危急時遺言における「口授」の要件
民法976条1項は,「疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる」と規定している。
この「口授」について,東京高裁平成30年7月18日判決(判例時報2397号24頁)は,「口授があったというためには,遺言者自身が遺言の内容を具体的に確定できる程度にその趣旨を具体的に自らの声で証人に対して述べなければならないのが原則である」とした上で,「なお,遺言者の希望する具体的な遺言内容が適切な方法で遺言の直近の時期に遺言者から直接確認され,その確認された内容の文書が作成されている場合において,承認がその文書の内容を読み上げ,遺言者がこれを肯定する発言をしたときには,具体的な遺言の内容を自らの声で述べていなくても,例外的に口授の要件を満たすと解しても差し支えない」としている。