舞台稽古メモ(09):役作りは協同で
◀◀ 舞台稽古メモ(08):役の人生を作ろう
 「舞台稽古メモ(08):役の人生を作ろう」でのお話は要するに,
役をもらったら,舞台で演じる以外にも,きちんとキャラの人生を作っておこうぜ
ということだった.
しかし,しっかりストーリーを読んでいたとしても,一人だけで鬱々と考え込んでいては,なかなかキャラも定まらない.
演出家を捕まえていろいろ聞くにも限度がある.
「お前の演技を見てから考える」なんて言われてしまえば,頼るわけにはいかない.
こういうときには役者同士,スタッフも巻き込んでで助け合うというのはいかがだろうか.
◆キャラは一人で作るにあらず
 キャラ作りのために,人物を掘り下げていくことが大切だと言った.
しかし,たった一人では限界がある.
そこで,大切なことを提案しよう.
大切なのと同時に,楽しくて楽ちんなことだ.それは,
他の役者・スタッフにキャラ作りを手伝ってもらう
ということ.
◎ねぇねぇ,泥沼にハマるタイプ?
多くの芝居は登場人物が複数であり,ストーリーは複数の人物の言動の掛け合いで進んでいく.
キャラ作りや役作りに一人で悩んでノイローゼっぽくなっちゃう人がいる.
※ほんとにいる.
役作りの泥沼にハマりすぎて,他人を拒絶する人もいる.
※ほんとにいる.
――おいらの経験では,ストレートプレイ(歌や踊りのない,台詞だけの芝居)の役者に多い.
※気のせいだろうか……
一方,ミュージカルの役者はダンスで怪我をしたり風邪で喉をやられて歌えなくて落ち込む.
が,ミュージカルの芝居でノイローゼになった話はあまり聞かない.
ミュージカルの方がやることが多くて,悩みすぎずに済むというのはあるかもしれない.
――ともかく,あんまり根をつめると周りが見えなくなってしまう.
→それが進んじゃうと,ほかのキャストとの言葉のピンポン,心のピンポンまで拒絶してしまうことになる.
→ そうなってしまえば芝居も演技も台無しになるのは火を見るよりも明らかだ.
真面目な人.目の前のことを生真面目につきつめて考える人ほど,出口のないトンネルに落ち込みやすい.
◎芝居はひとりじゃないのだ
でも,努々(ゆめゆめ)忘れないでほしい.
芝居は決して一人でするものではない.
一つの舞台を作るのには,様々な人の手を借りる必要がある.それもある.
でも,もし仮に舞台づくりの全てをたった一人でやれたとしても,そして舞台に立つのがたった一人だったとしても,芝居は一人ではけして成立しない.なぜならば,
観客がいるからだ.
舞台芸術は,上演者と観客の両方が存在して成立する芸術なのだ.
だから,そのプロセスにおいても,一人で籠ってしまってはダメだ.
芝居とは,本番では必ず「表現して」見ず知らずの人に見せなければならない.
それなのに,作る段階で内に籠っていては,良いものに仕上げられるわけがない.
つまり.
一人で悩んでなかなか結論がでない時には,一人で悩んでちゃダメってことだ.
なので,ここは一発,
「キャスト同士でお互いにキャラ作りを手伝いっこ」
を,世界最大級に賞賛礼賛推薦したい.
◆反論:演出家にまかせれば?
――と,こんなことを言うと,こういう反論が出てくる.
「脚本家や演出家が全部その役者に指示すればすむんじゃね?」
――これは半分以下の正解で半分以上間違いだ.
A.もし役者が,その役の人物の性格や設定を,台本をいくら読んでも理解できないすれば,それは
1.役者の理解力の問題か
2.台本が書き足りない(情報不足)か
のどちらかだ.
→ どちらにしても,こういう場合は脚本家・演出家に相談するしか方法はない.
B.もし役者が,場面設定や人物設定が理解できているとすると,細かい表現についての解釈や表現方法は,これは役者の仕事の範疇だ.
もし脚本家や演出家がこの部分に細々と口を出して,役者のキャラから動きまで,全てを決めてしまうのなら,
「役者はロボットか?じゃあ人間じゃなくてよくね?」
ってことになってしまう.
→ これは「振り付け」であって,「舞台づくり」ではなくなる.
※ダンスパフォーマンスをディスってる訳ではないので悪しからず.
役者はそもそも芝居が好きで,役を演じることに魅力を感じている人間.
だから,端から端までキチキチに決められてしまうと,かなりストレスフルな状況になる.
← 一般論だが,演出家はここまで踏み込むべきではない.と思う.
※現実には,きっちりと詳細まで決めないと気が済まない演出家はけっこういるみたい(^.^).
これは細かい部分までイメージをしっかり持っている演出家ということでもある.
いずれにせよ,一番細かい表現部分は,役者に任さざるを得ないし,それこそが演技の醍醐味の一つでもあるのだから,もしあなたが役者だったら,こればっかりは誰かの指示を待っていてはいけない.
◆世界の中心で一人じゃ無理!と叫ぶ
そして,本題に戻ろう.
役者が自分の想像力でキャラ作りや表現にトライして,そこで壁に突き当たってしまったらどうするのか.
――そういう時には「一人じゃ無理!」と開き直ろう.
そもそも芝居は答えがない芸術.
自分一人では解決できない.
なら,同じ立場の役者同士が助け合う.
スタッフも一緒になって考える.
――これは,役作りだけでなく,舞台づくり全体の基本だと思う.
おいらはプロの役者ではない.
だから,プロの劇団でプロの役者同士がキャラ作りを助けあう,なんてことがあるのかないのか,それは知らない.
プロの現場もいろいろだから,中にはそういうこともあるだろうし,全然そんなのなしで,立ち稽古を通じて理解を深めあっていく場合もあるだろう,と考えている.
しかし,市民レベルの作品づくりでは,役者が協力しあうのは必須だと思う.
◆協力しあうって?(1)
 役者あるいはスタッフが,他の役者のキャラの役作りにどう関われるのか?
あまり人にごちゃごちゃ言われるは嫌かもしれない.
ごちゃごちゃ言うのも嫌かもしれない.
もちろん,これには正解はない.
→ が,基本的には,それほど親しい同士でなくても,お互いに遠慮せずに気づいたことをワイワイ言い合うほうが,芝居づくり・舞台づくりはうまくいく.
※これはおいらの経験からの知見.→これがうまくいかない劇団は結果,どこか中途半端という感触を持っている
※そして,それが苦手なのが,日本人のほほえましいところなのだが(^_^)
遠慮せずに言う. ← このことは最初にルールを確認しておくほうがいい.
たとえば,こういことだ.
a.少々きついことを言われてもいちいちへこまない,怒らない,仕返しをしない.
b.良いことを見つけた時はすかさず褒める.褒めまくる.褒め言葉の大安売りで構わない.
c.理想論を振りかざさない.レベルを高くしすぎず,次にやればできるようなことを具体的に指摘する.
d.言ってくれた人は先生.必ず「ありがとう」を言う.
こういうルールは,浸透するまでにけっこう時間がかかる.
→ だから,普段から極力,お互いに気づいたことを遠慮せずに言い合う環境・関係を作ることは,(特に日本人にとっては)とても大切だ.
◆協力しあうって?(2)
市民演劇は経験者と初心者が混在している.
経験のある人は,大切な役目を負っている.
それは,上から目線で一方的に指摘するだけでなく,率先して,初心者の意見にも耳を傾けるという心がけ.
そうすれば,「だれでも気づいたら言えばいいんだ」っていう空気につながってくる.
仲間が指摘しあい,耳を傾け合う姿は,根本的に人間として尊重し合っていることに他ならない.
←これは 本当に美しい姿だと思う.
→ それが「稽古場の空気」ってもんだ~もんだ~もんだ~(エコ~).
そして,役作りに苦労している人は,役者仲間に見てもらったり,気づいたこと(所感)を聞くのがいい.
本人にとっては,周りからいろいろ言われれば一時的には混乱するかもしれない.
← が,いろんな設定や性格,あるいはそれに至る経験や環境についていろんなアイデアを出してもらえれば,その中には自分にとって「キラッ」と光るものがきっとある.
そこから広げて,自分のキャラを作り上げていけばいいのだ.
つまり,いいと思うアイデアはどんどん頂く.
→ そこに自分の工夫を重ねていく.
これほど楽しい作業はないと思うよ.
◆おすすめはテーブル稽古
協力し合うっていうコンセプトはわかったと.
じゃあどうすればいいのよ?と.
そういう疑問が聞こえてくる.
◎小さいテーブル稽古
例によって,正解はない.
おいらのおすすめは「小さいテーブル稽古」.
「テーブル稽古」とは,立ち稽古のように空間で動くのではなく,テーブルに集まって読み合わせをする.
ただの読み合わせではなく,人物や場面の状況・心理を確認したり疑問点を解消しつつ進める.
これは,イメージを共有するには大切な時間だ.
稽古の後に,演出家による「ダメだし」をやる劇団は多いが,テーブル稽古を重要視する劇団は少ないように思う.
※もちろんダメだしも大切.演出家のイメージをより具体的に把握するチャンスだからだ.
テーブル稽古はダメ出しとは違い,役者が自主的に進めることが可能だし,そうするべきだ.
そして,おいらのおすすめは,「少人数で短時間」.つまり
「短い時間でいいから,ちょっとした時間を取って検討し合う」.
全員集まって検討すると時間に無駄ができる.
その場面場面,さらにその一部分で気になる所を確認し合う.
短時間で少人数なら他の人の時間を取らない.
「5分だけテーブル稽古にください」という感じで時間をもらってチョコチョコ.
第三者に見てもらいコメントをもらう.
そうやってチョコチョコやって,積み重ねていくのがいいと思う.
全部を演出家に立ち会ってもらう必要はない.
◎すぐにやってみよう
役者仲間やスタッフでテーブル稽古して,工夫できたら,すぐに立ち稽古でやってみたほうがいい.
演出家の確認という意味もある.
自分たちも前後の流れの中で工夫したことが生かされるかどうかをチェックすることができる.
★ここでも注意事項はやはり,自分たちが絶対正解と思い込まないこと.
工夫して考えた結果でも,別の表現を要求されることはいくらでもある.
その時に落ち込んだり腐ったりせず,新たに次の工夫を生み出すことを考えよう.
【まとめ】
役作りは、他の役者・スタッフにキャラ作りを手伝ってもらっていいんじゃないの
「小さいテーブル稽古」や「芝居は一人じゃない」などの工夫
芝居は1人でするものではない
あくまでも頭は柔軟に
※次回は,やっぱり舞台では大声をださないとね,というお話.
以上.
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2023/12/14, 2022/05/22, 初出:2013-05-02