアルタイムに表示する機能である。
グループで利用しているScrapboxプロジェクトでStreamを開くと、今、誰が何をどう編集しているか明らか。文字を書き加え、減らし、図表を追加し、編集していく各メンバーのアクティビティが、段落ごとにありのまま表示されるのだ。それが時系列にリアルタイムで表示されるから、下にスクロールすると過去に遡って、いつ誰がどの段落をどのように編集したかも一目瞭然。Streamを開き続けていれば、グループメンバーの編集の様子を常時観察できる。教育現場でのScrapbox利用において大変有益である。
以上のような機能と魅力を備えたScrapboxは法学教育に適している。中でも法律論文の起案を訓練する環境として最適だ。2017年度に筆者のゼミで実践した成果と具体的な実践方法を記す。
2017年度1年間、筆者が担当するゼミで、司法試験論述式試験の答案を起案する訓練を続けた。その環境としてScrapboxを用いたのである。幸い、ゼミ生の4年生のうち1名は、最優秀の成績で総代として卒業した。また3年生のうち1名は大学唯一、早期卒業(3年次卒業)を認められた。いずれも2018年4月に他大学ロースクールの法学既修者コースに進学している。
法律文書の起案環境としてScrapboxが適している最大の要因は、階層構造をなした文章を組み立てられる点にある。判決文や訴状をはじめとした法律文書は一貫して階層構造をなしている。そのような法律文書の起案を業とする法曹三者としての資質を問う司法試験であるから、階層構造をなした法律文書の起案力を問う試験であり、法律文書一般の体裁に則って書く必要がある。
司法試験の答案は、以下のような階層構造で起案する。
第1
1
(1)
ア
(ア)
判決文など他の法律文書も一般に同様の階層構造をなしている。司法試験ではそれを答案用紙に、各階層をインデントして手書きで記述する。深い階層ほど段落全体を右にずらして書くのだ。
Scrapboxはまさにこのインデントによって階層構造を成す書き方をそのままITで実現している。一般のワープロソフトは、行頭にtabを入れて右にずらしても文章が1行を超えて次の行に伸びると左端まで折り返してしまうため、法律文書の体裁にするためには各階層毎にルーラーの設定が必要だ。Scrapboxは段落全体が右に移動するから、例えば3階層目の(1)から書き始めた文章が1行を超えて次行に折り返したとき、ページの左端ではなく(1)の真下に位置する。これこそまさに司法試験の答案に相当する体裁なのだ。それを特段、個別にルーラーを設定するといった操作や調整を必要とすることなく実現するところに、司法試験の論述答案や法律文書を起案訓練する環境としてScrapboxの優位性がある。
法律問題の論述は法的三段論法が命である。司法試験の論述答案はもとより大学法学部における法律科目の期末試験もすべて法的三段論法を用いて論証する。型が決まっているのだ。論ずべき焦点を明らかにした後、まず第一に条文を根拠として規範を定立する。どのような法律要件が揃うとどのような法律効果が発生するのかといったルールをすべて抽象的に論じるのだ。第二に問題文等で与えられた事実がその法律要件をすべて充足するかどうか当てはめていく。具体的な各事実を抽象的な法律要件に一つ一つマッチングさせていくのだ。一つでも充足できなければその規範はその事実に適用されない。もしすべての法律要件を充足したら、第三にその事実において当該法律効果が発生するとの結論を述べる。以上の手順を経て、第一段で定立した規範がその事実に適用されるのである。
法律問題の論述では、こうした法的三段論法というフォーマットを、問題文の事実に現れる一つ一つの法律問題に対して繰り返す。だから構造的な論述が不可欠であり、それを複数の問題点に対して順に論じてゆくから、ツリー構造をなす。
したがってそうしたツリー構造を容易な操作で視覚的に表現でき、司法試験の答案で要請される体裁そのままに記述できるScrapboxの仕組みが最適なのだ。これが冒頭で述べた「オンライン共有ノート」たるScrapboxのうち、「ノート」としての秀逸性である。
Scrapboxをインフラとして採用して以降、学生たちの論述力は目に見えて向上した。以下、ゼミ運営の基盤として利用するScrapboxについて論ずる。
Scrapboxをグループで利用するとメンバー全員でノートを共有できる。ゼミでは論述、資料、プレゼンスライドなどすべてのノートを共有するとともに、相互添削環境として絶大な効果を発揮し、ゼミ運営のインフラとなった。
2017年4月、Scrapboxをゼミで使うため、上級生(2、3、4年生)対象に開講している2つのゼミ用にそれぞれScrapboxプロジェクトを作成した。「shioゼミ」プロジェクトと「ドラゼミ」プロジェクトである。「shioゼミ」はゼミ学生全員が一人一つ判例を研究をして年度末に「shioゼミ判例十選」を作成するゼミ。「ドラゼミ」はdrafting seminarの略。起案ゼミである。司法試験の過去問を起案して、論述力を磨く。その二つに加え、年度後期に入った9月には1年生対象に開講する「1年ゼミ」と「LE1」〈注22〉用にもそれぞれプロジェクトを作成したので、ゼミ用プロジェクトが計4つになった。
ゼミは基本的に学生たちの自主運営だ。学生たちが自ら内容を計画し、準備し、ゼミの当日は司会を決め、協力し、運営する。合宿等のイベントも同様に学生たちの運営に任せる。したがって、学生同士で共有する情報は多岐にわたる。協議事項も多い。
従来はChatWorkやLINEといったメッセージングシステムを使っていたが、レスポンスの遅い学生などがいて円滑に進まない状況も生じた。Scrapboxでは学生たちが主体的にアクセスして情報共有するから、コミュニケーションが加速する。例えばゼミ合宿が企画されると、関係する情報がどんどんScrapboxに貼り付けられ、相互にリンクされる。見学先の工場の住所、地図、担当者の連絡先、webサイト、写真、その企業の社長のスピーチ、専門用語の解説、宿泊先候補となるホテル、割引情報、観光地の候補など。各メンバーが少しずつ貢献することで、全体として有機的なデータベースが構築され、合宿というイベントが実り多いものとなる。
4月から半期にわたって、ゼミ運営にScrapboxを使った結果、プロジェクトを4つのゼミで分けずに一つに統一した方がより相乗効果が高そうだと気づいた。そこで学生たちと相談の結果、4つのプロジェクトを統合した。Scrapboxでは各プロジェクトのデータをJSON〈注23〉ファイルで書き出せるため、「ドラゼミ」、「1年ゼミ」、および「LE1」のプロジェクトデータを書き出した。書き出す前に、各々すべてのページにハッシュタグを追加しておいた。「ドラゼミ」プロジェクトの各ページには「#ドラゼミ」を、「1年ゼミ」には「#1年ゼミ」を、「LE1」には「#LE1」を、そして「shioゼミ」には「#shioゼミ」を。
3つのプロジェクトから書き出したJSONファイルを「shioゼミ」プロジェクトに読み込み、4つのハッシュタグをタイトルとするページを作成。すると、例えば「shioゼミ」ページを開けばその下に「#shioゼミ」タグがついたページのカードがずらりと並ぶ。当初はその配列順序を変更することができなかったが、2017年11月6日、トップページと同様、ソート可能になった。本稿執筆時点で「Date modified」、「Date last visited」、および「Most related」の3種類のソートが可能だ。
そうなれば、もう4つのゼミでプロジェクトを4つに分ける必要がない。むしろ、一部のメンバーが重複しているそれらのゼミを統一して1つのプロジェクトとして運営したほうが、利便性が高い。特にゼミ合宿やOB会といったイベントに関しては、すべてのゼミ合同で実施するから、統一すればアナウンスや協議が1カ所に集約される。
次年度(2018年度)もその「shioゼミ」プロジェクトを継続利用する予定である。その際、2017年度に作成した「shioゼミ」をタイトルとする既存のページのタイトルを「shioゼミ」から「2017shioゼミ」に変更すればよい。すると、各ページに付された「#shioゼミ」タグがすべて自動的に「#2017shioゼミ」に変更される。他の3つのページのタイトルも同様に2017を付加することよってタグを変更する。そのあと新たに「#shioゼミ」、「#ドラゼミ」などのハッシュタグとそれをタイトルとするページを作成すれば、2018年度用のページとして継続利用できるのだ。ゼミ運営のインフラとして、今やScrapboxが不可欠である。
なお、「slack」を使うと、Scrapboxの編集をリアルタイム通知できる。連絡に使っているページに関してはリアルタイム通知は便利だし、必要を感じる。しかし日夜各メンバーが論文を編集しているゼミのプロジェクトにおいて、リアルタイム通知のほとんどはノイズである。編集の様子は「Stream」画面を見ればすべて明らかなので通知は不要だ。slackと連携するとすべての編集が通知されるため、真に通知を必要とする連絡は埋れてしまう。 そこで連絡用途には別のシステムを利用している。2017年度はChatWorkを使ったが、2018年度はMicrosoftがOffice 365で提供する業務用チャット「Teams」を利用する。slack類似の「チャンネル」によってトピックを分けることができるなど利便性が高く、成蹊大学が全学生教職員分のアカウントを包括契約しているため、学生や教員の個人的負担なく使えるからだ。MacおよびWindows PCでGoogle Chromeなどのブラウザと専用アプリで利用可能で、かつiPhone、iPad、Android端末用のアプリも提供され、いずれも安定して稼働しており、安心して業務に使える環境が整っているからである。 「最も平均学習定着率の高い学習方法は、他人に教えることである」と言われるがその数値に実証的根拠は見当たらないとされる〈注26〉。学ぶ内容によって適切な学習方法は異なるはずだし、個々の学習者が前提として持つ能力や条件によって各種学習方法の効果も異なるだろう。
他方、新学習指導要領(平成29年3月31日公示)〈注27〉は「主体的・対話的で深い学び」〈注28〉を掲げる。「主体的な学び」、「対話的な学び」および「深い学び」を実現すべく、アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善が要請される。それらの初等中等教育を経た生徒たちが入学してくる高等教育においても、同様にアクティブ・ラーニングの実践が求められる。
1年間、ゼミ等でScrapboxを活用した結果、「主体的・対話的で深い学び」が実践されていることが観察された。以前から学生主体のゼミ運営を続けているが、Scrapboxによってそれが加速した印象だ。以下、アクティブ・ラーニングを柱とする教育用システムとしてScrapboxを用いたゼミの運営手法をご紹介する。
4つのゼミ合計49名の学生が1年間に作成したScrapboxページは1,705ページ。そのうち、「shioゼミ」タグが178ページ、「ドラゼミ」タグが697ページ、「1年ゼミ」タグが114ページ、「LE1」タグが90ページにそれぞれ付与されている。タグ付けせずに使っている学生もいるので正確な数字ではないが、やはり圧倒的にドラゼミでのページ作成数が多い。なお参加している学生数は、shioゼミ24名、ドラゼミ12名、1年ゼミ6名、LE1は13名であり、一部の学生は複数のゼミに参加している。
ドラゼミの進行手順は以下の通りである。
1. ゼミの時間内に司法試験予備試験の過去問を1問、本番同様の答案用紙に万年筆による手書きで起案する。
2. 終了後、その場で手書きの答案用紙をiPhone等でスキャンし、Scrapboxに新たなページを作成して貼る。
3. 当日中にその論述をScrapboxの同じページにテキスト化する(タイピングでも音声入力でも可)。
4. 次週までに学生同士でScrapboxにコメントを書き込んで相互添削しつつ、各自、論述内容に検討を加える。
5. 次週のゼミでは上級生と下級生とが2〜3名のグループを作り、Scrapboxに書かれた下級生の論述内容を検討し議論とアドヴァイスを行う。適宜、担当教員に内容や論述につき質問し、再度検討したり、論述内容を改良していく。上級生は上級生同士で同様のことを行う。
6. Scrapboxの新たなページに書き直して、相互添削、対面による検討、議論、教員への質問等。
7. 6を数回繰り返して学生同士でOKが出たら担当教員に添削依頼。
8. 教員がScrapbox上で添削、コメント。
9. そのページをDuplicate(複製)して修正しつつコメントを消したうえ、相互添削、対面による検討、議論、教員への質問等。
10. 教員からOKが出たらその問題終了。
以上の手順を、2011年に始まった司法試験予備試験の「民法」の過去問のうち直近の2017年を除き、2011年〜2016年の6問について行った。なお、ドラゼミの学生の中には司法試験受験志望者とそれ以外の学生がおり、司法試験受験志望者たちは民法以外の科目についても同様のことを自主的に行っている。
一方、判例研究をする「shioゼミ」は、24名のメンバーを3つのグループに分けたうえで、下記の手順で進めた。
1. グループで相談しつつ、個々の学生が自分の研究対象となる最高裁判所の裁判例を選び、Scrapboxに宣言する。
2. 学生が個人で、地裁、高裁、最高裁の判決文の原文をScrapboxに貼り、その事実の概要をScrapboxに記述する。
3. グループごとのサブゼミで、判決文から2の内容を検討し、内容を精緻化する。
4. 本ゼミで事実の概要を書いたScrapboxの画面をスクリーンに提示しつつ口頭で事実の概要を報告し、他の学生は質問や議論をしつつ、その画面に直接コメントを書き込む。教員も良い点を評価し、疑問や改善案を提示する。その議論の推移を何人かの学生が共同で「○月○日の本ゼミ記録」としてScrapboxに記述していく。
5. その事実に基づき、学生個人がScrapboxに、法的三段論法に則って自己の見解として法律構成を論述する。
6. 5について、サブゼミでグループごとに3と同様の検討を行う。
7. 6について、本ゼミで4と同様の検討を行う。
8. 7までの見解に則って学生個人が、事実の概要、判旨、評釈(自己の法律構成および最高裁判所の判旨に対する評価)を論述する。
9. 8についてサブゼミでグループごとに3と同様の検討を行う。
10. 9について、本ゼミで4と同様の検討を行う。
11. 学生がScrapbox上に最終的な論述を仕上げ、学生全員でコメントした後、教員の添削を受けて修正を繰り返して完成。
以上である。
1年ゼミとLE1は1年生なので、基礎的な訓練や知見の獲得が目的だ。1年ゼミでは著作権法の判例を一つ選んで全員で検討した。そもそも判例を読むこと自体が初めてなので、判例の読み方から始まって、条文の読み方、資料の検索方法など、基礎トレーニングである。毎回の議論で出された疑問を次回までに全員で調査して、Scrapboxに書き、ゼミではそれを使って判決文と条文とを読み解いていくことの繰り返しであった。LE1は司法試験予備試験の過去問1問を初回に書き、半期すべてをかけてその検討を加え、最終的に再度論述した。
2017年度このようにScrapboxを導入したことで、ゼミにおけるITの使い方が質的に転換した。前年度までは各回のゼミで学生が作成して配布するハンドアウト(いわゆる「レジュメ」)をPDFファイルにして「サイボウズLive」〈注29〉で共有していた(紙にはプリントしない)。しかしそれは、クラウドサービスを使っていながら、事実上、PDFファイルの共有と情報共有という単純な用途にしか利用していなかったのである。 それに対してScrapboxはゼミ運営の全面的なバックボーンとなっている。その使われ方は多様である。
学生が「書いて考える」キャンバス
資料を収集・共有するキャビネット
論述や起案を共有する通信メディア
報告者が配布するハンドアウト(レジュメ)
プレゼンテーションを行うスライド
共同研究のブレインストーミングを行うホワイトボード
ゼミの進捗を記録するノート
協議を進めるチャット
各種の掲示によるアナウンスメント
原稿を執筆する答案用紙
シンプルであるがゆえに、Scrapboxが担う機能は多様であり、多用途である。従来、用途ごとに異なるツールを使っていた諸機能がScrapboxにまとまることで求心力が高まり、学生たちがScrapboxに「滞在」して作業を行う時間が増えるのだ。
すべてがScrapboxにあるから、学生たちはいつもそこで活動する。透明性が高く、諸活動が他のメンバーや教員から可視化され、またテロメア等によるタイムスタンプやStreamによって活動の履歴も残る。アクティブ・ラーニングを促進する環境としての高い適性を有しており、旧来の各種「グループウェア」に比してより大きな自由度と柔軟性があって、さながら「groupsphere」ともいうべき「場」ないし「空間」を提供している。
そのようなScrapboxであるから、ゼミ運営に利用するメリットは多岐にわたる。ドラゼミを中心としてメリットを挙げ、それぞれ新学習指導要領にいう「主体的・対話的な深い学び」とのつながりを指摘しよう。
メンバー全員がいつでも見ることができる環境で書くことによって、人に読んでもらう文章を書く、読まれることを意識して伝わる表現を心がける、読む相手を想定して書く、社会に対して責任を持って発信するといった姿勢が身につく。
学生が手書きで起案した場合、直後に答案用紙のスキャン画像を全員でシェアすることによってすぐに互いの内容を参照し検討を開始できる。
起案したその日のうちにテキスト化すると自分の論述を振り返る機会を当日中に持つことにより「主体的な学び」が始まる。
答案のスキャンとテキストを全員にシェアするから次回のゼミまでの1週間、個々の学生が自分の都合のいい時間に開いて読み、コメントを書き込むことで「対話的な学び」が始まる。
タイピングで起案する場合Scrapbox上に直接書くので、書いている状況をリアルタイムで教員や他のメンバーが見ることができる。
過去に遡って各メンバーの起案を見ることができるので、論述力のある先輩が過去に書いた起案を読むことができ、その成長の足跡をたどれる。
自分と異なる見解の答案を複数読むことにより、疑問がわき、問題文を読み込み、条文を深く解釈し、資料を調べるといった「主体的な学び」が展開する。
文字でコメントし、それに対して文字で回答するというやりとりによって議論が明確化されて深まり、「対話的な学び」が発展する。
文字で議論をしていると実際に会って話す欲求が高まり、ゼミの時間外にも学生同士、自主的に都合を合わせて頻繁に会って議論するため「主体的・対話的な学び」が進展する。
実際に会うことができない場合にも「対話」欲求からZoomやSkypeを使って対面で口頭の議論をしつつ互いのScrapboxの答案に基づいて問題の検討を進めるので、時間と空間を超えた「主体的・対話的な学び」が展開する。
複数の学生の見解から多角的に検討し、学生同士でよく議論した末に自分たちでは解決困難な問題に行き当たってから教員に対して質問を発するから、その質問内容は具体的かつ深遠であり、学生たちの力で「深い学び」を掘り下げてゆける。
学生の質問に対して教員がさらに本質的な問いや見解その他アドヴァイスを提示することにより、「深い学び」がより深化する。
一人の論述に対する教員のコメントを全員が読むから、教員は同じ指摘を繰り返さずに済む。
MacやWindows PCのみならず、すべての学生が常時持ち歩いているiPhone/iPadなどの携帯端末で、時間と場所を問わず添削やコメントによってゼミに貢献できる。
Streamによって学生たちのパフォーマンスを教員とすべてのメンバーがいつでも観察できる。
テロメアによって段落ごとの最終編集日時が明確。
明示的に日時を記録する場合は、control+tによってタイムスタンプを押せる。
control+iによってアイコンを記すことにより、発言者(書き込み者)が明示される。
このように論述指導にScrapboxを使うメリットは多岐に渡り、「主体的・対話的な深い学び」を実現する環境としてもScrapboxの利用が奏功しているのだ。
司法試験受験生の論述起案にITを使うというと、司法試験の論述指導経験者から「起案は手書きに限る」との声が聞こえてくることがある。確かに司法試験の現場は手書きで答案を書くから、答案用紙に綺麗な文字で体裁の整った文章を手書きする訓練は必須であり、重要である。その点は論を待たない。ITを使う場合でも手書きによる起案の訓練を継続すべきことは当然である。
一方、実務はすべてITだ。法曹実務家が業務上の文書を起案するとき、そのほぼすべてはコンピュータを使う。司法試験がゴールではなくスタートであり、法曹実務家としてのキャリアは起案する文章の内容的なクオリティに左右されるといっても過言ではない。いかにして相手に伝わる文章を論理的に書くか。文章を組み立てる訓練を積むことが肝要なのである。文章に表現する言葉運びの訓練は、答案用紙という紙面にどのような形の文字を書き、どのようにレイアウトするかといった「かきかた」の訓練とは次元を異にするのだ。
泳げるようになりたかったら泳ぐしかない。レースで勝ちたかったら泳ぎこみを続けるしかない。適切なコーチのもと、泳ぎを繰り返して洗練させていくのだ。訓練の量が閾値を超えた時、質的転換を得る。同様に、文章を書けるようになるには繰り返し書くしかない。その訓練の手段として手書きには限界がある。
ITを使う起案は、何度でも書き直せるし、十分に推敲ができる。Scrapboxでは論述したページに教員などからのコメントが文中に書き込まれた場合、そのページを「Duplicate」することによって、既存の論述とコメントを存置したまま新たなページに原稿を複製し、コメントを消しながら推敲を加えてより良い文章を書き起こすことができる。ゼミの学生たちは一つの問題に対して10回以上も書き直しをしており、その論述内容を読むと、推敲し書き直しを繰り返すほどに着実に文章力が磨かれていることが明らかである。またタイピングは手書きするより高速に書けるから、同じ時間内により多くの分量を起案できる。正しくタイピングできていれば、起案のしすぎで腱鞘炎になる心配もない。Scrapboxのような仕組みを使うとオンラインでリアルタイムに文章を共有できるから、在宅の友人同士で添削することも可能だし、なかなか会えない忙しい教授や離れた場所で仕事している先輩弁護士に添削してもらうこともできる。
そのためには最初にタッチタイピング(ブラインドタッチ)を完全に身につけることが大切だ。ゼミの学生たちを見ていると、本気で訓練した学生は3日程度で身につけているし、長くても約2週間あれば習得可能なスキルである。
学生(授業を履修する者)によるScrapboxの利用は、ゼミのみならず大教室の授業でも可能だ。授業時間中に学生が書いて提出するリアクションペーパーや課題として授業時間外に記述して提出するレポートなど(以下、「レポート類」という)のIT化である。現在、そのような記述式の提出物は、授業中は手書きで作成することが多いし、レポートはMicrosoft Wordなどのワープロソフトによって作成してPDFで提出するのが一般的である。しかし教員は大量のファイルを扱うことになり煩雑だ。
例えば300人が履修する半期15回の授業で毎週提出する場合、そのファイル数は4,500。そのような授業を複数担当すると、1万ものファイルを扱うことになる。大学にレポート提出機能を備えたポータルサイトなどのシステムがあるとしても、そこからダウンロードした1万のファイルを教員一人で間違いなく取り扱うのは煩瑣である。
もしレポート提出用のポータルサイトシステムがない場合はメイルで提出することになるが、そのような大量のメイルを扱う作業量は膨大だ。学生からメイルを送信したものの教員へは不達となるような事故も生じうるし、添付を忘れることもある。ファイルを大量にやりとりする際にウィルスなどの不適切なファイルを伴う可能性もあって安全とは言い難い。学生の成績評価に直結する情報であるから、その扱いには十分な注意を要し神経を使う。それらのコストを回避すべく、結局多くのレポート提出が紙媒体になってしまう。教員は大量の紙を扱うことになり、その運搬や作業も煩雑だ。
Scrapboxを使うとレポートの「提出」が不要になる。メイルで送る必要もないし、紙にプリントして運搬する必要もない。学生が作成したScrapboxプロジェクトにレポート類を書き、教員がそれを閲覧して評価すればいい〈注30〉。
方法は2通りある。「Private Project」で行う方法と「Public Project」で行う方法だ。Private Projectの場合、学生本人と担当教員のみが当該プロジェクトを閲覧、編集できる。一方、Public Projectの場合、学生と担当教員との間で使っている限り、その使われ方はPrivate Projectと同様である。異なるのは、Public Projectであることから、そのURLを知っていれば誰でもアクセス可能である点である。しかし、URLを非公開にとどめ、そのURLを他の公開されたwebサイトに貼るといったことをしない限り、他者がアクセスすることはない。またGoogleなどの検索エンジンは公開されているwebサイトに貼られたURLをたどって検索用のインデクスを作成する仕組みであるから、公開されているwebサイトにその学生プロジェクトのURLを貼らない限り検索されることもない。したがって他者が類推できないURLにしておけば、閲覧できるのは基本的に当該学生本人及び担当教員のみである。なお、同じ授業を履修している学生同士でURLを類推してアクセスすることは考えられるが、教室で紙に書いて授業内ペーパーを提出する場合であっても、試験ではないので、周囲の学生が書いている内容を参照することは妨げられていないし、むしろゼミのように学生同士で協力することが推奨される授業もある。またレポートも提出までの間に協力することは妨げられない。編集日時がScrapbox上のタイムスタンプによって可視化されている(段落ごとにテロメアで閲覧可能)から、複数の学生が同じ論述を書いていたら最先の学生とそれ以外を特定することは容易である点において、紙のレポートよりも優れている。
具体的な手順は以下のようになる。「Private Project」で行う方法は下記の1〜6、「Public Project」で行う方法は下記の1, 3, 4, 5, 6である。
1. 教員が指定したプロジェクト名で学生がScrapboxプロジェクトを作成する。その際、Private ProjectとPublic Project、いずれかを教員が指定する。プロジェクト名の指定は例えば2018年度の「著作権法」という授業で学籍番号「abc12345」の学生であれば「2018copyrightlaw-abc12345」であり、そのURLは「https://scrapbox.io/2018copyrightlaw-abc12345」となる。教員がScrapbox上に例を作成しておけば学生は学籍番号部分のみを変更するだけで間違いなくプロジェクトを作成できる。
2. Private Projectの場合は、その招待URLを何らかの方法(メイル、チャットなど)で学生から教員に送付する。教員がそのURLにアクセスすると、学生だけでなく教員もそのプロジェクトの閲覧と編集が可能になる。教員は必要に応じてコメントを書き込むことができる。
3. レポート類は学生のプロジェクト内に教員が指定したページタイトルをつけたページを作成して書く。例えば2018年4月1日の課題であればタイトルを「20180401」としたページを作成すればいい。そのURLは「https://scrapbox.io/2018copyrightlaw-abc12345/20180401」となるから教員は学籍番号部分を変更すれば全履修者の課題を開くことができる。
4. 学生がレポート類を起案、作成。
5. 教員は大学から提供される履修者リストをエディタ等で加工して、学生氏名、学籍番号に各学生のURLが並んだリストを半自動的に作成する。それを教員の非公開Scrapboxページに置けば、URLをクリックするだけで当該学生のペーパーやレポートを連続して読むことができる。
6. 教員の非公開プロジェクトに「採点ページ」を作成し、各ペーパーやレポートの評価をテーブル(表)として書く。学期末にはそのテーブルからcsvで書き出す機能を使ってデータを取得し、表計算ソフトで集計すればよい。
Scrapboxを使うメリットとして以下の諸点が挙げられる。
学生は端末の環境を問わず、ブラウザさえあればレポート類を作成できる。MacやPCを持っていない学生でも、iPhone/iPadやAndroid端末といったスマートフォンのみでレポート類の作成が可能である。
授業中や終了直前に短時間で書いてもらう比較的短いペーパーの場合、ワープロソフトを開くより、学生の手元のスマートフォンでブラウザにさっと書けると簡便である。
ワープロアプリ等を必要としない。
段落ごとに編集日時が記録されるから、各段落をいつ書いたのか、いつ編集したのかという情報を教員が閲覧できる。提出締切以降に書いたり編集したとしても明らかである。
文中にwebサイトの情報を引用(著作権法32条)した場合、出所の明示(同48条)として記載するURLがそのままリンクとして機能する。リンク記法によってURLを文中に埋め込むこともできる。
レポートに画像も動画もプログラムも埋め込めるので、紙よりも表現力豊かなレポートを作成できる。
ペーパーに書かれた内容のうち質問などを教員が切り出して次週の授業資料として利用するのが容易。
教員はファイル管理が不要になる。履修学生が多くてもポータルサイトから大量のファイルをダウンロードして(あるいはメイルを受信して)一つ一つのファイルを開くといった作業から解放される。
期末試験も同じ方法で実施可能。
以上のように、学生の授業内ペーパー、課題レポート作成環境にScrapboxを使うことには多くの利点がある。その際、学生のScrapboxプロジェクトを「Private Project(非公開)」に設定する場合と「Public Project(公開)」に設定する場合とでは著作権法上の意味合いが若干異なる。そこで、両者を著作権法の観点から検討する。
まず両者に共通の前提として、著作権法上の問題が生じうるのは、学生がレポート類に他人の著作物を使う場合である。学生自身が自力で書いた文章、プログラム、作成した図表、撮影した写真や映像といった表現に関しては他人の著作権に関する問題は生じない。また他人が作成したものであっても著作物(2条1項1号)に該当しないものなら、それを利用しても著作権に関する問題が発生しないのは当然である。同様に、他人の著作物であって著作権がないもの(すでに消滅した場合など)についても著作権についての顧慮は不要だ。
次に、他人の著作物を使う場合に関して、著作権法32条に規定する要件に合致する方法で「引用」し、「出所の明示」(48条)をする限り「利用」(著作権の対象となるすべての使い方)が可能であるから、やはり著作権の問題は生じない。このうち出所の明示に関してはweb上の情報を利用する場合、レポート類にURLを記述ないし埋め込んでリンクを貼ればよい。なおScrapboxの場合、web上にある画像、映像といったリソースに関してはURLを記述するだけであってそのリソースそのものは複製していない。ITとネットワークを使った「引用」および「出所の明示」の利点だ。
教育上、学生たちが著作物の正しい「引用」(32条)の方法を学ぶことが大切である。学生がそのルールを遵守すれば他人の著作物を「引用」によって「利用」することができ、著作権の問題は生じない。なお氏名表示権(19条)および同一性保持権(20条)については問題となる余地はある(50条)ものの32条と48条の要件を満たす場合は一般にそれが問題とされることはないであろう。
著作権の問題となりうるのはそれ以外の場合である。実際には32条に則って利用する限り問題とされる状況はないはずである。学生自身の表現以外の部分であって、レポート類に他人の著作物を利用しており、正しく「引用」せず32条が適用されない場合に以下のような検討が必要となる。本来は「引用」ルールに基づいて他人の著作物を利用すべきところ、そのルールに習熟していない学生がいわゆる「コピペ」をすることはあり得るから、教育プロセスであることに鑑みて、以下の検討を加える。
Private Projectの場合、当該プロジェクトを閲覧、編集できるのは学生本人と担当教員に限られている。特定の2名であるから、著作権法上の「公衆」概念(2条5項参照)には該当しないため、著作権法に規定される「著作権に含まれる権利の種類」(第2章第3節第3款に規定される21〜28条)のうち、「公衆」との接触を伴いうる行為に限定されている22条〜26条の3は適用されない。したがってこの場合に適用可能性のある支分権は「複製する」行為に対する21条、「翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する」行為に対する27条、および二次的著作物の原著作物の権利に関する28条である。
35条で、営利を目的としない教育機関における授業担当者および受講者がその授業の過程での使用を目的とする場合には必要と認められる限度において著作権者の利益を不当に害さない範囲で公表された著作物の「複製」が認められている。また43条でその「翻訳、編曲、変形又は翻案」も認められている。これは一般的な紙で書くレポートやワープロソフトで書くレポートとScrapboxとに共通である。したがってScrapboxによるレポート類をPrivate Projectで書いて担当教員と共有する限り、従来型の紙やワープロソフトを使ったレポート提出方法と同様だ。
次にPublic Projectについて検討する。学生と担当教員との間における利用態様はPrivate Projectの場合と同様である。Public Projectの場合でもURLを公開しない限りそのURLは非公開であり、その内容もまた非公開である。ただしそのURLを知るだけでアクセス可能である点が異なる(Private Projectの場合はURLを知ってもアクセス権がないと一切閲覧、編集できない)。しかしそのURLを他の公開されたwebサイト等に貼るなどして公開しない限り、URL自体が非公開なのであるから他者がアクセスすることはない。URLが非公開であるということは前述のとおり検索エンジンによって検索されることもない。閲覧するのは当該学生本人及び担当教員のみである。
Public Projectのそうした使い方は著作権の各支分権の要件に該当するであろうか。21条、27条、および28条に関してはPrivate Projectの場合と同様に考えられるので、35条や43条によって、問題とならない。
22条以下については「公に」の要件に該当するかを検討する。「公に」とは「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」いることをいう(22条)。授業を履修する学生は授業の課題としてレポート類を書き、担当教員に提出する。その目的は単位取得要件の充足のためにレポート類を担当教員に共有してその閲覧に供することであり、担当教員以外の者の目に触れることは一切目的とせず望んでもいない。実態としてもURLが故意または過失によって公開のwebサイトに貼られない限り、他者によって閲覧されることもない。
その点、Dropbox、Evernoteといったファイル保存用クラウドシステムは共有用URLを生成する機能を備えている。非公開で保存しているファイルや情報を特定の人と共有するために固有のURLを生成する機能だ。ユーザーがそのURLを先方に送信することによって先方はそのファイルや情報を閲覧、ダウンロードなどできる。当事者は一切「公開」を望んでおらず、特定人の間でファイルや情報を共有することだけを目的としており、実際その他の者がそれを閲覧することはない。仮にそのURLが他者に知られるとアクセスされてしまうが、通常は当事者自らそのURLを公開することはない。
このように非公開のURLを使って非公開の情報を特定人の間で共有するという方法は今日、一般的かつ世界的に利用されており、それらもやはり「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」いない。同様に、ScrapboxのPublic Projectも「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」おらず、また実際にURLを公開せず非公開のものとして当事者間にとどめておく限り他者からのアクセスはない。
公園の木陰でサキソフォンの練習をしている人がいても誰も気に留めないし、投げ銭をする人もいない。そのサキソフォンの演奏は単なる個人的な練習である。同じ楽器の演奏でもストリートで往来の人々の方を向いてするのとは目的が異なる。そのサキソフォンの音がたまたま通りかかった人の耳に届くことがあっても奏者の目的が変わるわけではなく、人に聞かせることは目的としていないから、「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」いないのである〈注31〉。URLを非公開で共有することによる情報の共有もその性質は同様だ。他者の目にとまることもまずない。
したがって学生のレポート類を教員に提出する目的でURLを共有する場合、「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」いないので、22条に定義される「公に」に該当せず、それを要件とする22条、22条の2、23条1項、24条、25条の対象ではないと考えられる。また「複製物」による頒布、譲渡、または貸与はないから26条、26条の2、または26条の3の適用もない。
最後に検討を要するのは23条である。教員にレポート類を提出する目的でScrapboxのPublic Projectを用いてURLを教員に提供することは、「公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う」に該当するであろうか。「送信可能化」(第2条1項9号の5)該当性から検討する。
「送信可能化」とは「次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすること(以下略)」と定義されており、「自動公衆送信し得るようにする」ことが要件である。
「自動公衆送信」(2条1項9号の4)とは「公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)」であり、「公衆送信」(2条1項7号の2)とは「公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。」と定義されており、「公衆によつて直接受信されることを目的として」いることが要件である。
授業を履修する学生は、授業の課題としてレポート類を書き、担当教員に提出する。前述のとおり、その目的は単位取得要件の充足のためにレポート類を担当教員に提出しその閲覧に供することであり、担当教員以外の者の目に触れることは望んでいない。実際、故意にURLを公開しない限りそのレポート類の存在が公衆に知られることもなく検索されることもない。「公衆によつて直接受信されることを目的」としていないことは明らかであろう。仮に故意にURLを公開のwebサイト等に掲載した場合は、「公衆によつて直接受信されることを目的と」する「送信可能化」に該当する行為は、ScrapboxのPublic Projectでレポート類を作成する行為ではなく、URLを掲載した行為である。よって、教員に提出する目的でScrapboxのPublic Projectに他人の著作物を用いる行為は、URLを非公開で扱う限り「送信可能化」ないし「公衆送信」に該当せず、23条の対象ともならないと考えられる。
したがって、レポート類の提出にScrapboxのPublic Projectを用いる場合、URLを非公開とするのであるから、Private Projectの場合と同様、著作権の問題は生じないと考えられる。繰り返すがレポート類に他人の著作物を利用する際には、適正な「引用」を行うべきことを前提としている。
Scrapboxにはプレゼンテーションモードがある。Scrapboxに項目を立てて書くと、プレゼンテーションのスライドのように表示する機能だ。筆者も講演等ではPowerPointやKeynoteといったスライドアプリは使わず、Scrapboxの画面をそのままiPadからスクリーンに映して用いている。なお、授業では話しながらリアルタイムに手書きで板書をしたいため、iPad ProとApple Pencilを使って、「MetaMoJi Note」や「GEMBA Note」に手書きし、その画面をそのままApple TVを介して教室のプロジェクタからスクリーンに投影する手法を併用している。
学生が毎回の授業で書くレポート類にScrapboxを使う場合、やはり授業の情報提供にもScrapboxを使う方がよい。学生が書いたレポート類から質問事項などを切り出して授業に使うにはScrapboxが最適だからである。Scrapboxを開発した増井俊之教授は、授業でもScrapboxを用いていらっしゃる〈注32〉。
授業担当者のScrapbox利用法としては、教員から学生に対する情報提供やプレゼンテーション画面の提示、そして従来紙で配布していたハンドアウト(いわゆる「レジュメ」)のIT化が主として考えられる。複数のツールで行なっていた情報提供をScrapboxに一本化すると教員の作業が効率化する。特に紙のハンドアウトを配布している教員は作業が大幅に削減され、省力化になる。Microsoft Word等のワープロソフトでレジュメを作成し、履修者の人数分印刷し、運搬して配布する労力と資源の無駄がScrapboxによって削減されるのだ。ScrapboxはWordよりも簡便なので作業効率が高まるはずである。学生はScrapboxの画面を手元のスマホ、iPad、あるいはMacやPCで閲覧すればいい。
その方法はやはり2通りある。Private Projectを使う方法とPublic Projectを使う方法だ。
1. 授業用のScrapboxプロジェクトを作成して、従来スライドとして提示していたような内容やレジュメとして配布していた内容を書く。レジュメに関しては新たに作成するほか、Wordなどのワープロソフトで過去に作成したデータをコピーしてScrapboxにペーストしてもよい。
2. Public Projectの場合はそのURLを、Private Projectの場合はその招待URLを、授業用のポータルサイトなどに掲載する。またはURLをQRコードにしてスクリーンに映し、学生たちのスマートフォンで読み取ってもらう。大学がポータルサイトを用意していない場合は、メイル等で学生たちに直接送付したり、Mac/iPhone/iPadであればAirDropによる送付も可能。一定期間が過ぎたら招待URLをリセットすれば安全だ。
3. Public Projectの場合、学生がそのURLにアクセスすれば内容を閲覧できる。Private Projectの場合、学生が招待URLにアクセスすればそのScrapboxプロジェクトの閲覧と編集が可能になる。
4. 学生は、その日の授業用Scrapboxページを参照しながら授業に参加する。穴埋め書き込み型のレジュメの場合は、教員が従来の紙によるレジュメと同内容をScrapboxに作成し、学生が授業の際にそのページをコピーして自分のScrapboxプロジェクトにペーストし、穴埋め作業をしながら授業に参加すればいい。
授業担当者がScrapboxなどのwebサービスを使って授業の履修者に対して資料を提示する方法を用いるとき、他人の著作権に関してどのような対応が必要になるか。
前提として、授業担当者自身が書いた文章や作成した画像などの資料を用いる限り、他者の著作権について顧慮は当然不要。また他者の作品のうち著作物ではないもの、あるいは著作物であっても著作権がないものを利用する場合も著作権についての顧慮は不要だ。
他人が著作権を有する著作物を使うにはその著作権者から利用の許諾を得るのが原則だが、許諾を得ずに利用できる態様もある。第1にリンクを置く方法だ。すでにweb上に公開されている著作物に言及する場合、URLを置き、参照すれば良い。URLを記述したに過ぎないから、当該著作物を複製せず公衆送信もしないため、著作権の問題とはならない。公衆送信しているのはその著作物を公開している者である。
第2に、32条に従って「引用」し、48条に従って「出所の明示」をする方法である。公表された著作物は32条の要件に則って「引用」し48条によって「出所の明示」をすれば「利用」できる。「利用」とは21〜28条に規定する各行為の総称であるから「公衆送信」を行うこともできる。論文で行う「引用」と基本的に同じだから、研究者でもある大学教員なら慣れている方法である。
そこで以下、「引用」以外の利用が可能かを検討する。紙によって配布するレジュメと異なるのは、35条の範囲を超える点だ。35条は授業の過程における「複製」を認めているから紙にプリントして配布することができるし、38条によって「公に上演し、演奏し、上映し、又は口述する」ことができるのでスライドにして映すこともできる。Scrapboxでもプレゼンテーションとしてプロジェクタでスクリーンに投影するといった方法で提示するなら、従来通り、著作権の問題は生じない。
問題となりうるのは、Scrapbox等のwebサービスを用いて他人が著作権を有する著作物を複製し、それをスクリーンに投影するのではなく授業の履修者が持つIT端末に対して有線・無線LANによって配信する行為である。例えば著作権のある書籍のページをスキャン(複製)したり音楽や映像を取り込んで、「引用」の要件を満たすことなくScrapboxのページに載せて授業の履修者の閲覧に供するといった行為が「公衆送信」に該当するかを検討する。
「公衆送信」とは「公衆によつて直接受信されることを目的として」いることを要件とする(2条1項7号の2)ところ、著作権法上「公衆」とは「特定かつ多数の者を含む」ものと定義される(2条5項)。学生は大学との間に継続的契約関係がありかつ当該授業の履修者という属性を持つから「特定」されているものの、そのクラスの履修者数が「多数」であれば「公衆」に該当する。「多数」の概念は具体的な人数が規定されていないが、概ね50人以上と考えられている。よって、およそ50人に満たない少人数のゼミや語学のクラスなら「公衆」に該当しない一方、大教室の授業において学生数が50人を超えてくると「多数」であり、「公衆」に該当すると言わざるを得ない。
従って、約50人に満たない語学やゼミなど少人数クラスでScrapboxのようなwebサービスを使って他人の著作物を提示する行為は「公衆送信」には該当せず「公衆送信権」(23条)の対象とはならない。35条とあいまって、無許諾で行うことができる。
他方、大教室の授業でScrapboxなどを使って学生の手元の情報端末に他人の著作物を提示する行為は「公衆送信」に該当しそうだ。授業の履修者という特定かつ多数の「公衆」「によって直接受信されることを目的として」おり、Nota社が提供するScrapboxというサービスのサーバを経由するから「同一の構内」に留まらない無線通信(Wi-Fi)および有線電気通信(LANとインターネット)の送信を行なっているからである。
この点35条2項は、学外のサーバに置いた他人の著作物を教員と同一の教室内にいる学生たちがWi-FiやLANを使って同時受信する教育方法を想定していないため、適用できない。したがって他人の著作物を引用によらずに授業で履修者に見せたいときには、プロジェクタに投影するか、紙にプリントして配布するしかない。
今回の改正案で対象とされているのはまさにその点である。35条を以下のように改正するよう提案されている。下線部は変更部分として文部科学省による案文に付されているものである。
(学校その他の教育機関における複製等)
第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
3 前項の規定は、公表された著作物について、第一項の教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第三十八条第一項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合において、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信を行うときには、適用しない。
従来35条が認めていた「複製」に加え「送信可能化」を含む「公衆送信」をその対象としつつ、「公衆送信」の場合には補償金を支払うものとする規定である。これについて文部科学省は次のような説明を加えている。 2 教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備(第35条等関係)
・ICTの活用により教育の質の向上等を図るため、学校等の授業や予習・復習用に、教師が他人の著作物を用いて作成した教材をネットワークを通じて生徒の端末に送信する行為等について、許諾なく行えるようにする。
【現在】利用の都度、個々の権利者の許諾とライセンス料の支払が必要
【改正後】ワンストップの補償金支払のみ(権利者の許諾不要)
教育のIT化に前向きなように見えるが、果たしてそうであろうか。紙にプリントして配布するなら無許諾かつ無償でできるし、プロジェクタでスクリーンに投影するならやはり無許諾かつ無償でできることを、ITを使って配信すると有償になる、というルールを前にして、現場はどのように行動するであろうか。正しく「引用」すればやはり無許諾かつ無償で利用できるのだから、「引用」しないでお金を払う道を選択する教員がいるだろうか。
ただでさえIT化に後ろ向きな教育現場は、課金されるのであれば従来どおりでいい、という反応をする可能性もある。すると教育IT化の促進を目的とする改正案でありながら逆に作用し、IT化を進める教育現場の足を引っ張ることになるかもしれない。
前述のとおり、教員が他人の著作物を授業で紹介する際、「公衆送信権」の対象となる状況は多くない。履修者数が「多数」でなければ「公衆」には該当しないし、「多数」に該当する人数の大教室においてもきちんと「引用」して「出所の明示」をすれば「公衆送信」を含む「利用」が可能だ。改正案の「公衆送信」の対象となるのは、「他人が著作権を有する著作物」を教員が授業において「引用」の要件を満たさない方法で同一構内ではないクラウド等を介して「多数」の履修者のIT端末に配信する場合に限られている。そのような状況は多くないだろう。そしてその行為が必要であっても課金されるとなれば、代わりに従来型の紙による配布か、プロジェクタによる投影を用いることになろう。
加えて懸念されるのは萎縮効果である。そのようなルールが不十分な理解のままに流布したとき、授業でIT機器を使って情報を配信するにはお金を払う必要がある、といった短絡的発想につながったり、それならIT機器の利用を見送ろう、と考える教育現場があると、せっかくの改正案が逆効果である。教材として使おうとしている対象が「著作物」か、「著作権」は現に存在しているか、「引用」ルールに則ることはできないか、履修者は「多数」か、「同一構内以外の設備」を使っているか、といった著作権法的な判断を多重に要する課金ルールの導入によってもし教育現場がIT化に二の足を踏むこととなるならば、急速にIT化が進む社会に適した改正案とは言えないだろう。
したがって改正案をもしこのまま施行するなら、制度の十分な周知が必要だ。課金されない「利用」方法である「引用」を教育現場で徹底することも大切である。ScrapboxのようなITによる効果的な教育手法が急速に進歩し普及する今日、著作権法がその環境として法的制度的な下支えとなり、「文化の発展に寄与する」ことを願っている。
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2) 「著作権の保護」はその目的に対する手段のひとつにすぎない。その点で「指定管理団体は、授業目的公衆送信補償金の総額のうち、授業目的公衆送信による著作物等の利用状況、授業目的公衆送信補償金の分配に係る事務に要する費用その他の事情を勘案して政令で定めるところにより算出した額に相当する額を、著作権及び著作隣接権の保護に関する事業並びに著作物の創作の振興及び普及に資する事業のために支出しなければならない。」と定める改正法案第104条の15の文言には違和感を覚える。
3) 改正案について城所岩生教授は「後追いの対症療法的対応に終始する文化庁」が「関係者から収集したニーズを出発点にしているため、現時点で把握されていないニーズには対応できないが、こうした対症療法的対応では急速に進展するデジタル化・ネットワーク化に追いつけないことはこの8年の歴史が証明している」と指摘している。城所岩生「またも失速した日本版フェアユース」アゴラ, 2018年3月28日 5) 本稿の執筆時、2018年2月現在。以下同じ。
7) クラウドで提供されている「クラウド版」のScrapboxシステムを使う限り無償で利用可能。企業や学校内にあるサーバにシステムを置いて使う「オンプレミス版」を必要とする場合はサポートも含めて有償で提供される。
8) 増井俊之「Gyazz - 柔軟で強力な万人のためのWikiシステム」第52回冬のプログラミングシンポジウム予稿集, pp.43-50. 情報処理学会, January 2011.
11) Anyone can read this project, but only members can write.
12) Only members can read and write this project.
16) 塩澤一洋「さがし物はMacにまかせて」月刊ASCII第26巻8号305頁(2002年7月)
20) Cascading Style Sheets:webページのスタイルを指定するための言語体系
22) 「Legal Expert 1」の略。成績優秀者のみが履修可能な上級クラス。司法試験、弁理士試験、司法書士試験などの資格試験を目指す学生が多いが、論述の訓練が目的なので、それ以外の学生も履修している。
23) JavaScript Object Notation:データ記述言語の一種。JavaScriptの構文をベースとして各種のプログラミング言語間でデータの受け渡しに用いられる汎用性を特徴とする。
29) サイボウズ社が運営する無料のグループウェア。2019年4月15日をもってサービスを終了することがアナウンスされている。
31) ストリートミュージシャンなど通行人などに聞かせる目的の演奏は「公に」に該当するが、それが無償でなされている限り、38条で著作権の制限が認められている。