あいまいな弱者
明確な弱者=高齢者、子供etc
「昔は弱者が明確でした。高齢者、子ども、障害者、失業者……と、その属性が一言で説明できます。明確であるがゆえに、弱者を社会全体で支えることへの反発も大きくはありませんでした」
「しかし終身雇用の崩壊や非正規雇用の増加、未婚率の上昇や女性の社会進出が進んだことで、00年代以降は企業福祉、家庭福祉から外れた人が激増します。例えば正社員だけど労働環境が劣悪な中で働いている、夫婦共働きで世帯年収は高いけど育児と介護のダブルケアがのしかかっているなど、ある面では恵まれているけどある面ではとても大変で、属性や立場が一言では表せない人たちです」
また、最近はコロナ禍対応や深刻な少子化対策として行政が支援金や給付金を出すことが増えましたが、業種を限定したり所得制限を設けたりといった線引きがあることが多いです。最初はみんなで『大変だね』と言い合っていたのが、一部だけが弱者認定されて支援金が出ると分かったとたんに『こちらの方が大変だ』との大合唱が起きました。誰が弱者か分かりにくくなっている社会だから、自分から『弱者だ』と言うのが有効になってしまっています」
「明確な弱者だけだった時代は、マジョリティー対マイノリティー、資本家対労働者のように強者と弱者の対立構造も明確でした。対して、あいまいな弱者は明確な弱者に攻撃的な一方で、ツイッターを買収したイーロン・マスク氏のような危うさもある圧倒的強者に好意的な面があります。社会からの福祉や共感がなくとも自力で成り上がった人物として、ある種のロールモデルなのでしょう」
「日本だと、匿名掲示板2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)創設者の『ひろゆき』こと西村博之氏が沖縄の基地反対活動を冷笑する、経済学者の成田悠輔氏が『高齢者は老害化する前に集団自決みたいなことをすればいい』と発言する、「メンタリスト」を名乗るDaiGo氏が『ホームレスの命はどうでもいい』と発言するなど、強者の立場にある人が明確な弱者を攻撃し、それをあいまいな弱者が支持するといったねじれた現象が起きていることを危惧しています」