舞台稽古メモ(07):Z発声法~喉を広げる基本
今回紹介するのはもっと基本的なトレーニングで,特に歌に効く薬だ.
すべての音を「Z」の音で発声する.
※「Z発声法」はおいらが勝手に名づけた
Z発声法は,その状態で声帯(のどぶえ)をしっかり響かせて,コントロールするトレーニングだ.
これによって声帯を効率よく震わせ,振動を体全体で感じられるようになる.
この方法は有名な声楽家が奨励されていて,「これできちんと発声できない人には歌わせない」と言っているほど,効果的な基礎練習だ.
◆Z発声やってみよう
Zの音というのは,カナにすると「ズ」だ.
が,日本語のズではない.Z発声のキモは「体全体を鳴らす」ことにある.
具体的には,次のような手順だ.
1.上半身はリラックス.特に肩の力を抜く.手はだらんと下げたままでいい
2.下半身は下腹部を中心に「底支え」する.重しが腹の底にずっしりと沈んでいるイメージで下半身を安定させる.
3.一旦息を吐いた後,軽く息を吸う.腹の底に空気が溜まる感じ
4.口を薄く開き,歯を軽く閉じた状態を作る.
5.最初は音を鳴らさず歯の間から「スーーー」息を吐く.
6.吐息は下支えした腹の底からゆっくりと絞り上げるイメージ.上半身は何もしなくていい
7.その「スーー」に,喉の震えを乗せると,「ズーーー」(英語の"Z")の響きが生まれる.
慣れればZ発声のまま,声を変化させる.
a. 低い声をから高い声に変化させる(低→高→低等).
※共鳴させる場所を意識し,変化させるようにすると良い.
1. 低い音は胸で響く(胸音)
2. 中程度の高さを鼻で響かせる(鼻音)
3. 高い音を額で響かせる(頭音)
b. 長さを変化させる(長音,単音,スタッカート,それらの組み合わせ)
※どこで息継ぎをするのか,探究する必要がある
c. Z発声で音階を刻む.歌を歌う
◆なにがよくなるのか
Z発声法をやると,なにがよくなるのか?
理論的・医学的な詳細はわからないが,自分でやってみて実感することがある.
それは,
喉がしっかり開く(太くなる?).
← Z発声後に普通に発声すると楽に声が響き,遠くまで届くようにになる.自分の身体が拡声器のように響いているような感覚.
声帯から体内に伝わる振動をよく感じられるようになる.
← Z発声で共鳴する場所を変えられるようになると,「口から声を出す」のではなく「自分の身体が声に共鳴して鳴っている」感覚が身につく.
★この「身体が鳴る」感覚こそ,舞台の声に必要な感覚だと思う.
これは言葉で説明するよりも実際にZ発音をやると理解できると思う.
あえて理屈をつけるとすれば,
a.歯を軽く閉じるため,普段よりも,吐息の抵抗が強い
b.それに対抗しつつ喉を震わせることで,効率の良い振動の伝え方が身につく
c.喉の中から圧力がかかって,喉の空間が広がる.
d.その空間の中で声帯が自由自在に震える状態を作って訓練する
e.その結果通常の発声に戻した時に大きな開放と共鳴を感じる
舞台人にとって喉周辺に力みがなく「体で声が鳴る」ということは,なによりも大切なこと.
本番になって緊張が高まると喉の周りの筋肉も硬くなる.
→結果,声帯の自由さは奪われ,体は共鳴装置で亡くなってしまう.
極度に緊張したら声が裏返ることがあるが,それはこのせいだ.
――そんな状態で無理に声を張り上げれば,自分で自分の首を絞めるようなものだ.
逆に,大舞台で精神的に緊張があったとしても,上半身と喉をゆるめて声帯を解放し,身体を共鳴させてやることができれば,それによって心も解放される.
おまけに発声の効率が良くなるので,舞台で大きな声を出しているのに疲れない.
このようにどんな状況でも上半身と喉をゆるくする」スキルの第一歩が「Z発声」だと言える.
◆Z発声法のレッスン
Zの発音の理屈?と効用がわかったら,さっそくレッスンしよう.
レッスンといっても,本来は「好きな音程でZ発声をすればいい.」
Z発声のやり方さえわかれば,何を歌っても喋ってもいい.
が,それで終っちゃうのもアレなんで,ちょっとした手順を紹介しよう.
※注意:Z発声は言葉というより「音」なので,歌のつもりで練習するのがいいだろう.
1. 長音.最初は静かに,一番自然に自分の声帯が震える高さで.声帯の振動を感じよう.慣れたらだんだんと大きな音が出るように自分で工夫する.喉に力を入れないことが一番大切.「大きな声≠力む」を忘れずに.最初は10秒,慣れたら20秒を目標にしよう.2,3回繰り返し.
2. 短音.一回ずつ息をついで,「ズッズッズッズッ」という感じで.最初はゆっくりで,慣れたらだんだん早くしていく.30秒を2,3回.
3. おおざっぱでいいから,自然な高さからずらして,[* 低音,高音を出す.長音も短音とも.途中で高さを変えるのもよし.(高)長音→短音→(低)長音→短音,各30秒
4. ゆったりした歌を歌う.童謡がおすすめ.できればこれもキーを変えて,低・中・高と歌い分ける.無理のない範囲で,自分の声域を確かめるつもりで.
このトレーニングは,声を自然の状態に戻すためにも,できるだけ頻繁にやってほしい.
◆母音発声法と合体
Z発声法は声になる前の段階.
歌の調整には活用し易いが,言葉を発する台詞に有効なのかという疑問が湧く.
しかし,「喉を絞らずゆるめて音を出す」という原則は,芝居でも同じ.Z発声法で楽しく音程練習をしつつ,「響く体」を手に入れよう.
おすすめは,母音発声法とあわせた歌トレーニング.
たとえば,こういうメニューが考えられる.
1.まずZ発生で歌う.歌詞の代わりに「ズー」と発声,ブレスも同じ場所で.
2.次に母音発声で歌う.
3.最後に歌詞をつけて歌う.
4.最後の最後に,情景を思い浮かべ,感情をこめて歌う.
母音発声で例に出した「故郷」を例に,やってみてほしい.
※次回は,何回か前,横においといた話題,「感情の理由を考える目的」に戻したい.
【今回のまとめ】
「Z発声法」のやり方
Z発声のメリット:楽に喉+身体を共鳴させられる
Z発声のレッスンを紹介:長音・単音・歌
Z発声と母音発声を合体するとなおGood!
以上.
2022/5/1, 初出:2012-09-18