ドゥルーズの映画批評
1. 「運動イメージ」(L’Image-Mouvement)
この概念は、アンリ・ベルクソンの時間論に影響を受けています。ドゥルーズは、古典的な映画(特にハリウッド映画や戦前の映画)を「運動イメージ」に基づくものと考えました。これは、物語の進行やキャラクターの行動を通じて因果関係が整理され、論理的に展開される映画のことです。彼はこの「運動イメージ」をさらに以下のように分類しました。
行動イメージ(Image-action): 物語の中でキャラクターが目標に向かって行動する構造(例: ハリウッドの古典的なナラティブ映画)。
知覚イメージ(Image-perception): 観客がキャラクターの視点を通じて世界を知覚する映像(例: ネオ・リアリズム)。
情動イメージ(Image-affection): 直接的な感情を表現するクローズアップや静止した映像(例: ドライヤーの『裁かるゝジャンヌ』の顔のクローズアップ)。
2. 「時間イメージ」(L’Image-Temps)
戦後の映画、とりわけイタリアのネオ・リアリズムやヌーヴェル・ヴァーグなどの前衛的な作品は、単なる因果的なストーリー展開を超え、時間そのものを直接的に表現するようになったとドゥルーズは考えました。これが「時間イメージ」の概念です。
時間イメージの特徴
物語の明確な因果関係が崩れる。
登場人物が「決定できない状態」に置かれ、行動よりも思考や迷いが強調される。
夢や記憶が交錯し、時間が非直線的に流れる(例: フェリーニ、タルコフスキー、ゴダールの作品)。
クリスタル・イメージ(Image-cristal): 現実と虚構、過去と現在が混ざり合うような映像表現(例: アントニオーニやベルイマンの映画)。
3. 映画と哲学
ドゥルーズにとって映画は単なる娯楽や芸術ではなく、哲学の一形態だった。彼は映画を使ってベルクソンやニーチェ、スピノザの概念を再解釈し、新しい思考のモデルを生み出した。たとえば、時間イメージの概念はニーチェの「永劫回帰」にもつながる。
4. ドゥルーズの映画批評の意義
彼の映画批評は、映画を物語や象徴解釈の対象ではなく、思考の運動とみなす という点でユニーク。
従来の映画理論(精神分析、記号論など)とは異なり、「映像の形式」自体が持つ哲学的可能性 を追求した。
その影響は、映画理論だけでなく、メディア研究や現代アート批評にも及んでいる。
まとめ
ドゥルーズの映画批評は、「映画をどう分析するか」ではなく、「映画がいかに新しい思考を生み出すか」という視点に重点を置いている。そのため、彼の理論は映画だけでなく、視覚文化全般に対する哲学的アプローチとしても有用とされている。