Ⅰaug/♯ⅣかⅠaug/♭Ⅴか
古い情報なので参照非推奨です
Blackadder Chord(blk)はしばしばaugのスラッシュコードとして表記されます。このときⅠaug/♯Ⅳ、Ⅴaug/♭Ⅱ、Ⅲaug/♭Ⅶのようにベースがスケール外の場合、スペルに自由度が生じます。これらのコードはベースが半音下がるように進む使い方が多いで、その動きに合わせてほとんどフラットがあてられていますが、Ⅰaug/♯Ⅳだけシャープです。その理由と両方の表記の利点・欠点を考えます。
なぜシャープなのか
これは♯Ⅳøというコードと同じように書いているからだと考えられます。♯Ⅳøの行き先の第一候補はⅣで、Ⅰaug/♯Ⅳと使い方が似ています。♯Ⅳøの構成音はファ♯ラドミですが、この和音のルートがソ♭だとして♭Ⅴøとすると、ソ♭シ♭♭レ♭♭ファ♭となってもともとスケール内であった音の不自然なリスペルが発生します。♭Ⅴøは苦しいが♯Ⅳøが下降するのも変だという気もしますが、「上にずれたファが下に戻りたがっている」という気持ちかもしれません。
Ⅰaug/♯ⅣとⅠaug/♭Ⅴの表記は両方問題を抱えている?
由来と構成音を見ればⅠaug/♯Ⅳという表記は適当であるかのように思えますが、ベースが半音下降する実態との違和を引きずっています。他のblkはⅤaug/♭Ⅱ、Ⅲaug/♭Ⅶのように♭がつきます。では♭表記が良いのかというと、こちらにも問題(?)があります。Ⅰaug/♭Ⅴの上部のaugはドミソ♯、ベースはソ♭で、ソの変位が重複していて釈然としません。一つの音に変位が複数生じるのは変位のキャンセルとして解釈できるので、深刻な話ではないともとれます。ただそうしてもコードスケールが不明です。ベースが微妙なⅠaug/♯Ⅳでは変位重複問題は発生しません。どうすればいいのでしょうか?
スラッシュコード表記をするということ・まとめ
実は♭表記したときのコードスケールがわからないというのは構造的に当然なので、問題だと指摘した内容は妥当ではありません。この表記は上部がaubを形成し、ベースが独立して反転しているという状況を表しているので、一つのコードとしてコードスケールを想定することは不可能なのです。(ホールトーンスケールでも変位が重複するということは起きていません。)逆に言えばⅠaug/♯Ⅳ Ⅶøと5度下降していたら、ベースが独立しているというより全体でⅦøへ向かっているので♯表記の方が合っています。もっともこの場合はスラッシュコード表記をせず♯Ⅳをルートにしたコードで表記する方がより適切です。
スラッシュコード表記の意図のもとではコードスケールを考えられるというのは副産物で、その点でⅠaug/♯Ⅳが優位であるということはなさそうです。aug+反転ベース解釈をしたとき♯Ⅳøの類似性に着目したのがⅠaug/♯Ⅳで、解釈の原義に忠実なのがⅠaug/♭Ⅴだといえます。Ⅰaug/♯Ⅳが多いのは慣習や使用者の多さによるもので、Ⅰaug/♭Ⅴ表記も同等の理論的な強度を有しており、自分の感覚に合うのがⅠaug/♭Ⅴでも全く問題はないという結論に至りました。