舞台稽古メモ(10):大声を出す・マイクを使う
◀◀ 舞台稽古メモ(09)役作りは協同で
★なにはともあれ普段から大声をだす!!!!
「僕は新人に対して基本的に「もっと大きな声で」としかダメ出しをしない.」――『成井豊のワークショップ』より
――これは,劇団キャラメルボックス脚本・演出の成井豊さんの言.
演技よりもなによりも,それ以前に声が客席に届くことがまず大切.
喉を鍛えるには普段から大声を出しておく.
近くの河川敷,山の中,公園の隅っこ,校庭の隅っこ,音楽室……迷惑のかからないところで.
大切なのは,それで喉がガラガラになっちゃ元も子もない.
「喉を力まずに身体全体を響かせて出す」トレーニングをぜひ!
※Z発声,産声発声がおすすめ
◆言葉は語尾に注意!★
多くの人が,語尾の力を抜きがち.
語尾の音の高さが下がるのは自然
強さが小さくなる → なにが言いたいの?
※日本語は動詞,助動詞,助詞が語尾にくる
⇒語尾まで張りと潤いを!
→ 母音発声(四季式発声)がおすすめ!
普段の会話としては不自然かも.
→ 毎日の生活の中でも語尾がはっきり聞こえるほうが気持ちいい
※アマチュアは稽古時間がない → 生活の中で工夫するしかない!
◆最終兵器は気持ち!
最後の武器は「気持ち」.
「ここにいるお客さん全員に自分のエネルギーを届ける!!」
って強い気持ちは必要不可欠.
◎スローガン発声のすすめ
ウォームアップの後,発声練習を兼ねて,なにかスローガンを決めてそれを叫ぶ.
※気持ちを一つにする効果もあるかも
★コールアンドレスポンスがいいかもしれない. ▼▼ に例を示します.
※コール&レスポンス:1フレーズを誰かが言い,皆が同じフレーズをおうむ返しする
code:sloganの例
私は, (私は)
舞台に立ちます.(舞台に立ちます)
(以下同じ要領)
私は,
台詞も歌も,
ダンスも芝居も,
すべて,
一番端の客席まで,
一人残らず全員に
届けます.
※スローガンは普段には言わないような,ちょっと恥ずかしい言葉がちょうどいい
★発声のコツは,
下半身を安定させ,丹田に力をこめる
顎をあげない
頭や上半身を突き出さない
スローガンを自分に染み込ませるように
魂をこめる!
それでも届かないときは,マイクを使うことになる.▼▼
◆マイクを使う
◎肉声だけでは届かないこともある
役者は声を客席に届けるのが仕事だ.
しかし,1000席以上あるような規模のホールだと,肉声だけでは一番奥の客席に声には届きにくい.
※1000席だとプロの劇団でもマイクなしはありえない.
市民演劇だとなおさら.
この場合必然的に,マイクで声を拾って拡声することになる.
出番が多い役には衣装に付けるピンマイクがつくし,
それ以外の人の台詞を拾うのには「フロアマイク」や「ガンマイク」を設置する.
これも当然ながら,使いこなす技術がある.平たく言うと,このようになる▼▼ .
a. ピンマイク:安心せずにはっきりしゃべる,衣装雑音に注意
b. フロアマイク:さりげなくマイクに近づき,なんとなくマイクに向かってしゃべる
【解説:ピンマイク】
ピンマイクとは,ラベリア型とよばれる超ちっちゃいマイクを,服や顔,髪の毛などに仕込むマイクだ.
一番ポピュラーなのは,TVのバラエティ番組でタレントが胸元につけている,あのタイピン型マイクだ.
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最近の舞台では,非常に細くてしなやかなマイクホルダーと一体になっていて,頬や口元,あるいは額につけるのが主流になりつつある.
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写真左のようにカツラ下の被り物の下に通してしまえば,カツラをつければほぼ見えなくなる.
※どちらもマイクの種類としては多くはエレクトレットコンデンサ型と言われるものだ.
◆タイピン型のメリット◎・デメリット▲
◎クリップでどこにでもつけられる.衣装に柔軟に対応できる.
▲顔の向きによって拾える音量が変化してしまうこと.
たとえば胸にマイクがある時,俯いて真下に向かってしゃべると,まともにマイクに近づきすぎて,声がこもってしまう.付ける場所は慎重に選ぶ必要がある.
早替えの時などはあまり考えずに適当につけてしまうことがある.
▲ずれやすい.クリップした部分がずれてマイクの角度が変わったり,最悪落ちてしまうこともある.
◆仕込み型のメリット◎・デメリット▲
◎体に固定するので,音が安定する.
◎衣装雑音は減る
◎カツラに仕込むなど,目立ちにくい.
▲体に固定するため,一つの舞台で使いまわしは困難.
▲体に近いため,鼻息や吐息を拾う.
以下に,ピンマイクを使う際の注意点を整理しておく.
◆ピンマイクの注意点その1.声の質は同じ
役者にとってピンマイクは,つけている間その人専用だ.
すぐ近くにくっついている.
だからといって安心してボソボソしゃべってはいけない.なぜなら,
「マイクは声の質まで変えてくれない」からだ.
遠くまで通る声は,マイクを通すと一層よく通る.
聞こえにくい声は,いくら拡声しても聞こえにくい.
何言っているのかわかんない声を拡声しても,わかるようにはならない.
例えばプロレスのリング上.
試合後にレスラーが司会者のマイクをつかんで叫ぶ.
「◎☆※△こいやぁ!!!」
怒りや興奮といった迫力は充分伝わるからあれはあれでいいかもしれない.
滑舌よく冷静に静かに話をするレスラーはちょっと興ざめかもしれない.
だが,演劇はそうはいかないよん.
ピンマイクがついていてもやるべきことは普段とかわらない.
マイクに頼らずにしっかりと声を出せよ,ということ.
声のレベルは音響さんが調整してくれるから心配しなくていい.
◆ピンマイクの注意点その2.衣装雑音
体のどこかにつける以上,衣ずれ音や鼻息など,普通なら聞こえない音まで増幅される.
芝居の仕草で胸をたたいら「ボコン!」
小道具をたまたま胸元におしつけたら「バリバリ!」
なんてことはよくある.こればっかりは付けている本人がよくよく気をつけないといけない.
◆ピンマイクの注意点その3.
舞台に出ていない時に注意.
a. 舞台に出る前.
直前にはフェーダ(マイクの音量ツマミ)は前もって上がっている.
この時,出待ちの袖でしゃべると,
「あ~ドキドキする」
とかがフロアに流れてしまう(^^).
b.舞台から袖にハケた時.
気が緩むのでもっと注意.
ハケてからすぐにマイクの音量が下がっているとは限らない.
「ふぅ~!」「ヤバッまちがえたよ~」「服どこ~?」
とかいう声がまるまる客席に流れるなんてこともある.
★基本,ピンマイクをつけている間は,必要外の声を立ててはいけない.
マイクの付け替えが複雑な場合は,スタッフさんがインカム(会場の離れた場所で話ができる装置)で
「外します」「付けました」
を確認しながら進行することになる.
→ 舞台監督さんやマイク係さんの指示にきちっと従おう.
【解説:フロアマイク】
ピンマイクをつけない人はすべて,フロアマイクで声をフォローする.
「バウンダリ」とか「PCC」とかいくつか種類と呼び名があるが,いずれもぺったんこなフォルムのマイクだ.
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これを框(かまち)ギリギリに設置する.
※框とは舞台の一番前端.
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センターと左右の3つ程度,多ければ5つ設置する.
◆フロアマイクの難点その1.
マイクから外れると声が取りづらくなる
マイクの近くで喋るようにすると場所が決まってしまい不自然な芝居になる
役者が並ぶと横一列になりがち
★少し奥の方の声を拾うのには「ガンマイク」(超指向性マイク)といって,ライフルのような細長いマイクを框前に立てたり,バトン(上から降りてくるバー)に仕込んで上から狙ったりする.
※映像の「音響さん」がもってるのもガンマイクだ
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が,それも限界がある.
また,予算や会場設備との兼ね合いで,どこかで妥協しなくてはならない.
◆フロアマイクの難点その2.
床に置くだけに,床に響く音が全部ひろわれてしまう.
ものを落とす → ガン!
下手に歩く → ドタバタ!
ヒールで歩く → カツカツ!
全て,自然の数倍の大きさになって客席に届けられる.
※中でも擦り足はとても耳について不愉快だ.
一言で言えば,
「余計な音をたてるな!!!」
これは役者の大切な仕事だ.
まずは足音に気をつけよう.
マイクがあることで,役者はその場の空気や役の感情の表現だけでなく,マイクで声を拾ってもらうという物理的なことも意識しなければならない.
◆吉本新喜劇を見よう!
ううむ.こういうと難しく聞こえるなぁ.
まあ確かに難しいっちゃ難しい.
が,やってやれないことではない.これもトレーニングだ.
役者とマイクの関係については,吉本新喜劇をぜひ参考にしてほしい.
全員ではないが,かなり上手にマイクの近くにいってギャグや台詞を言っているのがわかると思う.
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下から出ている棒状のものがガンマイク.ガンマイクに向かって喋っているのがよくわかる.
次は,舞台じゃ見えないだろうとなめてるとすっごく見られている,「表情」のお話.
以上.
▶▶次は…… 舞台稽古メモ(11):表情も大切
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2020/05/26, 初出:2012-10-23