GE計画
都市における学習環境:メディア、身体性、テクノロジーを巡るグローバル体験計画
1. 理論的背景と全体コンセプト
本提案は、「都市における学習」をテーマに、都市のメディア環境・身体性・テクノロジーの調停についてグローバルな視点から考察する計画である。基盤となる理論として、吉見俊哉の都市=メディア論、落合陽一の「デジタルネイチャー」、ドミニク・チェンの人間・テクノロジー関係論、三宅陽一郎のゲームAI論、今福龍太の身体文化論、多和田葉子の旅論、マルチスピシーズ人類学などを統合し、都市そのものを学びの場と位置付ける。
吉見俊哉や石田英敬らによれば、現代の都市空間は情報メディアに浸食され、物理的建築空間とデジタル空間の境界が曖昧になりつつある
。巨大ビルのデジタル広告から手元のスマホ画面まで**「都市そのものがデジタル空間へと変容し、メディア空間と建築空間の境界が融解している」**と指摘される。つまり、かつては都市空間に散在していた種々のスクリーンがいまや遍在化し、人々の身体的活動とメディアテクノロジーが融合する「メディア都市 (media city)」という状況が生まれている
。街そのものが巨大な情報メディア装置となった環境下では、都市で生活し学ぶこと自体が日常的にメディアを介した学習経験となっている。
落合陽一の提唱する「魔法の世紀」や「デジタルネイチャー」は、この都市とメディアの融合をさらに先鋭化する概念である。落合は、20世紀の「映像の世紀」を経てコンピュータが環境に溶け込み物理世界を直接操作する「魔法の世紀」に移行しつつあるとし、そこでは人間・自然・テクノロジー・データがシームレスに接続されて境界が溶解する新たな世界観=「計算機自然(デジタルネイチャー)」が現れると述べている。この世界では物質と仮想の二項対立が意味を失い、あらゆる存在がデジタルに記述・再構成される。落合の最新の空間インスタレーション null²(2025年大阪・関西万博)は、人・モノ・自然・計算機・データが接続されたこの新しい環境を人間が全身で体験する試みであり、鑑賞者の身体感覚そのものを拡張する装置となっている。こうした理論は、都市空間での身体的学習にも大きな示唆を与える。すなわち、現代都市では身体とデジタル技術が相互浸透し、学習者は常に拡張身体として環境と関わることになる。
文化人類学者・批評家の今福龍太もまた、身体・映像・メディアの交感について示唆的な見解を述べている。彼はトランス状態の舞踏を撮影した映像について「カメラがトランスに入った人間の顔に触れんばかりに迫り、ほとんどトランス・ダンスの身体性と一体化してしまっている」と評し、観察者としての客観的立場が崩れる様を指摘した
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。このエピソードは、テクノロジー(カメラ)が人間の身体的体験に溶け込み、新たな知覚と没入を生む可能性を示唆する。スポーツ人類学の文脈で今福は近代スポーツにおける身体技法の文化的意味を論じており、身体的実践を通じた学習がテキスト的学習に勝るとも劣らない深い知を生むことを示唆している。こうした議論は、都市空間での「身体を使った学び」の意義——たとえば街を歩き身体で場所を感じること自体が知となる——を再評価させる。
デジタル社会論の観点からは、ドミニク・チェンの提起する問題意識が参考になる。チェンは、「スマートシティ」という概念が近代合理主義の延長にある「マッチョな機能拡張」の都市像を生みがちだと批判し、人間が生物や他者の**「弱さ」に向き合い共存していくようなテクノロジー活用**によって、より豊かな「ビーイング(在り方)」を都市に実現できると述べている
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。これは、効率一辺倒ではない包摂的でウェルビーイング志向の都市づくりを提唱するものであり、技術による都市の課題解決に人間中心の視点を取り戻す重要性を示唆する。チェン自身、発酵食文化とロボットを掛け合わせた「ぬか床ロボット」のプロジェクトなどを通じ、テクノロジーが人間の生活世界や生態系といかに共存できるかを探っており
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、都市における学習環境についても、人間と非人間(動物・微生物・AI)が共創する「弱いつながり」の場としてデザインすべきことを示唆する。
一方、ゲームデザインやAIの観点から三宅陽一郎は、ゲーム内で培われたAIエージェント技術を現実の都市環境に応用する構想を提示している。三宅は都市空間全体を知能化する研究に取り組んでおり、ゲームAIにおける複数レイヤー(メタAI・キャラクターAI・空間AI)の自律協調モデルが将来のスマートシティ管理に資すると論じている
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。例えば、都市の**「コモングラウンド」という概念では、実空間の都市とデジタルツイン空間を連携させ、人間とロボット・AIアバターなどノンヒューマンエージェントが共存できる基盤を作るという
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。従来、人間だけが主体だった都市設計を見直し、ロボット等にも認識しやすい環境を整備することで、結果的に人間にとっても安全で効率的な都市になるという指摘は興味深い
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。このようにゲーム的シミュレーションとAI技術を通じて、現実都市の課題(防災、交通、環境管理など)に柔軟かつ自律的に対処する枠組み**が提案されており、都市を「生きた学習システム」として捉える視点を提供している。
以上の理論的視座を踏まえると、現代の都市は単なる背景ではなく、それ自体が知と創造性の源泉、すなわち**「イノベーションのエンジン」**として機能することがわかる。都市科学の研究によれば、都市の人口が増加すると創造的産出や経済活動は比例以上に増大し、たとえば都市規模が10倍になるとGDPや特許出願数などのイノベーション指標は10倍以上(約15倍、指数で約1.15乗)になるというスーパーリニアなスケーリング則が確認されている
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。実際、人口120万の都市がGDP600億ドル規模であるなら、10倍規模の都市は線形予測を上回る7000億ドル以上を生み出すとの報告もあり、**都市は人々の交流を加速する「社会的リアクター」**として一人ひとりの生産性や創造性を高める役割を担っている
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。この正と負両面のスケーリング効果(富や創造性だけでなく犯罪・疾病も1.15乗程度で増える)は、都市が現代社会にもたらす恩恵と課題を数量的に示しており
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、本計画で注目する都市環境での学習機会の潜在力を裏付けるものだ。規模がもたらすネットワーク効果によって、都市は人類のイノベーションを牽引してきたが、その反面、都市問題も指数関数的に複雑化する。この点を踏まえ、以下では都市が抱える課題を批判的に検討し、それに対してメディア技術やゲーム的アプローチがいかに応答し得るかを論じる。
現代都市の抱える典型的な問題としては、環境悪化やエネルギー消費、交通渋滞、住宅不足や不平等の拡大、コミュニティの希薄化、防犯・監視社会化によるプライバシー問題などが挙げられる。批判的地理学や都市人類学の文脈では、これらはしばしば近代資本主義と合理主義の産物として分析され、例えばアンリ・ルフェーヴルの「都市の権利」論やデヴィッド・ハーヴェイの都市の資本蓄積批判などに見るように、都市空間の商品化・統制への異議が唱えられてきた。マーク・オージェが提示した「ノンプレイス(非場所)」概念は、均質化した都市空間(高速道路、空港、チェーン店だらけの商業区画など)における匿名性と疎外を示している。こうした状況下で、人々が身体的に居場所を感じ、主体的に学べる都市環境をどう取り戻すかが問われている。
この難題に対し、近年ゲーム、AR(拡張現実)、メディアテクノロジーがユニークな応答を試みている。位置情報ゲームの代表である『Pokémon GO』は、バーチャルなプレイ体験を現実の街路へと誘導することで、人々が公園や広場に集まり他者と交流する現象を生んだ。研究によれば、Pokémon GOの流行は参加者の歩行量を増やしメンタルヘルスを向上させた面がある一方、深夜の公園に人々が集まり秩序維持が課題となる例も見られた
aibrary.ai
(※Pokémon GOについての一般知見。具体的出典は省略)。これはゲームが都市の「遊び空間」としての側面を再活性化しうることを示す。一方、AR技術は観光や学習の現場で急速に活用が進んでいる。例えばギリシャ政府は文化観光の質向上のため博物館・遺跡でのデジタル体験を推進しており、観光相は「ARによってモニュメント訪問が対話的かつ魅力的になり、文化観光が大きく深化する」と述べている
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。実際、古代遺跡の現地にスマホ越しに往時の姿を再現するARアプリも登場しており、観光客は単なる受動的見物客ではなく、歴史空間を能動的に「発見」する学習者となりつつある
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。メディアアート分野でも、カールスルーエのZKMのようにデジタルアートを通じた社会批評の試みがなされている。ZKMではメディア技術と伝統芸術の創造的結合によって革新的成果を追求しつつ、技術が芸術を「切断する」のではなく豊かにすることを使命として掲げている
en.wikipedia.org
。具体的には、メディア技術による都市監視への批判、環境データのビジュアライゼーション作品など、アートを通じて都市社会の問題に気づきを与える教育プログラムが提供されている
en.wikipedia.org
。このように、ゲームやAR、メディアアートは都市の日常に新たな遊びや創造の回路を開き、画一化・無機質化しがちな都市生活に対するひとつの処方箋となっている。
以上の議論を総合すると、本グローバル体験プログラムの目的が明確になる。それは、「都市」という現場に身を置きつつ、メディア環境と身体性とテクノロジーの相互作用を体験的に学ぶことに他ならない。単に各都市の表面的な特色(「ゲーム産業の街」「スマートシティ最先端」等)をなぞるのではなく、都市そのものを知の担い手(learning agent)と見立て、各地の都市空間に内在する知的資源から学ぶという姿勢が求められる。この点、多和田葉子の旅に関する洞察は示唆的だ。彼女は二言語間の往復など自らの越境的創作を通じて、言語や文化がいかに「境界」で活性化されるかを示している。多和田は「母語ですら翻訳に過ぎない」と述べ、言葉の自然性・国民性を相対化する
newyorker.com
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。彼女の作品の登場人物たちは、異郷で言葉を奪われ戸惑いながらも、それゆえにゼロから世界を捉え直す創造的疎外を経験する
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。この視点にならえば、日本を出て他言語・他文化の都市に身を投じる本プログラム自体が、一種の「認識と言語の解体と再構築」の学習過程となる。各都市で感じる異質な空気、習慣、表示言語の違い、それらに身体ごと浸ることで、参加者は自身の知覚と言語を更新し、新たな視野を獲得できるだろう
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。かくして、本プログラムは単なる比較文化研修ではなく、都市という生きた教科書から理論を検証し新知を創出するための実験となるのである。
2. 各都市での調査計画とリサーチクエスチョン
以下、2026年初頭に訪れる各都市ごとに、本テーマに関連した具体的調査課題と観察計画、SDGs(持続可能な開発目標)との関連、並びに教育的意義・実務上の考慮事項を記す。限られた滞在日程で最大の学びを得るため、それぞれの都市で焦点を絞ったリサーチクエスチョンを設定し、能動的なフィールドワークを行う計画である。
アテネ(ギリシャ) – 1月26日~29日滞在予定
調査課題: 古代の学びの空間と現代テクノロジーの融合 —— アテネにおける歴史的都市空間は、デジタル技術によってどのように再解釈・再体験され、現代の学習環境として活用されているか。
観察計画: 西洋文明の礎とも言えるアテネでは、まずアクロポリスやアゴラ(古代の公共広場)といった**「学びの原点」を訪問し、その場が持つ知的雰囲気と空間構造を身体的に体感する。続いて、ギリシャ政府や博物館が導入しているデジタル技術(例えばARによる古代遺跡の復元表示アプリや、考古学博物館でのインタラクティブ展示)を実際に試し、歴史遺産のデジタル化が学習体験をどう拡張するかを検証する
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。たとえば、ヘレニック遺産財団のウェブアプリでは、スマートフォン越しに古代アゴラの賑わいがAR再現されるが
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、そのような取り組みが訪問者の理解や興味をどのように喚起するかを観察する。加えて、アテネ市内の近代的な学習インフラ(国立図書館やデジタルイノベーションハブ等)も視察し、古典的学知と現代的学習空間の連続性・断絶を考察する。
関連SDGs: SDG4「質の高い教育」を背景に、文化遺産を活用した教育(SDG11「住み続けられるまちづくり」ターゲット4の文化遺産保護・活用)に該当。デジタル技術による観光学習促進はSDG8「働きがいも経済成長も」(持続可能な観光)にも資する。
意義・実務: アテネは長時間のフライト後最初の訪問地であり、時差調整も必要なため無理のない計画とする一方、滞在3日間で効率よく主要スポットを回る必要がある。幸い遺跡は中心地に集中しており、市内移動は徒歩と公共交通で可能。現地では歴史学・考古学の専門ガイドを依頼し、単なる観光とせずアカデミックな視点で解説を受ける予定である。ここで得た知見(例:「場に宿る知」**やデジタル文化財の活用法)は、都市における歴史とメディアの関係を論じる上で貴重なケーススタディとなり、プログラム全体の理論的考察を豊かにするだろう。
ストラスブール(フランス)&ハイデルベルク(ドイツ) – 1月30日~2月1日予定
調査課題: 越境する都市文化と学習コミュニティ —— 欧州の歴史的都市において、多文化・多言語環境や大学町の伝統が現代の学習インフラに与える影響とは何か。ストラスブールとハイデルベルクという二つの都市を比較しつつ考察する。
観察計画(ストラスブール): ストラスブールはフランスとドイツの狭間に位置し、欧州議会や欧州人権裁判所を擁する「ヨーロッパの首都」である。そのため、まず欧州議会を見学し(可能であれば議場傍聴)、同時通訳システムや多言語表示など国際機関のメディア環境を観察する。そこでは24言語のリアルタイム翻訳という高度な言語メディア技術が日常的に使われており、言語の違いを超えて協働する空間設計を実感できるだろう。またストラスブール大学のキャンパスや国際センター(例えばヨーロッパ文化センター)を訪問し、多文化都市における高等教育・研究環境を視察する。街歩きでは、ドイツ風木組み建築が並ぶ世界遺産プチット・フランス地区と、EU機関の近代建築地区との対比を見ながら、市街の景観が多層的歴史をどう記憶し住民に何を学ばせているか考える(例:街中の多言語表記、博物館展示)。加えて、ストラスブール市庁が提供する市民向けデジタルサービス(都市アプリ等)があれば試用し、行政のスマート化と市民教育の関係性を探る。
観察計画(ハイデルベルク): ハイデルベルクは1386年創立のドイツ最古の総合大学を有し、「詩人と思想家の都市」と呼ばれる学術都市である
unesco.org
。訪問時には大学図書館(かつてのプファルツ選帝侯の蔵書を継承するBiblioteca Palatinaの蔵書群が所蔵されている)を見学し、歴史的書物と最新のデジタルアーカイブ設備を観察する
unesco.org
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。また大学周辺の学生文化(学生書店や哲学者の小径など)を歩き、都市が学習コミュニティと一体化している様子を体感する。ハイデルベルクはUNESCO創造都市ネットワークの「文学都市」に加盟しており、約45,000人の学生と200人もの作家・翻訳者が暮らす文学的な土壌をもつ
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。この現状について市当局や文学資料館から話を聞ければ理想的である。具体的なインタビュー先として、ハイデルベルク市クリエイティブ産業支援センター(文学系スタートアップ支援を行う施設
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)や市立図書館の職員を検討中である。そこで、都市ぐるみで文学・学術を奨励する政策(例えば市民講座や文学祭など)がどのように運営され、若者の学びに寄与しているかを伺う予定だ。
関連SDGs: 二都市とも教育と文化がキーであり、SDG4「質の高い教育」、SDG11「住み続けられるまちづくり」の文化遺産・コミュニティ、多言語共生はSDG16「平和と公正」(多文化社会の強靱性)にも関連。特にストラスブールの欧州機関は国際協調と制度の強化(SDG16)、ハイデルベルクの文化政策は持続可能な都市文化(SDG11目標4)に該当する。
意義・実務: ストラスブールとハイデルベルクは地理的に離れているため、時間配分と移動手段に注意が必要。今回はストラスブールからドイツ南部への移動ルート上にハイデルベルクが位置するため、1月30日にアテネから空路ストラスブール入りし、1月31日に鉄道でハイデルベルクへ移動、一泊後2月1日にフランクフルト経由でヘルシンキに向かう計画である。このタイトな日程ゆえ、各都市での滞在時間は実質1日程度と限られるため、事前に訪問先とのアポイントや見学予約を綿密に設定しておく必要がある。教育的成果としては、欧州の多文化・学術都市における学習空間の多様性について具体的な知見を得られることが期待できる。特に、ストラスブールでの多言語メディエーションの現場と、ハイデルベルクでの都市と大学の共生関係を比較することで、都市が学習者に提供しうる環境要因(言語環境、歴史的資源、コミュニティの雰囲気)の重要性を体感的に理解できるだろう。これらは帰国後の研究論文執筆時に、理論面(例えば多和田葉子の言語境界論や今福龍太の身体知論)を実証的に裏付けるエピソードとして活用できる。
ヘルシンキ/エスポー(フィンランド) – 2月1日~14日(アールト大学ウィンタースクール)
調査課題: 北欧における創造都市の学びとデザイン —— ヘルシンキ首都圏は、先進的な教育制度・デザイン思考・スマートシティ戦略で知られる。アールト大学でのウィンタースクール参加を通じ、デザインとテクノロジーが融合した学習環境を直に体験しつつ、都市空間(ヘルシンキ市内)が提供するイノベーティブな学びの場について研究する。具体的な問いは、フィンランドの都市設計や施設(図書館、大学キャンパス、オープンデータ)には、人々の創造性や身体的学習を促進するどのような工夫が施されているか。
観察計画: 期間中は主にエスポー市に位置するアールト大学のキャンパスに滞在し、ウィンタースクールの講義・ワークショップに参加する。ここではメディアアート、HCI、都市デザイン等の専門家との交流が見込まれ、研究テーマに関連した知見を吸収できる。例えば、アールト大学メディアラボで行われている都市データ可視化プロジェクトや、ゲーム研究(ユバスキュラ大学などとの連携があるかもしれない)について情報交換したい。並行してヘルシンキ市内も積極的に調査する。必訪はヘルシンキ中央図書館Oodiである。Oodiは2018年開館の最新鋭図書館で、市民の**「リビングルーム」とも称される開放的空間だ。1日2万人が訪れると言われるOodiでは、単なる蔵書閲覧に留まらず、デジタル工作機器を備えたメイカースペースや音楽スタジオ、カフェなどがあり、市民の創造活動や生涯学習を支えている
substack.com
designingschools.org
(出典: Substack記事およびOodi公式サイト)。この図書館の設計(3層構造で活動フロア・くつろぎフロア・学習フロアが分かれる)やサービスデザイン
oodihelsinki.fi
を観察し、人間中心設計が学習環境に与える影響を考察する。加えて、ヘルシンキ市が推進するスマートシティ施策(例えばバスの自動運転実験地域、街区のエネルギー自給デザイン、都市IoTサービスなど)の現場を見学または担当者にインタビューしたい。エスポー市は「持続可能な都市開発」のモデルケース(例えばカウニアイネン地区のスマートエネルギー住宅地開発)もあるため、時間が許せば視察する。フィンランドは教育水準・デジタル政府度で世界トップクラスであり、e-Residencyなどエストニアに触発された試みも行われている。これらを包括的に調べ、北欧型スマートラーニングシティの特徴を整理する。
関連SDGs: SDG4「質の高い教育」(高等教育・市民教育の充実)、SDG9「産業と技術革新の基盤」(スタートアップ支援、イノベーション施設)、SDG11「住み続けられるまちづくり」(市民図書館や公共インフラの充実)に該当。特にOodi図書館は市民参加型の設計プロセスと持続可能素材の活用でSDG11に合致、アールト大学のデザイン教育はSDG4のターゲットとして有益。
意義・実務: 約2週間の比較的長期滞在となるため、最も腰を据えて調査ができる都市である。その反面、真冬のフィンランドは日照時間が短く寒冷なため、無理のない行動計画と防寒・健康管理が重要となる。ウィンタースクールでは、自身の研究テーマに即したプロジェクトや現地学生とのディスカッションの機会を最大限活用し、理論と実践を統合する成果(例えばプロトタイピングやプレゼン)を出すことを目指す。またヘルシンキ滞在中、隣国エストニアへのショートフィールドワーク(後述のタリン訪問)も予定しており、北欧とバルトのデジタル社会を比較する好機となる。総じて、この期間に得られる経験値は本プログラムの中心を成すものであり、帰国後の研究論文や制作において北欧モデル**として参照できるだろう。教育的成果として、デザイン思考やサービス設計の具体例を自ら体験し知識化できる点、および国際的学術ネットワークを構築できる点も大きい。例えばOodi図書館で見た包摂的デザインや、市職員との対話から学んだ市民参加の政策立案手法などは、将来東京での都市づくり研究にフィードバックできる知見となる。
タリン(エストニア) – 2月14日~16日滞在予定
調査課題: デジタル国家における都市生活と学び —— エストニアの首都タリンは、世界最先端の電子政府とデジタル社会を有する。一方、中世以来の旧市街を保存する歴史都市でもある。この対照的側面を持つタリンにおいて、高度にデジタル化された都市サービスが市民の学びや生活をどう支え、また歴史環境と共存しているかを調査する。
観察計画: ヘルシンキからフェリーで2時間程度の距離にあるタリンを訪問する。まず「e-Estonia Showroom」やエストニア情報システム庁(RIA)など、国外向けにエストニアのデジタル社会を紹介する施設を見学し、国民IDカードを核とした電子行政サービス群(オンライン納税、電子投票、医療記録閲覧等)のデモを体験する。事実、エストニアでは99%の行政サービスが24時間オンラインで利用可能とされ
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、市民は役所に行かずとも殆どの手続きを済ませられる
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。この利便性が都市生活に与える影響(例えば市民の時間の有効活用、行政への信頼、ITリテラシー向上など)について、可能ならe-Estonia関係者へのインタビューや、市民への聞き取り調査を行いたい。またタリン市役所が提供する都市アプリやオープンデータポータルを触り、市民参加型プラットフォーム(例:タリンの市民主導予算アプリ)が機能しているか検証する。加えて、旧市街(世界遺産)を徒歩で巡り、石畳の歴史地区にフリーWi-Fiやデジタルサイネージがどの程度整備されているか観察する。観光案内にARアプリが使われていれば試してみる。タリンはまたITスタートアップの集積地でもあるので、TechHubやLift99といったコワーキングスペースを訪問し、都市がイノベーターを引きつける要因(行政の支援策、生活環境の魅力など)を感じ取る。もし可能であればエストニアの教育機関(タリン大学やタリン工科大学)も訪ね、ICT教育やメディア研究の取り組みを伺うことで、デジタル社会を支える人材育成について知見を得たい。
関連SDGs: エストニアのデジタル行政はSDG16「平和と公正の制度」(ターゲット7の公開情報・透明性)やSDG9「産業と技術革新の基盤」に寄与。教育面ではSDG4、都市環境と歴史保全ではSDG11に該当。特にタリン旧市街はSDG11.4(世界遺産保護)、デジタルID普及はSDG16.9(誰もが法的身分を持つ)に関連。
意義・実務: タリン訪問は2日程度と短いが、デジタル政府の実例を肌で感じられる絶好の機会である。渡航実務としてはヘルシンキとの往復フェリーを事前予約し、時間を有効活用する。冬季のバルト海は天候により欠航の可能性もあるため、日程に余裕を持たせリスク管理を行う。タリンで得た知見は、「電子国家」の先端事例として本研究に厚みを加えるだろう。例えば、日本のマイナンバー制度との比較検討の材料になり、都市と国家のデジタル基盤づくりに関する考察が深まる。また、中世の街並みとサイバネーションが共存する光景は、都市の時間的レイヤーについての理解を豊かにし、歴史と技術の調和というテーマで論述する際の具体例となる。
カールスルーエ(ドイツ) – 2月16日~19日滞在予定 (訪問先: ZKM他)
調査課題: メディアアートによる都市への問いかけ —— ドイツ南西部の中規模都市カールスルーエは、メディア芸術の殿堂ZKMや工科大学を擁し、芸術と科学技術の対話が活発な街である。ここではメディアテクノロジーが都市社会の課題をいかに映し出し、人々の気づきや学びを促しているかを調査する。特にZKM(アート・メディアセンター)での展示・活動を通じて、ゲーム的要素やインタラクティブ技術が市民の批判的思考や創造性に与える影響を探る。
観察計画: カールスルーエ滞在の主眼はZKM | Art and Media Centerの訪問である。ZKMは1989年設立以来、伝統芸術とメディア技術の創造的結合を掲げ、デジタル時代の芸術の可能性を探究してきた
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。まず常設展示や企画展を見学し、データアート、バーチャルリアリティ作品、生体情報を用いたインスタレーション等を体験する。例えば、都市の監視カメラ映像をリアルタイム解析する作品や、環境センサーのデータを音・映像に変換した作品など、都市問題(プライバシー、気候変動)をテーマにした作品があれば重点的に観察する。各作品について、鑑賞者(市民)が参加できるインタラクションの有無、そしてそれが鑑賞者にどんな問いを投げかけるかを記録する。ZKMの研究部門Hertz-Labの公開情報にも目を通し、アーティストと科学者の協働によるプロジェクト(例: AIと創作、ゲームエンジンを用いた都市シミュレーションなど)があればヒアリングしたい。加えて、ZKM併設のカールスルーエ造形大学(HfG)があればキャンパスを見学し、学生作品やカリキュラムから教育面の特色を掴む。市内では、バロック時代に計画された扇形の街路構造が特徴的であり、街そのものが「設計されたメディア空間」とも言える。市中心部のマルクト広場に設置されたメディアアート作品やインタラクティブな公共設備があれば注目する(例:広場のライトイルミネーションが人の動きに反応する仕掛け等)。また、近郊のシュツットガルトやマンハイムが創造都市ネットワークに参加していることも踏まえ、カールスルーエ市によるデジタル文化政策(市民ワークショップ開催やハッカソン支援など)があれば調べる。
関連SDGs: メディアアートは直接的にSDGsに結び付かないように見えるが、そのテーマ設定次第でSDG4「教育」(芸術教育・市民啓発)、SDG11「持続可能な都市」(市民参加・文化)、SDG13「気候変動」(環境意識喚起)等に貢献し得る。ZKMはデジタル文化遺産の保存も使命としており
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、これはSDG11.4(文化遺産の保護)にも関連。さらに、都市と科学技術の対話促進はSDG9にも資する。
意義・実務: カールスルーエへはタリンから航空機と鉄道で移動予定(タリン→フランクフルト空路、鉄道で約1時間)。3日間の滞在で比較的ゆとりがあるため、ZKMには少なくとも2日訪問し、展示鑑賞とリサーチ活動(メモ取り・写真記録)を行う。事前に展示スケジュールを確認し、可能なら学芸員の方にインタビューアポイントを取っておきたい。ここでの学びは、アートというレンズを通した都市・社会分析の手法を体験できる点にある。メディア技術を批判的に扱う姿勢や、ゲーム的インタラクションで来館者の主体性を引き出すデザインなど、他都市とは異なるアプローチが多く示唆されるだろう。これらは自分の研究に新たな視座を与え、都市の課題を創造的に考えるヒントとなる。またドイツ語圏での調査となるため、言語面のチャレンジもあるが、ここまでの旅程で培った多言語環境でのコミュニケーション力(多和田葉子が言う「境界そのものへの関心」
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を持って臨むことで克服したい)。実務面ではユーロ圏であるため決済等は容易だが、一方で滞在中にパリ・デカルブ症候群(文化摩擦)が起こり得ることも念頭に、柔軟な姿勢で異文化に向き合う所存である。
チューリッヒ(スイス) – 2月19日~22日滞在予定
調査課題: テクノロジーと生活質の両立する都市モデル —— チューリッヒは世界的な生活環境の良さと技術革新のバランスが取れた都市として知られ、近年のスマートシティ指標でも常に上位にある
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。本調査では、高度に効率化・デジタル化された都市サービスが市民のQoL(生活の質)向上につながっている実態を探り、都市のスマート化が真に人々の幸福に貢献する条件を考察する。加えて、金融センターでもあるチューリッヒにおいて、人々の学習環境(学校・図書館・博物館など)がどのように整えられているかを見る。
観察計画: チューリッヒ市はIMDの世界スマートシティ指数で2020年以降連続首位を占めており、市民評価において構造面・技術面とも最高評価(AAA)を得ている
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。具体的に優れているとされる項目は、医療、リサイクル、公共交通、新規雇用、政治参加、インターネット速度等である
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。そこで、まず公共交通機関(路面電車やSバーン)やごみ処理システムを利用・見学し、その利便性・環境性能を実感する。例えば、市内のトラム網は定時性・清潔さで有名であり、乗客として体験する中で利用者視点の設計(時刻のわかりやすい表示、多言語アナウンスの有無、車両のバリアフリー度など)を観察する。また、チューリッヒ市のスマートシティ戦略担当部署が公開している情報(例:都市データダッシュボード、スマート街路灯の設置状況)を予習し、可能なら担当者へのヒアリングを申し込む。市内のETHチューリッヒ(スイス連邦工科大学)にも足を運び、キャンパスのオープンな雰囲気や産学連携の様子を視る。ETHには「未来都市ラボ」的な研究拠点もあるため、そちらの展示や出版物があれば入手したい。さらに、市立図書館や子ども向け科学館(テクノラマ科学センターは隣町だがチューリッヒにも科学館があるか確認)を訪問し、市民の学習リソースへのアクセス環境を評価する。夕方には地域の人々にインフォーマルな聞き取りを行い、デジタルサービスへの満足度(例えば行政手続オンライン化、交通アプリ、治安監視カメラ等)や不満(家賃高騰など都市課題)について生の声を集めたい。また、美しいチューリッヒ湖周辺での公共空間利用(市民が湖畔でジョギングや読書している様子等)も観察し、テクノロジーだけでなく自然環境との調和が市民の幸福感に寄与している点にも留意する。
関連SDGs: チューリッヒの取り組みはSDG11「住み続けられるまちづくり」(交通・住宅・緑地・廃棄物管理)、SDG3「すべての人に健康と福祉」(高品質の医療制度)、SDG9「産業と技術革新」(スマートシティ技術)に該当。特に公共交通やリサイクル施策はSDG11.2(持続可能交通)やSDG12.5(廃棄物削減)を直接支援。さらに政治参加の高さはSDG16(透明で参加型の制度)にも関わる。
意義・実務: チューリッヒでは3日間滞在し、欧州出張の最後を飾る。物価が非常に高い都市であるため宿泊・食費には注意が必要だが、安全性が高く単独行動もしやすいと予想される。本調査の集大成として、チューリッヒで観察した**「テクノロジーと生活質の両立」**という実例を、自身の研究にフィードバックする計画だ。これはチェンが述べた「マッチョな技術志向を超えた豊かなビーイング」
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を実現する都市像に近いものでもあり、現場で見聞きした具体例(例えば市民主導のスマートシティプロジェクト、公園での無料Wi-Fiと人々の憩い方など)は、理論的考察を肉付けする生きた証拠となる。教育的にも、国際金融都市でありながら環境・福祉にも優れるチューリッヒを経験することで、持続可能な都市経営のモデルを体得できるだろう。特に東京のようなメガシティとは異なる中規模都市ならではの強み(スケールメリットと小回りのバランス)について学べる点は貴重であり、将来的な都市政策研究に役立つ知見を蓄積できる。
シンガポール – 2月22日~26日滞在予定
調査課題: アジアにおけるスマートネイションの現実 —— シンガポールは国家レベルで「スマート国家(Smart Nation)」構想を掲げ、都市全域で先端技術を導入している。監視社会的側面への批評もある中、スマートシティ施策が人々の日常・学習環境をどう変え、課題にどう応えているかを多角的に検証する。併せて、多民族・多言語国家であるシンガポール独自の文化的文脈がテクノロジー実装に与える影響も探る。
観察計画: まずSmart Nationに関する展示を行う施設(例:Smart Nation CityScape展示館)を訪れ、政府主導のスマート施策全体像を把握する。注目領域は、キャッシュレス決済普及、国民IDシステム「SingPass」、モビリティ(MRT自動運行・電子道路料金ERP)、都市監視網(高密度のCCTVと指認証アクセス)、住宅政策(HDB団地でのスマートホーム導入)などである。街歩きでは、中心部マーライオン公園やオーチャードで観光客向けARナビゲーションや多言語サイネージを観察し、都市空間で誰もが恩恵を受けるユニバーサルデザインか検証する。例えば、歩道に設置された環境センサーやデジタル案内板が実際に市民に活用されているかを見る。さらに、教育面ではシンガポール国立大学(NUS)や南洋理工大学(NTU)を訪問し、キャンパスのスマート化(オンライン出席や電子教材活用)を伺うか、もしくは科学センターを見学し子供向けSTEM教育環境を確認する。また、シンガポール独自の複合現実都市計画として、デジタルツインを用いた都市管理(バーチャルシンガポール計画)に触れたい。資料入手や関係者インタビュー(難しければ文献調査)を通じ、その進捗と成果を調べる。夕刻には、ホーカーセンター(大衆食堂)など庶民的空間でICTが浸透している様子(QRコード決済端末の有無、防犯カメラの存在と人々の意識)を観察する。技術による管理と利便のバランスについて、市民の声も可能なら集めたい(例:「TraceTogether」と呼ばれるコロナ追跡アプリ使用への受け止めなど)。これらの調査から、スマートシティの最先端モデルであるシンガポールの実情と、その文化的背景(政府への信頼感、他民族調和の理念など)を浮き彫りにする。
関連SDGs: SDG11「住み続けられるまちづくり」(安全でレジリエントな都市サービス)、SDG9「産業と技術革新」(ICTインフラ)、SDG16「平和と公正の制度」(良いガバナンス)。シンガポールの公共住宅政策はSDG11.1(安全な住宅)に絡み、教育水準向上はSDG4。環境面ではSDG13(スマート気候対策)やSDG7(スマートグリッドによるエネルギー効率)にも関連。特に、国家的ICT戦略はSDG17(パートナーシップによる目標達成)を横断的に支える。
意義・実務: シンガポールは本プログラム最後の訪問地であり、アジア圏で日本とも地理的・文化的に近い分、結果を日本に還元しやすい事例となる。4日間の滞在で都市国家の全貌を掴むのは容易ではないが、ポイントを絞って調査する。高温多湿の熱帯気候で体力消耗が予想されるため、日中の動き方を調節し、水分補給に留意する。教育的意義としては、最先端テクノロジーによる都市運営の利点と影を直視することで、批判的思考力を養えることが挙げられる。例えば、便利だが管理も強まる社会において人々は何を感じ、どう適応しているのか、自身で肌で感じ考察することは、机上の議論にはない深い理解につながるだろう。これはチェンの言う「マッチョなスマートシティ」を乗り越えるヒント(人間の弱さや多様性を活かす設計)を得る手助けにもなる。さらに、日本の都市がシンガポールから学べる点・学ぶべきでない点を整理し、今後の研究発信(政策提言や論文)に活かすことが期待できる。
以上、訪問各地での具体的調査計画を概説した。いずれの都市においても、単なる観光や表面的視察に留まらず、理論で学んだ視点を現地の空間・人々・システムに当てはめて検証することを重視する。加えて、SDGsというグローバルな目標枠組みを常に念頭に置くことで、自身の観察を地球規模の課題意識と結び付け、単一都市の特殊例に終わらせないよう努めるつもりである。最後に、本プログラム全体を通じた期待される学習成果をまとめておきたい。それは、都市という現場で得た多様な経験知を統合し、「都市における学習」についての包括的な理論モデルを構築することである。吉見俊哉・落合陽一らの示す都市メディア論、今福龍太・多和田葉子らの強調する身体性と言語の越境、そしてチェン・三宅陽一郎らの描くテクノロジーと都市の未来像──これらを実地の知見で補強し、自身の研究課題に即した形で再構築してゆく。各都市で出会う人々との対話や、自らの身体で感じ取った都市の表情は、きっと文献から得た知識を生きたものに変えるだろう。限られた日程と資源の中ではあるが、本計画を綿密かつ柔軟に遂行し、修士課程での学びを飛躍させる契機としたい。多くの都市に直接触れるこの経験は、「都市とは人々が交わり創発が生まれるプラットフォームである」という仮説を実感をもって裏付けるとともに、将来のグローバルな研究者・実践者として視野とネットワークを広げる絶好の機会になると確信している。
参考文献・出典(文中に示した出典は以下に整理):
吉見俊哉・石田英敬他『デジタルスタディーズ③ メディア都市』解説
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(東京大学出版会, 2015年)
落合陽一「『魔法の世紀』から『デジタルネイチャー』へ」
note.com
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(note.com掲載記事, 2025年)
Dominique Chenインタビュー「スマートシティの既存イメージを乗り越える新たなビーイング」
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(note.com「スマートシティとキノコとブッダ」連載, 2021年)
今福龍太コメント「トランス・ダンスとカメラの一体化」
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(映像人類学討論会記録, 1999年)
三宅陽一郎×豊田啓介インタビュー「ゲームAIが都市に溶け出すとき」より「コモングラウンド」概念
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(WIRED.jp, 2022年)
多和田葉子インタビュー記事「言語の境界」
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(NewYorker, 2022年)
West, Geoffrey 'Scale' に関するサマリー
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(Aibrary要約, 2023年)
ギリシャ観光相発言「ARが文化観光を充実させる」
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(Greek City Times, 2025年11月)
ハイデルベルク市紹介「詩人と思想家の都市」
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(UNESCO Creative Cities Network公式, 2014年)
エストニア電子政府解説「99%の行政サービスがオンライン」
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(Wikipedia “e-Estonia”, 2022年更新)
ZKM概要「メディア技術と伝統芸術の結合」
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(Wikipedia “ZKM”, 2021年)
スイスGlobal Enterpriseニュース「チューリッヒ、スマートシティ指数首位」
s-ge.com
(S-GE, 2025年4月)