**補遺**
本実験書は,「**奥付**」を見ればわかるように,33年の積み重ねの結果として存在する.基礎的な実験の普遍性と時代の変遷に伴う技術基盤の変化を眺める時,万感の思いがよぎるものである. 簡単に本書および本実験の変遷を繙いておく.
1991年:初版
龍谷大学理工学部電子情報学科の3年生科目「電子情報実験」の実験テキストとして作成された.
体裁はA4サイズのプラスチック2穴バインダー綴じであった.このため,カバンの中でかさばるとして,学生からは不人気であった.
1993年:第3版
一部にLaTeXを使った版が登場.ただしテーマによっては別の組版だったために,不統一な形での印刷を行っていた.
初めてくるみ印刷を採用した.
2003年:第13版
実験が前期・後期に分かれ,半年繰り上がった.すなわち2年生後期に実験Iを,3年生前期に実験IIを行う.それに伴い大幅な改訂を行った.
実験書は前期版と後期版に分けられ,共通編に該当する部分は両方の版に含まれることとなった.
2007年:第17版
実験は2年生の前期・後期科目となった.この年は前期に旧カリ3年の実験IIと新カリ2年の実験Iが同時進行したためハードな一年となった.
2012年:第22版
前期・後期のテーマ毎に体裁がバラバラであったのを前後期合本となった.組版は本実験独自のスタイルファイルを使ったLaTeXで統一し,ノンブルも通した一冊の統合版となった.以降毎年改訂と追記を重ね,統合版最後の2017年版では,ページ数は300頁に達した.
2018年:第28版
テーマの自由度を向上する等の目的で,統合版を分離.テーマはそれぞれで作成されることとなり,統合版からテーマ共通部分をくくりだし.本実験書が誕生した.
※タイトルは「共通編」ではなかった.2020年度までは共通部分だけなのに「電子情報通信実験I・II」というタイトルだった.このため他テーマの実験書の呼び名で混乱をすることもあった.
2020年:第30版
コロナ禍により実験は前代未聞のオンラインとなった.
本実験書は実験が始まって30年の節目において初めて、印刷されずにPDF版としてオンラインでの配布となった.
2021年:第31版
共通部分を抜き出した編のタイトルを「電子情報通信実験I・II 共通編」とした.
対面実験に戻ったため、B5版での印刷・配布を行った。
授業は前期が対面ハイブリッド、後期が全面オンラインとなった。
2022年:第32版
一部対面の判断であったが,印刷をやめてオンライン配布のみとした.
授業形態は前後期共、対面ハイブリッドとなった。
PDFを章ごとに5つのファイルに分割し,アクセス性の向上を狙った.
2023年:第33版
さらにオンライン化を進める目的で,scrapbox化が図られた.scrapboxからのPDF化されたものも共有された.
◆さいごに◆
30年を超えて実験書の編纂・改訂に携わることができて,誠に幸せであった.
しかし2021年以来,印刷版がないことについては,複雑な思いを抱かざるをえない.
オンライン版のメリットを感じたのは,
印刷業者からの納品期間がない故に,実験ギリギリまで,実験準備と並行して改訂作業に使えたこと.
また,実験の最中に改訂することが可能だったこと.
できたてほやほやの実験書を届けられるという嬉しさはあった.
一方で,PDFだけで果たして学生諸君はちゃんと読んでくれるのかという新たな不安が頭をもたげる.これはコロナ収束に向かいつつある2023年であってもまったく拭いきれない.
ただ逆に,いままで印刷版さえ渡せばよいという安易な意識にもたれていたのかもしれないと反省する気持ちもある.
印刷版が手元に残らないのは,本好きの私としては極めて寂しいことではあったが,2023年、scrapbox化することで,検索の自由度,改訂・更新の自由度を格段に向上させられるのはやはり良いことだと思っている.
オンライン教材に印刷物とは異なる存在価値がある一方で,手元でペラペラとめくる印刷資料の手軽さや手元においておく安心感は消し去ることはできない.
また,実験は実験書があればよいと言うものではない.今という時代は,理解と考察を深めるための,複合的な教材提示の工夫が求められるしそれが可能な時代だと,強く感じている.
今後も,実験の教材や指示書が巧みに工夫され,様々なメディア形式で展開し,学生諸君がより深く理解し考察するための全方角的アプローチを構築していきたいと願い,また必ずそうなっていくであろうと信じている.
2023年3月吉日
共通編編集者:藤井大輔