芝メモ:演出家ってなに?って考えてみた
情熱を持って「自分はこんな舞台を立ち上げたいんだ」と,自分のイメージを頑張って伝えるのが演出家の役目です.
勘違いがよくあるので,演出家について,私なりに定義してみたいと思います.
※まずわかっておいてほしいのは,演出家は美術家や作家と同じで,100人いたら100通りの演出方法があると思っていてください.だから,これから書くことも半分くらい(いや全部?)外れてる人もいると思います.
1. 演出家は観客の代表です.
古代の演劇には演出家はいませんでした.日本でも歌舞伎などの古典芸能には演出家はいません.
現代劇でも演出家なしで舞台づくりをする劇団もあります.
だから,演技者が作品を十分に理解し,舞台ビジョンを共有できていれば,演出家という役割の人はいなくてもいいのです.
ただし,稽古をする上で,「観客目線の人」は必要です.
それが,演出家の第一の仕事だと,私は思っています.
演出家はまず,舞台好きな観客の代表であるべきです.
ちょっと面白ければ笑い,悲しければ泣く.
舞台上で起こっている事に入り込み,一喜一憂する.
つまり,心から舞台の出来事を楽しむ.
これができずに,怖い顔をして睨んでるだけの人は,演出家ではなく「裁定者」「裁判官」ですね(^^).
ただ,演出家も一人ひとり違いますから.
真剣に,一人ずつの所作やセリフを追いかけていれば,自然と厳しい表情になることはあります.
キャストさんは怖いと思わずに,真剣に見てくれてるんだなと思ってください.
2. 演出家は演技指導者ではありません.
舞台上の演技を見ていると,演技が気になることがあります.
ただ,いきなり演技に細かい注文をつけることは避けるべきです.
細かい演技についてあれこれ言うのは演出をしていることにはなりません.
これは演出家本人も,演技者も陥りやすいことなので,注意が必要です.
演技指導をしたくなったら「ここからは演技指導です」と,宣言してからやるべきです.
それよりも,「いまどういう意図でそういうセリフの言い回しや動きをしているのか」を役者さんに確かめ,共有し,演出家の思いと違うのであれば,まず「こういう意図にしたい」と伝えるのが大切です.
それを受け止めて考えて演じるのは役者の仕事です.
3. 演出家はシーンの絵コンテを示します.
これをやらない演出家が多いのですが,ぜひやるべきだと私は思います.
絵が下手くそとかそんなことどうでもいいです.
場面ごとに,どんな雰囲気にしたいのか,道具や人はどんな配置がいいのか,舞台平面図の上に,人形を置いて写真を撮るだけでいいですから,絵コンテは作るべきです.
照明の状態や舞台の雰囲気を伝えるにはビジュアルが一番です.
やるべきではないのは,ノープランで稽古場に来て,役者さんの動きを見て「どうしようかな~」ということです.
4. 演出家は脚本の自分の理解をキャスト・スタッフに伝えます.
上の絵コンテとも被りますが,稽古の中で,自分の理解を一方的に押し付けるのではなく,しっかり伝えてキャストに吸収してもらうことが大切です.
おすすめは,演出家が自ら台本をキャスト・スタッフに読み聞かせすることです.
NODA MAPの野田秀樹さんは,最初の本読みの時に,一通り自分で読むそうです.(全作品かどうかは知りませんが)それは,この台詞はこんな感じで読んでほしい,という意図を伝えるためだそうです.私もそれは賛成です.
役者各人が勝手に想像してきたキャラで台本を読んでしまうと,全然統一感がなくなり,役者自身もわけが分からないことになりかねません.
だから,
1. 「この本はこんな感じの本で,大切にしたいキーワードは〇〇」という,概要を伝える
2. あとは,演出が自分のイメージで本を読む
のがよいと思います.かなりの部分はそれで伝わると思います.
5. 演出家はキャストをよくよくよ~く観察します.
演出家はひとりずつの能力を見極めることも大切です.
でももっと大切なのは,その人の存在感をしっかり見ることです.
人は,立っているだけで,存在感が一人ずつ違います.
その人が出てくると場が和む
その人が出てくると見てる人のテンションが上がる
その人が出てくると――なんだかつかめない不思議な感じ
など,言葉を喋ったりダンスを踊ったりしなくても,雰囲気があります.
それを観察した上で,その人のもつ存在感が,その人の役にプラスになるのか,それともそれを消してもらうほうがいいのかを探る必要があります.
6. 演出家が用意する返事は「YES」「NO」「わからない」
演出家は,稽古の最中に悩まないほうがいいです.
すぐに「それがいい」「それはよくない」と答えられるものははっきり言いましょう.
そして答えがすぐに出てこない場合は「わからない.持ち帰って検討します」と伝えましょう.
演出家がその場でウジウジ悩んでいたら稽古が進みません.
役者は稽古していれば幸せな人種(^^)なので,稽古を止められると鬱憤がたまります.
悩むべきなのは,稽古以前です.稽古までに十分悩んで,できるだけ沢山の答えを見つけてから,稽古場に臨みましょう.
7. 演出家は,ちょっと寂しい
演出家は,本番には関わりません.
演出家が出演することもよくありますが,出演している途中はあくまでも役者です.
そして,演出した作品は,100%自分がイメージしたものには,絶対になりません.
無理にそうさせようとしてもうまくいくわけがありません.役者さんもスタッフも自分ではないからです.
むしろキャストの理解・解釈,演技力によって新しいものが産まれてくることを楽しむべきです.
そして,作品という子供が産まれた喜びと同時に,娘を嫁にやった親のような寂しさを覚えるのが演出家です.
と,ダイは思います.
【最後に】
演出家の勉強になる本があります.
フランク・ハウザー,ラッセル・ライシ著,フィルムアート社