音の名前・調性
概要
音の名前と調性の概念について整理します。音を表す方法は音名・階名・音度の3種類があるというのがポイントです。すぐに使える技法というわけではないので退屈かもしれませんが,わかっておくと音楽の理解がクリアになります。これからの記事でわからないことがあれば参照するかたちでもよいです。
整理を目的としているため,本当にゼロから知りたい場合はSoundQuest(SQ)を参照することを推奨します。本稿に対応しているSQのページは以下です。
準備編 - SoundQuest https://soundquest.jp/category-archive-prerequisite/ 全て
音名と階名 - SoundQuest https://soundquest.jp/quest/melody/melody-mv1/scale-degree-and-solfa/
音の名前
音名
音の高さによってつける名前を音名といいます。440Hzの音がAであるという基準がよく使われています。ある音から2倍高い周波数の音までの間隔を1オクターブといいます。1オクターブ違っても音名は同じです。880Hzの音もAといいます。
1オクターブを12等分した周波数の音がよく使われています*。この12等分の1つの間隔を半音,2つの間隔を全音といます。
ABCというのは英語での音名です。日本語ではイロハですが,ここでは使用しません。
(* 正確に知りたい人のために:この等分というのは1つの間隔で等しく周波数が$ ^{12}\sqrt{2}倍であるという意味です。)
音階と階名
音をリストアップして並べたものを音階(スケール)といいます。音階から音を選んで曲が作られています。さて,(C, D, E, F, G, A, B)という音階があったとします。それぞれの音の間隔をCとDは全音,DとEは全音,EとFは半音というように調べると,
全全半 全全全半 となっています。最後の半は,Bの次はCになるためです。そのCは最初のCの1オクターブ上のCです。
table: 音階
音名 C D E F G A B
次の音との間隔 全 全 半 全 全 全 半
階名 ド レ ミ ファ ソ ラ シ
音階の音が全全半 全全全半という間隔をなしているとき,音階中の音をそれぞれドレミファソラシとよびます。こうして音階中でどこに位置しているのかによってつけた名前を階名といいます。スポーツで例えると音名は選手名,階名はポジションのようなものだといえます。(C, D, E, F, G, A, B)という音階中では,Cはドです。一方で(F, G, A, B♭ C D E)という音階の間隔も全全半 全全全半となっています。呼び方の決まりに従うと,この音階中ではCはソです。同じ音名の音であっても,音階が異なれば階名は異なります。同じ選手でもチームが異なればポジションは変わりうるということです。
(C, D, E, F, G, A, B)という音階を,順番は変えないように先頭だけ変えるように並べ替えて,(A, B, C, D, E F, G)という音階を作ったとします。間隔を調べると全半全 全半全全となっています。
table: 音階
音名 A B C D E F G
次の音との間隔 全 半 全 全 半 全 全
階名 ラ シ ド レ ミ ファ ソ
この場合音階中の音はそれぞれラシドレミファソとよぶことになります。ABときてCから先ほど調べた間隔にになるのでそこからドレミ…,名前をつけていないABに戻ってラシ,となります。全全半 全全全半という間隔をなす音階を,前後関係をそのままに先頭だけ変えた音階にしても階名は変わらないというのが階名の原則です(*¹:音の名前・調性#68a6a99f0000000000a749ea)。そうでない音階が表れたとしたら,もっとも近いドレミの並びに対して♯や♭をつけることで対応することが多いです。
旋法と音度
音階の音の並び方の種類を旋法(モード)といいます。旋法はいろいろありますが,ここでは主要な2つの旋法だけを紹介します。長旋法は全全半 全全全半という並び方です。短旋法は全半全 全半全全という並び方です。長旋法の音階を長音階(メジャースケール),短旋法の音階を短音階(マイナースケール)といいます。
旋法が指定されたときの音階の1ステップを音度といい,先頭からi度, ⅱ度, ⅲ度…とよびます。音度を小文字で表すのはSQに従いました。(*²:音の名前・調性#68a6a99f0000000000a749ea)
例
(C, D, E, F, G, A, B)という音階の旋法は長旋法で,この音階は長音階です。
i度の音はCです。この音階はCメジャースケールといいます。
(A, B, C, D, E F, G)という音階の旋法は短旋法で,この音階は短音階です。
i度の音はAです。この音階はAマイナースケールといいます。
各音度が表す音は旋法によって変わります。これは階名とは異なる特徴です。音階が(C, D, E, F, G, A, B)であっても(A, B, C, D, E F, G)であってもドレミファソラシが表す音はCDEFGABでした。
階名と旋法の関係を考えてみると,i度の音がドになっている音階は長旋法,i度の音がラになっている音階は短旋法ということがわかります。
調性と調
調性とは西洋音楽の特定の秩序を指す言葉です。これは先に具体例を見たほうがわかりやすいです。「きらきら星」です。
最初のフレーズ「CCGGAAG FFEEDDC」に注目します。Cメジャースケール(C, D, E, F, G, A, B)から音が選ばれてフレーズが作られています。本題ではないですが階名をつけると「ドドソソララソ ファファミミレレド」になっているため動画の表記は合っていることが確認できます。
https://youtu.be/Hv5pEJWEbwI?si=xIaeQ37kKDbgOYfp&t=5
このフレーズはCから始まり,Cで終わっています。途中に違うフレーズが出てきますが,再び同じフレーズが表れ,曲が終わります。観察からCはこの曲中で中心的な役割を果たす音であるといえます。Cは(C, D, E, F, G, A, B)という音階のi度の音です。曲中でi度の音を中心にした秩序が存在するとき,i度の音を主音といいます。これは本稿での定義です。文献での定義は後ほど述べます。途中のフレーズ「GGFFEED GGFFEED」にはi度の音Cが表れていませんが,Cに向かって下行しているフレーズであり,あたかもCに引き寄せられているようです。したがってCは出てきはしないものの「i度を中心にした秩序」があるといえます。
主音を中心にした秩序を調性といいます。個別の具体的な秩序の種類を調といいます。例えば,きらきら星の主音はCでしたが,主音がFであるような曲もありえるでしょう。主音の音名を調位といいます。調は調位だけでなく,調位と音階の旋法で指定されます。長旋法の調を長調,短旋法の調を短調といいます。
例
きらきら星の調位はCです。また(C, D, E, F, G, A, B)はCメジャースケールであったため,長旋法です。きらきら星の調はCメジャーキーである,といいます。日本語ではハ長調です。
文献での主音の定義
文献での定義を引用します。
“調の中心音を主音と呼ぶ”
“調の音組織は音階の形で示される”
“主音をⅠ度と数え,以下順次上方へ向かってⅡ度・Ⅲ度…Ⅶ度と数える”
島岡譲 “総合和声” p15
文献では無定義語として調という用語が登場し,その中心音が主音であると定義されています。ここでは秩序存在下のi度を主音として定義し,調の定義に主音を使用しました。なので,本稿では秩序という単語が無定義語です。
参考文献
島岡譲 “総合和声” p15
音名と階名 - SoundQuest https://soundquest.jp/quest/melody/melody-mv1/scale-degree-and-solfa/
短旋法のⅰ度はラであるということ,音度は小文字のローマ字で表すことの出典です。