【交通事故】不法行為加害者が被害者受診医療機関へ診療報酬を支払うべき法的義務の有無
神戸地裁令和5年9月28日判決(交民56巻5号1284頁)
交通事故等の不法行為が問題となる事案では、実務上、判決や示談により損害賠償額が法的に確定する前に、加害者側(使用者、損害保険会社を含む。)が、損害の一部を一定の範囲内で予め内入金として負担する取扱い、具体的には、被害者が治療を受けることによって医療機関に対して負担する診療報酬支払義務を加害者側が代わりに引き受けて診療報酬に相当する金額を直接医療機関に対して支払う取扱いがなされることが多い。
もとより加害者と医療機関との間には、直接的な債権債務関係を生じる原因となる事実(契約、不法行為等)はないが、上記取扱いをすることによって被害者にとっては治療費支払の負担方法が簡便となる便宜があり、加害者にとっても係る便宜を図ることで遅延損害金による損害賠償義務の拡大を予め阻止する等の利点があり、双方の利害が一致するときに実施される交通事件における実務上の慣行と解される。
しかるに、上記利害が一致しないと考えられる場合にあっては、そもそも加害者側が診療報酬相当額を医療機関に対して直接支払うべき法的義務がないことに照らせば、加害者側が診療報酬相当額を直接医療機関に対して支払わない不作為が、直ちに不法行為を構成するとは認められない。