NLP2026 招待公演1「非典型な言語発達と言語使用:発達障害とバイリンガルから考える」松井 智子 先生(中央大学)
Author : 松井 智子
Journal : 省略
paper URL : 省略
preprint URL : 省略
Date : Apr 2, 2026
Summerized by : 進藤稜真
Tags : 言語獲得 自閉症
講演メモ
1. 定型発達児の言語習得
2. 自閉症スペクトラム症児の言語発達
3. 早期の二言語習得と言語マイノリティ児童
4. 言語の発達と心の発達の関係
1. 定型発達児の言語習得
話し言葉の力
語彙
統語・構文 (文法ともいう、助詞なども。)
会話・語用 (言葉になっていない相手の意図を推論するのは思春期くらいまで成長する)
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0歳児の言語学習の特徴
顕示性の高い知覚情報に依存する学習
統計的な頻度に依存する学習
「統計的学習(statistical learning)」
9ヶ月児までは、母語にはない音の区別ができるが、その後12ヶ月までの間に、外国語の音を識別する能力は衰える(Werker & Tees 1984)
母語に特化した言語習得が始まる
9ヶ月児は、対人的な学習によって外国語の音を識別する能力を維持することができる(Kuhl et al. 2003)
ビデオを見せる、とかだけだと維持できない。あくまで対人的なものが必要。
生後6ヶ月ごろから、言葉とそれが指すものを結びつけて捉えることができる (Tincoff & Jusczyk 1999)
10ヶ月児は、自分が関心を持っているおもちゃと単語を結びつけて覚える傾向がある。(Pruden eet al. 2006)
例えば、ボールで遊んでいる時に「リンゴよ〜」とりんごを見せても、ボールを「リンゴ」と結びつけてしまう。
1歳以降の言語学習の特徴 語彙学習
1歳から2歳の間に、子供は相手の意図を、視線、表情、指差しなどから理解することができるようになり、それを語彙獲得にも活かすことができる (Tomasello 2000)
この時期は、ちょうど語彙が爆発的に増える時期と重なる
発話解釈としての語彙学習
語彙学習には、言葉とそれが指示する対象との正しい結びつきを理解するという過程が不可欠
子供はその過程において、「言葉を発する相手が何を意味しているかを理解する(相手の意図の理解)」という立場に置かれる。
つまり、語彙学習における子どもの立場は、コミュニケーションにおける聞き手の立場に等しい。
発話解釈の2つのプロセス(関連性理論)
1. 認識的警戒心 Epistemic Vigilance
発話が伝達する情報が信頼性の高いものかどうかを評価し、その内容を受け入れるかどうかを決定するプロセス。
2. 発話が伝達する意図の理解 (つまり発話の内容解釈)
発話の背後にある話し手の意図を推測するプロセス。「心の理論」「マインドリーディング能力」と呼ばれる、心的状態を推測する能力が必要となる。(Sperber et al. 2010)
Natural Pedagogy 語用論(能力)が学習を可能にする
人間は社会的コミュニケーションにおいて明示的な伝達意図(ostensive communicative intentions)を認識すると、情報を解釈し、それを真実として受け入れ、一般知識として学習する生得的な能力を持っている。 (Csibra & Gergely 2009)
「誤用能力」が人間だけに可能な「対人的学習」すなわち「文化的学習」を可能にする。
※観察的な学習は動物も行う。
文化的学習は統計的学習に比べて、はるかに頻度は低いが、誤用能力が文化的学習の効率化を可能にする。
「相手の意図を知ろうとする」能力が頻度は低くても効率的にさせる
典型的な例が乳幼児の語彙学習
発話意図を理解する能力の発達段階
マザリーズ:大人が赤ちゃん(乳幼児)に対して自然と使う、「やや高めの声」「ゆっくりしたテンポ」「大げさな抑揚」が特徴の話し方
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2.自閉スペクトラム症(ASD)児の言語発達
ASD児の言語発達
ASDの言語発達には個人差がある。
言語を獲得しない、あるいは獲得しても遅れが著しい場合がある一方で、発達早期に遅れが見られたものの、比較的短期間に言語を習得し、やがて年齢相応の言語力を持つ場合もある。
年齢相応の言語能力を持つようになる場合も、その発達の道筋は定型発達児と異なることがわかっている。
例:TD児が初語を発するのは平均して生後8ヶ月~14ヶ月なのに対し、ASD児は38ヶ月ごろ
遅れがあって急速に年齢相応の言語能力を身につける場合もあれば、遅れはなかったのに理解力や表出力の対抗が起こる場合もある
ASD児の言語発達の個人差は、6歳までの間に最も顕著に現れる
ASD児の音声言語処理
聴力そのものは正常でも、日常会話で聞き取りにくさを訴えるASD児は少なくない。
聴覚情報処理障害:聴力は正常だが、日常会話では聞き取りにくさを訴える症状。原因は記憶力、注意力、音韻識別力
音韻の識別(音声言語の最小単位)が困難であることが原因の一つだと考えられている
聞き間違いの例:「品代」「知らない」
一方、音程の区別は得意であることが多い。
日本語の音韻は23種ほど。
日本語環境に生まれ育った人であれば、これらを無意識に学習していく。
鼻濁音:「か」に「ぱ」などの「。」がついた不思議な音?「がぎぐげご」の子音を発音する際に、鼻に音をぬく濁音
音声言語認識と言語発達の関係
ASD児は周囲で話されている言葉を聞くことに興味がないことに起因している?むしろ言語以外の音を好む。
TD児は音声言語に強い関心を持つ
研究調査:母語と非母語の音韻の識別
母語の音韻「た」「だ」と、非母語の音韻「ra」「la」をどれだけ正確に聞き分けることができるか?
TDの場合は、複数人が発音した音韻を識別するのは、一人が発音した音韻を識別するよりも難しいことがわかっている。
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結果:単一話者ver (同じ色同士の比較, グラフは同じ)
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TDと言語発達に遅れのないASD児(ALN)は、母語はうまく識別、非母語は識別が難しい。
言語発達に遅れのあるASD児(ALD)は、どちらも差がなかった(= 母語の方が得意ということがなかった)
結果:複数話者ver (異なる色同士の比較, グラフは同じ)
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TD児にとっては、複数人よりも一人が発する方が識別が簡単
ASD児(ALD, ALNどちらも)にとっては、一人/複数人が発言しようと関係なしだった
結果:グループ間の比較
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母語:ALDはTDより、弁別率が悪かった
非母語:全てのグループで統計的に優位な差はなかった
結果まとめ
母語「た」「だ」の弁別 (画像1枚目)
TDとALNは弁別できた
ALDは弁別が難しかった
外国語「ra」「la」の弁別 (画像1枚目)
TDとASDの間に差はなかった
複数人の音声の場合 (画像2枚目)
TDは母語&非母語の両方において弁別率が低下
ASD児は弁別率は変わらなかった(人数による影響なし)
考察
ASD児は母語の音声識別がTD児と比べて難しい。特に言語発達に遅れがある場合、その困難さが増す。
TD児は生後1年間の間に母語音声を認識する能力が高まり、逆に非母語音声を認識する力は弱まる。
「知覚狭小化」:特定の刺激への認識力が高まり、それ以外の刺激への認識力が弱まる
進藤稜真.icon 帰納バイアス(の進化)に関連してそう:知覚狭小化の原因について調べる必要がある
音声言語の「知覚狭小化」が1歳までに起こることで、日本語を母語とするTD児は、その後日本語の語彙や文法ルールを音声言語から学習することが容易になる。一方、外国語を学習することは困難になる。
ASD児の場合、言語音声の「知覚狭小化」が起こりにくいと考えられる。そのため、母語の音声言語から語彙や文法ルールを学習することが容易にならず、外国語学習の場合と同じくらいの難しさがあるのではないか?
ASD児は方言を学習しない:ある一定の距離感を持って言語を習得している?
外国人児童への日本語教育がASD児に対しても有効か?
幼児期3年間のASD児の語彙の発達 平均的な推移
ASD児は全般的に遅れが見られるが、名詞に比べ、とくに動詞や助詞(機能語)などの獲得が遅れることが知られる。
どのような行動(全身運動、道具操作の模倣、共同注意など)が、ASDの機能後の発達を予測する?
質問紙調査:幼児期ASD児の機能語の発達行動特性の関連
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「対大人・対子ども社会性行動」が以下の語彙の発達に影響
動詞、形容詞、数詞、位置に関する語、疑問詞
まとめ:
社会性行動は全語彙に影響
ASD児においても、幼児期の語彙発達を支えるのは大人コミュニケーション
1. 早期の第二言語獲得
① 二言語を母語(第一言語)として獲得する場合
例:両親が国際結婚
② 母語とは別に第二言語を獲得する場合
例1 : 文化間移動をする子ども
例2 : 両親の母国以外の国で生まれた子ども
例3 : 母国で第二言語を学習する子ども
3歳までに二言語環境に置かれると、①の可能性が出てくる
②の場合、母語が確立する前に第二原語を習得しなければならなくなると、どちらの言語もうまく獲得できないセミリンガル(ダブルリミテッド)状況に陥る危険性がある。
実際、日本生まれの外国人児童は、支援学級に入るケースもしばしば。
Kohnert et al (2005)によると、5歳以前に第二言語に触れると、第一言語の後退や不十分な獲得につながってしまう。
松井先生は8歳ごろと見ている。
2. 言語の発達と心の発達の関係
心の理解の発達 主要な段階
9~12ヶ月:目的・意図・注意(視線)の理解
2歳:ふり遊び・欲求の理解
3歳:見ることは知ることの理解
5歳:信念や思考の概念的理解(心の理論)
幼児の心の理解
標準的誤信念課題 (通称 "Sally-Anne Task")
子どもは5歳までに一次の表象を使うことができる
7歳~8歳ごろに、二次の心的表彰を使うことができる(嘘が理解できる)
心の理解の発達は、言語発達と強く関連している。語彙力や文法力などが高い子供ほど、心の理解も優れていると予測される
成人は四次の心的表象を思い浮かべることができるが、労力がかかるので、必要に応じて使っている。
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発話解釈と心の理論
発話は文字通りの意味とは異なる場合が多く、話し手が意図した意味を伝えるものであるため、曖昧性が生じる
話し手が意図した意味を理解するために、話し手の視点、知識、信念などを推測する心の理論が必要。話し手が意図した文脈を見つけるためにも心の理論が必要だとされる。
Resches & Pereira M. 2007, Sidera et al. 2018
心の理論の障害であるASD者は、会話で使われた言葉から、話し手の意図した意味を導き出すことが難しい
Baron-Cohen S, Leslie AM, Frith U. 1985
発話の曖昧性は、大きく2つに分けることができる(関連性理論)
言葉の意味(省略された言葉を含む)【表意 Explicature】が曖昧
文脈に基づいて、発話者の意図した言葉の意味を推測する必要がある。
例:今度飲みにいきませんか? → 「アルコール飲料を飲んだの?」
言葉になっていない意味【含意・推意 Implicature】があいまい
文脈に基づいて、発話者の意図、信念、態度などの心的状態を推測する必要がある。
ASD児も、年齢相応の言語力がある場合、同音異義語の意図された意味を選択できた。
考察:心の理論などの社会認知能力に障害がある場合でも、高い言語力があれば、発話の文脈を元に、話し手が意図した言葉の意味を推測することができる、と一般化できる可能性
以下の二つを区別する
Linguistic Pragmatics (Andres Roqueta & Katsos, 2017; 2020)
Language ability (vocabulary and grammar) + competence with pragmatic norms
Social pragmatics
Language ability (vocabulary and grammar) + competence with pragmatic norms + Theory of Mind
(言葉にならない)発話意図があいまいな発言
依頼などの遠回し表現、嘘、失言、冗談、皮肉
発話意図を理解するには、高度な心の理論が必要とされる
ASD者は話し手が現実とは異なる信念や知識を持っていることを理解することが難しい。
そのため、失言を正しく解釈できなかったり、説明できないことがある。(暴言はわかる)
失言の理解には、言語能力が影響し、誤信念の理解の影響はないことが示唆された
話し手の態度の認識については、抑制能力と非言語認知能力が影響することが示唆された。
大人は高度な心の理論を使うが、心の理論発達途上の子どもは、言語能力などの他の能力を総動員している?
文法力と社会認知
文法力の発達と心の理解
「〜と言った」「〜と思った」という文の構造を理解できるようになることと、自己や他者の意図や思考、信念を理解することとには強い関連がある。(de Villiers & Pyers 2002; de Villiers 2007)
補文構造を理解できる必要がある。
心の理論と言語は相互的に発達を遂げるため、言語発達が何らかの環境要因によって遅れた場合、心の理解の発達にも遅れが生じると考えられる。
文法能旅行を含めた言語能力が伸びれば、心の理解もできるようになり、問題行動も少なくなる可能性がある。
おわりに
定型/非定型に関わらず、言語の発達が大人とのコミュニケーションに支えられていることと、言語の発達が心の発達に密接に結びつくことには変わりがない
言語マイノリティのバイリンガル児のように、環境的な要因で言語発達が不十分な場合、心の発達にも遅れが生じ、コミュニケーションにも困難が生じる可能性が高い
ASD児のように、心の理論の障害がある場合、直感的な他者理解は難しいものの、言語力が心の理論の代替戦略としての役割を果たし、文脈の理解や話し手の意図や信念の理解を補償する可能性がある。
言語だけで他者の信念推論らしきものを行うLLMと類似?(by ChatGPT)