サッカーのルールと法律の授業
そのような「授業」を教室で実践するにはどうしたらいいか。私はその試行錯誤を、教員を始めてから何年もの間ずっと行ってきています。これが「学ぶ」というプロセスに対する私の考え方であり、実践です。今日のお話の本質は何かというと、「学ぶ」とは何か、なのです。もう実は結構しゃべりました。「学ぶ」とは今申し上げたように「learn」、つまり自分で実践して身に付けていくこと、と理解します。そしてそれが法律の分野であれば、法律、条文、ルールを使えるようになること、なのです。
先ほど自転車の比喩を出しましたけれども、私は「授業は体育だ」と本気で思っています。「授業は体育」です。例えば、サッカーの授業で、サッカーのルールを半期15回、毎週毎週、ずっと教室で教えるとします。サカーができるようになりますか。なりません。そんな授業、ありえないです。
法律というのは社会のルールです。ですから社会のルールである法律をこの教室で半期15回、教えたとしても、法律を使えるようにはなりません。サッカーのルールを15回聞いて、サッカーができないのと同じように、社会のルールである法律の話を15回聞いただけでは、ルールを使った仕事、ビジネス、契約、何もできないです。できるようになりません。
どうやったらサッカーできるようになるかというと、サッカーのルールの大枠をとりあえずは知ったうえで、そのルールを実際に使ってみることで身に付いてゆくのです。ボールは足で蹴るのであって手で触っちゃいけないよ。これはルールです。そのルールを知ったら、実際に仕事、ではなくて、試合をやってみる。イレギュラーな球が飛んで来て、手で当ててしまった。「ハンド!」あ、そっか、これがあのルールの適用例なんだな、と身をもって体得するわけです。
もっと複雑なルール、例えばオフサイドだって、実際それはこういうルールです、と頭で知る必要はあるけれど、練習試合をやってみて初めてその意味がわかってきます。例えばディフェンダーのディフェンスラインをどのように動かすとオフサイドトラップをかけることができるか、というのはちょっと高度ですけれども、実際に体育の授業の中で体を動かして、サッカーに習熟する過程で実践することによって身に付くわけです。実践することで、本当に使えるスキルを会得できるのです。そんな高度な話だけでなく、リフティングをする、パスを出す、パスを受ける、これ全部実際にやってみて初めてできるようになるスキルです。
ですから、社会のルールである法律を教える過程もそうでありたい。もちろん体育の授業ほど、実際にやってみられることばかりではないのはことの性質上当然です。刑法199条「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。」を知って、実際にやってみることはできないですよ。やってみられない。だけど、本当に実際にやらなくても、シミュレイションすることはできます。
今は自動車の免許を取ろうと思ったらば、シミュレイタを使います。いままで車を動かしたことがない人がいきなり実物の車を動かしたらば危険でしょうがないから、まずはシミュレイタでやってみますね。教習所でなくても、DSとかWiとかでもリアルなシミュレイションができる時代ですけど。
教室では、実際にはできないことでもできる限りいろんな形でシミュレイションをすればいいのです。そういう時間をこの授業の中で、いかに確保するか。スキーで1分30秒しか滑っていない子供たちをいかにしたら、2分滑り、3分滑るようにできるか。それを工夫するのです。
もちろん同時に、知識やアドヴァイスを与える時間も必要ですけれども、そのアドヴァイスを聞いて、知識として知っただけではまったくスキーというスポーツに結びつかない。アドヴァイスの時間は最小限にして、そのアドヴァイスを使って子供たちが実際に滑ってみるという時間を長く確保すればする程、その子はスキーが上手くなるはずです。