とりあえずの発声滑舌練習
2021/5/2(劇団√根)
演劇初心者の人は,滑舌だとか発声だとか,どうやって練習すればいいか途方に暮れると思います.
本来,声も滑舌も身体的なスキルです.
声だから口とか喉だけ動かせばいいかというとそうではなく,発声は全身運動だと思ったほうがいいです.
アスリートとまったく同じで,体作りは急がずにじっくり取り組んでトレーニングするべきものです.
が,もう台本も決まっていて本番まで何ヶ月もないというような場合,どうすればいいでしょう.
急場しのぎでのトレーニングで,確実に効果がある方法を紹介します.
1. 発声向け呼吸法
2. Z発声法
3. 母音発声法
4. (オプション)産声発声法
◆1.とりあえずの発声練習:発声向け呼吸法
家だと大きな声での発声練習はなかなか難しいです.
大声をださずに体幹と声帯を関連付けるトレーニングが呼吸法です.
次の要領で一日10分くらいから初めて下さい.
1. 座っても立っても寝てもOK.背筋を伸ばして遠くを見ます.
上半身は楽に,手はダラーンと垂らしておきます.
おすすめ立ち方は壁にもたれてお尻の上の隙間を埋めるように支えます
https://scrapbox.io/files/609234b2ff23a500238c5915.png
2. 下腹(おへそより下部分)のお腹と背中(つまり背骨一周)に力を込めて,背骨を支えます.
3. 力を込めたまま息をフ~~~とゆっくり長く吐きます.
肺が空っぽになるまでです.
★背中を丸めないで下さいね.お腹をしぼりあげるイメージです.
最初は数秒でOK.慣れてきたら10秒,15秒と伸びていきます.
4. 吐ききったら下腹の力をすっと抜き,スッと息を入れます.
★大切なのは 息を吸おうとしないことです.
吐ききった後体を緩めれば勝手に一瞬で空気が入ってきます.
息を吸おうとすると肩や首筋に力が入り,呼吸が浅くなります.声も出にくくなります.
5. 3-4を繰り返します.
※これが発声の呼吸の基本です.
この呼吸法は下半身でしっかり支えることで, 上半身を常にリラックスさせることがポイントです.
1,2週間くらいすればセリフを言うときに肩の力を抜いて話せるようになります.
息継ぎで頭や肩が上がることもなくなります.
ただし,呼吸法は奥が深いので,このメニューは何年でも続けるといいと思います.
◆2.とりあえずの発声練習:Z発声法
このZ発声はある声楽家が勧めている初級の発声法です.
上の呼吸をしながら長く声を出します.下腹に力をこめながら上半身はらくらく~,のイメージです.
1. 歯を軽く閉じ「スーーー」(音にならない"S"の音) → 息が続くまで ✕ 2回
2. 歯を軽く閉じ「ズーーー」(音になる"Z"の音) → 同様に2回
喉が緊張しないように低い音がよいです.
頭全体が響いている感じになったら素晴らしいです.
長音(のばす)の次は短音(短く切る)です.
3. 上の「ス(S)」で「ス,ス,ス,ス,……」と切って発声 → 普通の速さ2回,速いのを2回
4. 上の「ズ(Z)」で「ズ,ズ,ズ,ズ,……」と切って発声 → 普通の速さ2回,速いのを2回
※自分の気持ちのいいテンポを「普通」,その2倍程度を「速い」としましょう.
呼吸は一続きです.息継ぎはしません.
★応用:声の高さを変えたら体の響く場所が変化します.それを探ってみましょう.
★おまけ:歌が好きな人は,Z発声だけで歌を歌ってみましょう.そのあと普通に歌ったら楽に歌えるようになると思います.(でない音程が急に出るようにはなりませんが)
基本はここまででいいです.あくまでも,「下腹をしめる,上半身はらくらく~」です.
Z発声は声を出す第一歩として,口の中から頭,体全体と,「声の響き」を覚えるのに役立ちます.
また,短音練習は 息を続けながら音を切る練習になります.
これらを続けていたら,舞台の上で力まずに話ができるようになります.
今度は「滑舌」です.
滑舌といえば早口言葉とか「アメンボの歌」とか「あえいうえおあお」とかですが,機械的にやっているだけではあまり楽しくありませんし,それが今取り組んでいる作品のセリフに生きてくるのかどうかわかりません.
ここでは台本を使った実践的な練習を紹介します.
◆3.とりあえず滑舌練習:母音発声法
これは劇団四季で取り入れられている練習法です.(劇団四季のあの独特のしゃべり方はここから来ています)
セリフというセリフを全部, 母音だけに置き換えてしゃべります.
それだけです.たとえば,
「ぼくの前に 道はない.ぼくの後ろに 道はできる」なら,
「おうおあえい いいああい.おうおういおい いいあえいう」
になります.
最初は戸惑いますが,慣れればすすっとできるようになります.
★大切なのは 言葉の強弱や高低のイントネーションを元のままで発声することです.
これでセリフを何回か話した後で,普通にセリフを言ってみて下さい.
びっくりするくらい楽にハッキリと発音できるようになります.
★応用:これは歌にも効果的です.好きな人はぜひ,母音だけで歌ってみて下さい.
とりあえずはこれらのメニューをやってみてくださいね.
ただし,最初に言いましたが,発声法や滑舌は身体的技法(ソマティクスといいます)です.
ピアノやスポーツと同じで,長い時間をかけて成長していく中で練習を続けるのが本来の方法です.
上に紹介した手法は比較的効果が短期間に現れるので「とりあえず」とは名付けました.
しかし,一つ一つは奥の深いトレーニングなので,長く続けていただければ,それだけ効果があります.
また,身体は成長や老化や,生活習慣によって常に変化しています.
さらに,舞台では役柄によって発声も滑舌も変えざるを得ないことがあります.
なので,体の変化や目指す役柄に見合った発声や滑舌は,常にトレーニングメニューを工夫する必要があります.
皆さんもぜひ,楽しみながら今のご自分にあったトレーニング方法を見つけてくださいね.
だんぷてぃ・ダイ(劇団√根)
上の練習に飽きたら,次の練習をやってみるのもいいと思います.
◆4.とりあえずではない発声練習:産声発声法
これは別の声楽の先生に習ったものです.声帯を楽に震わせるということに集中しています.
赤ちゃんが小さい体で筋肉もないのになぜ大きな鳴き声をだせるか,という原理に基づいています.
声楽では音程を付けますが,演劇なのでフリー(みんなちがってみんないい(^^))でやります.
1. 普通に「エーーー」の口で自分の一番低い声を出そうとして下さい. → 2回
声は出ても出なくてもいいです.
ここではきれいな声は出ないです.声帯のトレーニングなので気にせずに.
息の流れがとどまらずに最後まで続くことを意識します.
2. 「アーーー」の口で楽に出る一番高い音を出します → 2回
3. 「アーーー」の口で最高音から最低音まで連続で落ちていきます.最後は地面の下に広がるイメージで「ハーーー」 → 2回
無理せず,呼吸1回の範囲でできるようにやります.
★応用:エとア以外の母音「イウオ」でもやってみましょう.
このメソッドは続けていると本当に深い声を作ることができます.
ただし,やれていると実感できるのに時間がかかりますのでとりあえず,とは言えません.
が,やってみて損はないと思います.
上の文だけではよくわからないと思います.実地に指導を受けるほうがわかりやすいです.
※産声発声法でレッスンしているのは県内では宝本順子先生(宝本音楽事務所)です.
どんな練習にせよ,大切なのは無理して「出そう」「出さなきゃ」と思わずに練習することです.