70.A データ通信の形態
1.1データ通信の大まかな分類
データ通信の形態・分類についておおまかに分けると,次のようになる.
a. 扱う信号の種類:アナログ信号かディジタル信号か
b. 伝送の方式:パラレルかシリアルか,回路の規格は何か
c. 通信手順 (protocol):接続後の「会話」の進め方
それぞれのレベルで複数の形態・方式があるので,実に数多くの組合せが存在しうる.
本実験では,次の通信方式を採用している.
a. ディジタル伝送 > b. シリアル通信 > c. 調歩同期方式
これは,通信の形態としてもっとも基本的かつシンプルであり,コンピュータそのものと同じくらい長い歴史をもちながら,今なお広く利用されている形態である.
※赤外線リモコン,ロボット等の制御,照明装置の制御(DMX),CUI端末からサーバへのアクセスなど
1.2伝送の形態
■ アナログ伝送 (analog transmission)
アナログデータとは,時間の経過に対して連続的に変化する物理量を表現するデータである.
アナログ伝送とは電圧や電磁波などの連続的変化を利用した伝送をいう.
※電気信号,光信号,電磁波はすべてアナログ
アナログ信号による情報伝達は,信号の振幅,位相,電圧の周波数,パルスの振幅・間隔,軸の角度,液体の圧力等といった信号†45 の大きさや値によって行なわれる.
※信号は必ずしも電気信号とは限らない.参照:文献01
通信装置の開発と通信理論の成立とともに,通信の規模や距離といった目的によって,元の信号の形を変えてより多くの信号を正確に伝送する工夫が続けられてきた.
これを変調といい,ラジオなど無線では FM 変調,AM 変調が主流である.
■ ディジタル伝送 (digital transmission)
ディジタルデータとは,有限個の異なる(離散的な)記号で表されるデータのことである.
M 個の記号で構成されたデータは M 進†47 データと呼ばれる.
※参照:文献05
ディジタル信号による情報伝達は,離散的なディジット列で形成されたデータを伝送することである.
信号の離散的状態とは例えば特定電圧の有無,接点の開閉状態,光学ディスク上の特定位置における穴の有無などである.
■ ディジタル伝送の技術的難点
伝送の実際では離散データを離散データのまま伝送することは,技術的な困難が伴う.
理論的にディジタル信号とはある状態から別の状態に 0 秒で状態遷移する信号である.
無線であれ有線であれ,伝送には物理現象を利用しているため,理論的なディジタル信号はこの世界には存在しない.つまり現実的に解釈すれば,ディジタル伝送とは,
「アナログ信号の一部を読み取ることでディジタルと見なす」伝送のことである.
※非常に高速に遷移する光通信であってもファイバーを通ればアナログ信号として減衰やなまりが生じる
したがってディジタル信号のままで受送信するには,伝送上の問題が生じる.
A. 伝送速度が上がると,ディジタル波形のなまり,デコード不可能になる
――ディジタル波の基本である方形波は,理論的には ∞Hz の周波数成分を含んでいる
※パルス波を表すフーリエ級数を思いだそう $ f(x)= \frac{4}{\pi}\{sin(x)+\frac{sin(3x)}{3}+\frac{sin(5x)}{5}+…\}
しかし一般に伝送線はその周波数特性として,高周波になれば大きく減衰する.
→ 高周波成分が低くなると波形は丸く「なまる」.
→ なまりがひどくなると,’0’ と’1’ のスレッショルドがあやふやになり,ディジタル値の判定が不正確になる.
B. パルス状のノイズの混入がデコードミスにつながる
――ディジタル信号は伝送速度が高くなると一状態の幅が狭くなる.
高速なディジタル波はパルス波が大量に送られていると言える.
そこへ外部からパルス状のノイズが混入すると,受信側は見分けがつかず,デコードの段階で誤動作するリスクが高くなる.
それゆえ,多くのインタフェースは負論理伝送や位相反転回路を採用し,極端なノイズの混入を回避している ※参照:B.09 負論理 上記のような理由により,一般にはディジタル信号は長距離の伝送に強くない.
それを克服するために,ディジタル信号の形を変換してアナログ信号として送信し,受信側でディジタル値に戻す装置がモデムである.
2023/9/17