「デジタル黒板」のメリット
さあ、iPad。このiPadが世の中に出た時に、これは授業に使えると思ったというお話をしましたが、実はiPadだけでは実現できないんです。iPadにアプリが必要です。今私がここで使っているのは「MetaMoJi Share」〈注6〉というアプリです。MetaMoJi〈注7〉さんがお出しになったこの
「MetaMoJi Share」や「MetaMoJi Note」〈注8〉というアプリがあって初めて私の「デジタル黒板」が実現できます。
このアプリに関して私は、MetaMoJiさんが開発する当初からずっと色々関わらせていただいています。もっとこういう風にして欲しい、こういう機能を付けて欲しい、この見え方はおかしいからこうしたらかっこよくなる......。色々リクエストをさせていただいています。現在も次のバージョンをテストしています。今見せているのは違います。未発表の製品は見せられませんからね。このアプリがあって初めてiPadを「デジタル黒板」として使えるのです。
例えばレーザーポインタ機能。一般のスライドを見せるときはレーザーポインタで赤いポッチをかざします。このMetaMoJi Shareでもレーザーポインタ、出ます。消えます。このレーザーポインタは文字を書けます。消えます。何を書いたっていいんですよ。こういうことができます。
それから、こうやって画面の一部分を超拡大することもスッとできます。情報量が多いときに特定の情報だけを拡大表示します。レーザーポインタで指し示すよりわかりやすいし見やすい。
今日はまだ、このデジタル黒板に何も文字を書いていない。代わりにあらかじめこういう情報を貼って来ています。先程言ったように普段の授業ではあらかじめ何も貼らず、黒板と同様、まっさらな状態で授業を始めます。まっさらな状態から色々書いていくわけです。ただし前回の授業で学生が提出したペーパーの中に質問が書いてある部分をスキャンして貼り付けておくことはあります。
このように、黒板やホワイトボードに書くのと同じようになんでも普通に書けます。こんどは消えませんよ。そして、黒板よりいいところがいくつもあります。
例えば普通の黒板に書く時、こうやって教員は学生にお尻向けることになります。でもデジタル黒板であれば、みなさんの方を向いたまま書けます。
それから、授業中、デジタル黒板を持ったまま、机間巡視できます。机間巡視というのは、教職を取った方でしたらご存知だと思うんですけれども、授業中に机の間を歩いて見回るということです。机間は机の間、巡視は巡視船の巡視です。小学校から高校まで、生徒達の授業への参加の仕方とか、ノートが書けているかとか、色々見て回る。また、教員が常に前の同じ位置からしゃべるだけではなく、動き回ることによって、声が出る位置、方向が変わっていくと刺激が変化しますから、生徒たちの集中力もキープしやすい。そういったいろいろ意味があって、机間巡視をすることが求められます。大学の大教室の講義ではこれをやっている教員は少ないです。教室が広いですからね。iPadのデジタル黒板だと、「黒板に書く」という機能を手元に持ったまま、こうやって自由に教室内を歩き回れます。
また、学生がノートを取っていて、そのノートをみんなに見せる、みんなに見せたい、いう場合があります。例えば先ほどの「じゃあこの問題を図にしてごらん。」いう場面です。そうすると学生は手元のノートに図を描く。私はしばらく見て歩いていて、「お、この図は面白い」とかいうときに、学生の手元にこのノートを全員に見せたい。どうするかというと、iPadのカメラアプリを起動すればこうやって見せられます。私が書いてごらんと言った図を他の学生がどのように描いているか、教室内の全学生に見せてシェアできるのです。
更に、そのノートに私が加筆をしたい場合、iPadで写真を撮ります。そして、MetaMoJi Shareから「写真を使用」とする。「この学生、こういう図を描いているよ。」「へ〜」「これ、shioなの?ひとつの図にshioが2人いてもいいのかな?」という感じ。ここに私が書き込めるのです。学生が作った図に対して、私は手書きでコメントできる。これを授業の過程でできます。
それから、私が何か図を描いたときに、例えば「Aがカメラの所有権を持っていてBに売ったとします」という図を描いたときに、所有権がBに移転しましたね、ということを、こういう風に表せます。図を動かすことができるのです。もともとこのカメラの所有権がAにあった、それがBに移った、ということを、このように動かしながら話せます。
このようにデジタル黒板では、学生達とのコミュニケーションをリアルタイムに反映することができ、かつ黒板の中を動かすこともできます。普通の黒板に描いた中身は動かせません。この所有権が移ったということを、昔の黒板では「例えばこの黒板拭きを所有権としますよ~」と言って動かしていたんですけど、デジタル黒板だと実際に図として動かすことができます。
これ、あらかじめ作成しておく「スライド」では不可能です。デジタル黒板だとこういったことができます。学生の手元のノートも、こうやってそのまま授業に活かすことができます。
それから普通に黒板やホワイトボードに書くのと同じように書いていくだけあってでも、この仕組みを使うことによって「記録として残る」という非常に大きなメリットがあります。今日は講演会なので、1回分のお話でしかありませんが、半期15回にわたって行う授業だと過去の黒板が全部、手元にあるんです。例えば過去の「民法1」の授業で描いた板書がすべてここにあるんです。
授業中、質問とか、議論とかしているうちに、「それはね、代理ではなくて無権代理の話ですよ。無権代理、3回前の授業でやりましたよね。覚えてますか?」と、無権代理を扱った時の板書を表示する。学生は見覚えのある図を見て、あぁ、無権代理やったな、ああいう図だったな、そうか、これは無権代理の問題か、と理解できる。3回前だろうが、5回前だろうが、以前に書いた板書は全部手元にあります。
法律学というのは体系なので、その理解は積み重ねが必要ですから、過去の授業で扱った内容に思いを至らせて、それも使って目下の問題を解く、という場面が頻繁にあります。学生達は過去に習った内容を使う、という知的作業が要請されるわけですが、だいたい、忘れています。忘れてもいいんです。私は、「ほら、これやったでしょ?」と見せることができます。すると、学生達は自分でノート取っていますから、「ああ、あれか」と自分でも自分のノートを見返せるわけですね。で、その時、どういう議論が行われたか、この画面のビジュアルなイメージとともに記憶が蘇ってくるのです。以前こういうことをやったな、ということが思い出せるわけですね。
それから実は、更にすごいことができます。私が今書いているこの板書、実はここにいる学生役の大学院生のiPadにも全部そのまま映っています。つまり、学生達の手元にあるiPadで私の板書をそのまま見られるようにしたいと思えば、簡単にできる。学生達は自分のiPadで、自分の手元で、その板書の内容を全部リアルタイムで見ることができます。私がこうやって自分のiPadに「このように」と書くと、学生のiPadの画面にも「このように」って、そのまま表示されるのです。私がこういう風にすると、ほら全部出るでしょ?出ていますよね。特に弱視の学生には有益です。
iPadを持った学生が教室にいなくても、地上のどこにいてもこれができます。例えば授業に遅れて登校している学生が電車の中で、授業始まっちゃった、と思ってiPadを開くと、授業の板書がずーっと進んでいくのが見える。今週はズル休みしてインドに旅行に行ってくるといって訪れたインドで、「あ、今、shioの授業の時間だ」と思ってiPadを開いたら、インターネットにさえ繋がっていれば、リアルタイムで板書を見られるんです。ライブで。素晴らしいでしょ?
更に学生が発言するときにも使えます。学生が何か発表する、発言するとき、学生が自分のiPadの画面に書くとその内容がすべて私のiPadに表示される。そのまま教室の前のスクリーンにももちろん表示される。レーザーポインターでも、ペンで書いても色を変えてもすべて。
こうやって学生が授業に参加できます。学生自身が自分の画面に書き込んで「発言」し、その様子を教室の全員で見るということができるのです。この機能、ゼミでは非常に有用です。学生達は、自分が書いているものを全員に見せることができる。それも、一人の学生が滔々と語るわけではなく、「いや、俺はこう思う」と色んな学生が自分の座席に座ったまま、1枚の「黒板」に書込み合うことができるのです。一方、語学学習では、たとえば英文ライティングのクラスで、学生たちが各々自分の手元にあるiPadに英文で作文し、それを教員が教員の手元のiPadで赤字で添削していく様子を全員で見ることもできます。
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