鉄の時代(小説)
題名はギリシャ神話の下降史観が反映された「5つの時代」区分の最後に当たる「鉄の時代」から取られている。文明と文明が衝突し、大文字の近代人が善であると信じて疑わない(あるいは日の名残りの主人公スティーブンスの如く、信用できない語り手と成り果てて欺瞞を受け入れてしまう)ヘーゲル的進歩史観がもたらすヘゲモニーが形成されようとする中で、その最中で引き起こされた貧困と格差、それがもたらした凄惨な差別と暴力の記憶を、その「覇権」に対するアンチテーゼとして提起しているのだ。 アパルトヘイト撤廃へ向けた運動が行われていた時代の南アフリカにおける社会階層の差がもたらす残酷さ、その中で生まれながらも伝わることのない親の子への愛、死への恐怖のような多層的で重厚なテーマがなテーマが、硬質な文体によって扱われている。語り手は白人の教養ある70歳の女性ラテン語教師で、彼女が医師によって余命が長くないことを告げられることから物語は始まる。心理学で「脅威管理理論」と呼ばれたり、ビジネスの世界ではスティーブ・ジョブズが死について考える事の重要性を説いたり、哲学ではキルケゴール=ハイデガーによる実存主義以来「死」は重要なテーマになったり、サブカルチャー映画やドラマ、ラノベでもよく親友の「死」がテーマになり、、、、、、、、、 その「死」を目の前にした主人公が娘に遺す手紙それ自体がこの小説なのだけれど、ジョーゼフキャンベルによるヒーローズ・ジャーニー理論のフォーマットを借りさせてもらうなれば、「賢者との出会い」に当たるのは、ホームレスとして彼女の家の周りで浮浪していた名のない男だ。