舞台稽古メモ(04):言葉になるまでの順序
声は大切だけど,声だけ上手に出せるだけではだめだ.
じゃあ,声を届けるにはどうするのさ?
声だけじゃダメって言うなら何をすりゃいいのさ?
……ってことになる.今回はこのことについて考えたい.
◆声を届けるゴールイメージ
舞台上で声を出す(もちろん歌も含めて)ことの,ゴールイメージを先に言ってしまおう.
心⇒体⇒声.
つまり,
1. 心が動いて,
2. ⇒体が反応して(動くも反応,凍りつくも反応)
3. ⇒最後に声(言葉になる/ならない/声が出ないのも反応)
これを,芝居でも徹底するのだ~のだ~のだ~.
◆普段の会話を分析しよう
もう少し説明しよう.普段のおしゃべりを思い出してほしい.友たちや家族となにげなく喋っているシーン.
ここで,自分がしゃべる少し前の段階を,スローモーションで思い出してほしい.スローモーションでだ.
1. 相手の言葉を聞いている自分.
2. 周りの景色(またはスマホまたはテレビ)を見ている自分.
3. それで何かを感じる.何かを考える自分.
4. その結果,しゃべる/またはしゃべらない自分.
★ただし,言葉は心に正直とは限らない.たとえば……
a.はらわたは煮えくりかえってるけど,顔ではニコニコしながら,おべんちゃらを言うこともある.
b.心は冷静だけど,ここは怒っとかんといかんとおもって大きな声を出すこともある.
c.心で謝ろう,感謝の気持ちを伝えたいと思ってても,口に出てくる言葉は悪態だったりする.
d.何を答えていいのか考えているうちに時間が過ぎていることもある.
ここに行き違いや勘違いや偶発的な出来事が重なることで,喜劇や悲劇が生まれる.
※全員が正直者だとドラマは生まれない(^^)
ドラマのことはここでは置いといて,心に素直かどうかはともかく,口から発せられる言葉が通ってくる道筋は必ず,
心→体→言葉
の順番だってこと.これはほぼ間違いない.
★ここで「体」というのは,へんなポーズをするとか,大げさに手を広げる,とかではなく,
心の受け皿として体は必ず反応しているってことだ.
a.感情を吐き出すなら表情が険しくなったり,壁を蹴ったりして,大きな動きになる.
b.逆にそれを無理に抑えているなら,小刻みに指先が震えたり,唇をかんだりする.
c. 嘘をついていてバレそうな時.心臓はバクバク,顔や掌は脂汗でジットリ.目はキョドキョド.
d.まったく動かないというのも反応の内だ.
たとえば恐怖.体がこわばって思いどおりにならない.
あまりにひどい状況に対して自己防衛のため無反応になる.
リラックスしてゆったりしているなら,体は動かずとも自然にふるまうことができる.
★これに加えて,空間的な関係,つまり相手との距離や角度,自分の位置,それも「体」に含まれる.
例えば,
a. 5m離れている人にしゃべる時はうつむいてボソボソ言ったりしない.
→ 顔の向きや声の大きさは,空間に対してそれなりの準備をする.
b. もし小さい声でしゃべりたいなら,相手に近づくか,相手を呼び寄せるという,空間に対する働きかけが入る.
こういうことを,われわれは普段,あまり順序を意識せずにやってのけているわけだ.
← 実はこれはすごく複雑な認知過程だ.少なくとも2020年代のロボットや人工知能ではまだできない.
心→体→言葉.
今まで意識しなかったこの順番を,はっきりと覚えてほしい.
※次回は芝居でこの順番をどう活用するのかについて考えたい.
【今回のまとめ】
声を届ける順番は「心 → 体 → 言葉」
普段の会話でも必ずこの順番になっているが私たちは意識していない
「体」は必ず心に反応する.動かないことも反応の一つ
以上.
2022/5/1, 初出:2012-09-10