Sight / Insight
2025-2024, original work
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Caption
《Sight / Insight》は、日常的に見慣れた路上の光に対して、ふだんとは異なる見方を促すことで、鑑賞者の意識の変容を試みるインタラクティブ・インスタレーション作品である。
暗室に入ると、夜の路上のように複数の小さな光点が動いている。光点に近づいたり遠ざかったり探索すると、光の知覚から〈何か〉が立ち現れる。
人間は、限られた視覚情報を補いながら、形や動きを認知し、記憶の中の情景を呼び起こすことがある。例えば夜、車窓から流れる路上の光を眺めていると、ふとした瞬間に何かの形や動きを認知/想起することがある。本作は、このような路上の光を捨象し、認知/想起を促す。
捨象された光の鑑賞を経て日常に戻ると、夜の路上の光の中から〈何か〉を見出そうとするように意識が変容しているかもしれない。
Overview
夜、電車の車窓に映る自動車などの移動する光や、街灯の光、建物の光などの路上の光を見ていると、その光の集合から〈何か〉の形・動きを見出し、そして、〈何か〉を含む、またはそれに関連する具体的な情景を想起する経験をしたことある。
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ここでの〈何か〉とは、ヒトが歩いている様子や、ヒト以外の生物が動いている様子を指す。詳述すると、路上の光の集合を観察するときに、光の動きをしてから、文脈を超えた連想を経て、もともと観察していた光の運動とは全く異なるヒトや生物の形・動きを認知(recognition)・想起(memory retrieval)している。例えば、光の動きの集合を光の動きとしてのみ知覚してると、ふとした瞬間にそれらの動きがダンサーの動きに見え、具体的にダンサーがブレイクダンスをしている様子が想起されたときである。この実体験から申請者には路上の光に対して新たな見方・目線が生まれた。
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路上の光の運動を車窓から眺めていると、ふとした瞬間に人の動きに見え、具体的なダンサーの動きを想起した。(t=時間)
これは、夜空に散らばっている星と星とをつなぎ生物や物体の形を見出す「星座」と似ている。しかし、筆者の実体験では、〈何か〉の形だけではなく、動きの認知・記憶の想起までも促されている。これは、星座とは異なり、街灯などの静的な点と自動車など動的な点のコントラスト、そして観察者である筆者が電車に乗車し、移動しながら光を見ることで生まれる見かけの動きの2つが組み合わさることで、路上に散らばっている、かつ、個々に異なる動きを行う光の集合から形だけではなく、動きを認知し、記憶を想起していると考えられる。この実体験を他人に話してみると、同じような体験をしたことがあるという意見や、筆者の実体験を聞いたあとに夜の路上の光へ目を向けると〈何か〉の形・動きを見出すことができたという意見が得られた。このことから、散らばった光の集合の動きから〈何か〉の形・動きを見出す認知は、自分だけではなく他の人にも起こり得る事象であることがわかった。
実体験では、光そのものの動きと見かけの動きが組み合わさっているが、概観すると、複数の運動する光点をグループ化し、そこからヒトや生物の形の構造を読み取り、動きを認知していると考えられる。この認知は、十数個の点光源の動きからヒトや生物の動き、さらには性別や感情などの社会的な特性までをも認知する知覚現象であるBiological Motion (Johansson, 1973),(Ullman, 1979),(Bülthoff et al., 1998),(Chiou, 2022)とよく似ている。ただし、Biological Motionと実体験の認知がまったく同一ではなく、「似ている」と表現したのには理由がある。Biological Motionでは、十数個の点光源がヒトや生物の関節に当たる部分の動きを忠実に再現している。そのため、点光源の動きを知覚したとき、観察者はすぐにヒトや生物の動きをすぐさま認知することが出来る。
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バイオロジカルモーションの例
一方、実体験で見られる光の動きは、ヒトや生物の関節の動きを再現しているわけではない。路上などにある複数の光が、とくに意図もなく(ヒトや生物の動きとも無関係に)動いている最中、ふとした瞬間にヒトや生物の形として認知される。つまり、知覚した視覚情報は偶有的に観察者の中で補完され、その結果としてヒトや生物の動きを見出し、それに関連した具体的な記憶や情景を想起していると言える。また、想起の内容は具体的なヒトや生物の様子に結びつくため、Biological Motionで言及される社会的な特性とも関連する。以上を踏まえると、実体験において「複数の光の運動を知覚し、その結果としてヒトや生物の形・動き・社会的特性を認知する」という点はBiological Motionと共通している。しかし、観察者の観察時の状況や、偶有的な補完に大きく依存するため、両者には認知に至るまでのプロセスにおける相違があると言える。
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認知のプロセスの違い
本作品はこの認知のプロセスに着目し、実体験における具体的な情景・記憶の想起について、哲学者のHenri Bergsonの〈注意〉の概念を参照した。Bergsonは、〈注意〉は、経験の一部を主題化、焦点化する働きを意味する注意とは異なり、観察を通じて、対象のディティールが増え、対象の置かれる文脈が多様することと述べている。この〈注意〉が繰り返し進展することによって記憶が膨張し様々なものを想起することができると述べ(Bergson, 2019, pp. 150-151)、これを拡張ベルクソン主義で知られる哲学者の平井が発展させ、以下の図のように別の角度から見直したり、記憶と照らし合わせたりして、フィードバックループを描くような認知の仕方を〈探索的認知〉と定義した(Hirai, 2022, Chapter 6)。
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〈探索的認知〉の流れ
本作品では、〈探索的認知〉を基に〈注意〉によって探索的な観察を対象に対して行うことで、対象の文脈を多様化し、Biological Motionのようにヒトや生物の形や動きの認知し、より詳細な記憶の想起まで接続することを〈視覚環境とのインタラクション〉と定義する。この定義を実体験に当てはめ、路上の光の運動を捨象した作品を制作し、〈視覚環境とのインタラクション〉を促し、路上の光に対して新たな見方/目線をもたらす視覚表現を探求した。
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〈視覚環境とのインタラクション〉
Reference
Johansson, G. (1973). Visual perception of biological motion and a model for its analysis. Percept. Psychophys., 14, 201–211.
Ullman, S. (1979). The interpretation of structure from motion. Proc. R. Soc. Lond. B Biol. Sci., 203, 405–426.
Bülthoff, I., Bülthoff, H., & Sinha, P. (1998). Top-down influences on stereoscopic depth- perception. Nat. Neurosci., 1, 254–257.
Chiou, S.-C. (2022). Attention modulates incidental memory encoding of human move- ments. Cogn. Process., 23, 155–168.
Bergson, H. (2019). “物質と記憶 “ (Sugiyama, N. Trans.). 講談社.
Hirai, Y. (2022). “世界は時間でできている : ベルクソン時間哲学入門 “. 青土社.
Method
実際の路上の光を観察し、どの光がどのような動きになりうるかを分析する。分析をもとにシミュレーター上で路上と同じように奥行方向に向かって光を配置して動かす。シミュレーターで作った光の位置や動きを実際の光に当てはめる。
路上の光を見ている状況に近づけて捨象するために、映像ではなく実際の点光源を動かす。小さなロボットトイのToioを改造してLEDライトを上部に搭載するよう改造し、それをシミュレーションに沿って制御することで点光源の動きを実現した。
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また、路上の光を定点から眺めるのではなく、路上を移動して(車窓から)探索しながら眺める状況を再現するために、点光源が動く空間自体を左右に動かす。これによって車窓から光を見ている状態に近くなり、光そのものが動くだけではなく、光の見かけの動きも実現した。
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そして、上記の手法による路上の光の捨象から〈視覚環境とのインタラクション〉を促すために、光の運動をシーケンスで制御し、〈探索的認知〉のように光に運動を探索的に観察しているうちに少しずつ異なる見え方になるよう視覚体験を設計した。
Credit
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ISCA INTERNATIONAL STUDENTS CREATIVE AWARD 2024 デジタルコンテンツ部門 佳作
Exhibition/Events
ISCA INTERNATIONAL STUDENTS CREATIVE AWARD 2024
Sight / Insight -Interim Exhibition- @FabCafe Kyoto