■■エピソード(1) 混乱■■
本日未明,ほとんど人のいない社内に警告音が鳴り響いた.原因不明の大規模ネットワークトラブルが,なんの前触れもなく発生したのだ.本社の業務系サーバの通信が分断され,本部,支店,関係先,顧客を巻き込んだ大混乱が生じている.スマホからは会社ページが見えてるので外部のトラブルではない.どうやらやられているのは第1データセンターだけで,第2データセンターは普段,メインの幹線から切り離されているため,無事らしい.
データ管理部はすぐさま有志を募った.トラブル発生から2 時間後,集まったのは部署を超えた20 数名.「データサーバ復旧タスクフォース」が動き始めた.
そう,ここに集まった諸君の肩に社運がかかっている.
最優先は顧客データを守ること.データサーバに直接ログインしてファイルシステムを完全に切り離し,トラブルを免れた第2 データセンターに移設し,メイン幹線に切り替える.
しかし,ここに問題があった.
データサーバ管理システムはWeb上にあり,Ethernet が使用不能な今,リモートアクセスの手段がない.管理システムにアクセスできない限り,このままではシャットダウンすらできない.
重苦しい沈黙.
時間だけが正確に流れていく.我々になすすべはないのか……全員が頭を抱えた.
その時,あることを思い出したメンバーがいた.
「サーバに直接接続されているシリアルラインが,まだ生きているかもしれません」--彼は30 年前,本社最初のサーバシステムを構築した時の電算部門配属の新人だった.
「長いこと使ってないから生きてるかどうか…….確かシリアルラインは複数あって,セキュリティの関係で通信条件がバラバラに設定されていたはずです.設定のメモがサーバ室にあったと思うんですが,なにせ30年前のことですから……」--シリアルラインのコネクタはすぐに見つかった.だが,いくら探しても設定メモはどこにもなかった.
偶然なのか,故意か.だれかが隠したのか…….
ともかく今は,複数のシリアルラインの通信設定を解明し,サーバにログインすること.
これが諸君サーバ復旧タスクフォースに与えられた最優先ミッションである.