70.i 負論理
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 JIS X5101 をはじめとして,通信回路・回線においても,また電子回路の実装においても,多くが負電圧を’1’とし,正電圧を’0’ と扱うように規定している.これを信号の負論理という.
※1,0の値が逆転しているわけではないことに注意.逆転しているのは信号の電位.
これは回路や線路に信号を実際に伝送する上で有利であるという実利的な理由による.
■ ノイズ耐性
「70.A データ通信の形態 」で述べたように,ディジタル信号は高い周波数成分を含んでおり,自分自身がパルスであるがゆえに,パルス状のノイズに弱い.
特にシリアル伝送の場合は,伝送の最初と最後――調歩同期ではスタートビットとストップビットがパルスノイズによって正しく認識できなければ,デコードも正しく行われず,いわゆる「文字化け」の原因になる.
そういうパルス状ノイズの多くは正電圧なので,負論理にして伝送すれば,デコードの際に’1’ の信号とノイズを混同することがない.
■ 電圧耐性
電子回路においても,本実験のような通信線路においても,ディジタルデータをベースバンド伝送する場合,大きな電力成分を含むために,電力消費による電圧減衰が生じる.
これに対して負論理であれば,電圧降下が生じて’0’ である値の正電圧が多少落ちても,’1’ である値の負電圧の認識率はあまり落ちることがない.
また,TTL IC のようにしきい電圧が小さく,ノイズマージンが狭い回路の場合も同様で,正電圧での動作よりも負電圧 (または 0V) での動作の方が,回路の誤動作を招かずにすむ.
※しきい電圧:回路が動作する電圧の電位差.TTL IC だと 0.8 V~ 2.0 V 程度
※ノイズマージン:回路が誤動作する電圧の上限と下限の電位差.TTL IC では約 0.4 V
※昨今の電子回路はCMOSで構成されることが多い.CMOS回路の場合は正論理,負論理ともに処理効率は変わらずに稼働する.
以下,Geminiに聞いた回答を添付しておく.
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Q.X5101規格の信号はなぜ負論理で伝送されるのか?規格が決定された経緯と,負論理のメリットを教えて下さい
【X5101規格の信号が負論理で伝送される理由と、そのメリットについて】
X5101規格の信号がなぜ負論理で伝送されるのか、その背景には歴史的な経緯と、負論理が持つ特有のメリットが深く関わっています。
1.規格決定の経緯
X5101規格が制定されたのは1971年です。それ以前,1960年代から電子回路や通信が急速に発達してきた時期に,負論理伝送が広く採用されるようになりました.当時は、電子回路の技術が現在ほど高度ではなかったため、ノイズ対策や回路の安定性が非常に重要視され,負論理はその安定した実現のために考案されました.
トランジスタの特性: 当時のトランジスタは、現在よりも性能が低く、特に低電圧領域での動作が不安定でした。負論理を採用することで、トランジスタのオン状態をより安定的に確保し、誤動作を防止することができました。
ノイズの影響: 電子回路では、外部から様々なノイズが侵入し、誤動作の原因となることがあります。負論理は、ノイズの影響を受けにくいという特徴があり、信頼性の高いシステムを構築する上で有利でした。
以上のように,負論理は初期のコンピュータや電子回路で広く採用されていたため、その流れを継承する形でX5101規格でも採用されたと考えられます。
2.負論理のメリット
負論理のメリットは以下のように考えられます.
ノイズ対策: 前述の通り、負論理はノイズの影響を受けにくいという特徴があります。これは、論理レベルの遷移が、ノイズの発生しやすい電圧領域を避けるように設計されているためです。
回路の安定性: 負論理は、トランジスタの特性を活かし、回路の動作を安定させることができます。特に、低電圧領域での動作が安定するため、バッテリー駆動の機器など、電源電圧が低いシステムに適しています。
https://gyazo.com/1c7b75354e28727a83054d0d68b82d9e
3.まとめ
X5101規格の信号が負論理で伝送される理由は、ノイズ対策と回路の安定性という観点から、当時の技術レベルにおいて最適な選択であったためです。
※ただし、現代においては、CMOS回路の性能向上により、負論理と正論理のどちらを採用しても、ほぼ同等の性能が得られるようになっています。そのため、新しい規格では、必ずしも負論理が採用されるとは限りません。
補足:
X5101規格: 日本の電気通信事業者間で利用されるデジタル伝送方式の一つです。
負論理: 論理値の「0」を高い電圧レベルで、「1」を低い電圧レベルで表現する方式です。正論理はその反対です。
CMOS回路: Complementary Metal-Oxide-Semiconductorの略で、現在のデジタル回路の主流となっている回路方式です。
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以上.
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2024/9/18