舞台稽古メモ(03):届けるのは声?
◀◀ 舞台稽古メモ(02):舞台は広くて遠い非常識な空間
 「舞台稽古メモ(02):舞台は広くて遠い非常識な空間」では,「最低10m,声を届けなくてはならない」と,厳しい話をした.
じゃあ10m届かせるにはどうすりゃいいのよ?
って話になり,声を出す方法つまり発声法という技術を磨くことになるんだが,ちょっっっっとまってほしい.
◆声は届くようになる
 まず,声については,安心していい.なぜかと言えば,
演劇の世界を見渡せば,プロの役者はもちろん,演劇をやっている役者さんたちの多くは,きちんと声を客席に届けている.
※一部,プロの役者でも,なに言ってるのかちっともわからない人もいるにはいるが,でもまあ,多くの役者は身につけている.
→ ということは,舞台から客席に声を届かせるという技術は,才能なくても身につくということだ.ほとんどの人は,練習すればそれなりにできるようになる.だから,ここはちょっと,それ以前のことを考えたい.
 遠回りのようだが,我慢してお付き合いして頂きたい.
◆いったい何を届けるの?
 「声を届ける」以前に,役者は観客に何を届けるのが仕事かということを考えてみよう.今ここで,考えてほしい.
役者は,お客さんに,何を届けるのが一番の仕事か?
言い換えれば,
役者からお客様へのプレゼントは?
はい,どうぞ.
――なにか思いついただろうか.まあ,もったいつけてもしょうがいなので,ぶっちゃけよう.
役者からお客様へのプレゼントは,
「作品のもつエネルギー」
もっと平たく言うと,
「登場人物の心,気持ち,感情,考え」
登場人物が全員,しっかりと心を伝えあい,響き合わせて,自分の身体と精神のもつエネルギーを振り絞って,作品のもつエネルギーをお客さんに届ける.
――それが役者の仕事だ.作品のエネルギーが会場に届けば,会場は感動の渦となる.
もしそうならなければ,それは
脚本と演出が悪い(*^^)v.
→ 逆に,どんなに凄い脚本でも,どんなにお金をかけた舞台装置でも,役者がエネルギーを出しきらなければ,ちっとも胸に響かない作品になってしまう.
もう一度言おう.
お客さんに,作品のエネルギー=登場人物の心を伝えるのが,役者の仕事.
これ以外に役者の仕事はないといっても良い.
役者は,そのためにあらゆる方法で作品の持つエネルギーを必死に理解し,人物の心を自分の中に取り込み,さまざまな表現技術を模索し,磨き続ける.
※ここでいう「表現技術」といのうは,台詞,歌,ダンス,動き,表情,立ち位置,タイミングなど,舞台の上で観客が認知できるすべてのこと.
◆声はOne of them
 話を「声」に戻そう.理解して頂きたいのは,
声は大切だけど,声だけ上手に出せるだけではだめ
ってこと.つまり,「声を届かせる」という行為は,
「エネルギーを伝える」「心を伝える」という,一番大切な仕事を成し遂げるための,さまざまな方法の一つ
だということ.これを理解しておいてほしい.
じゃあ,次の質問.
人間はなぜ声をだすのか?
なぜ台詞を話すのか?
考えてほしい.
次回は,どういう順序で声は出るのか,を考えてみたい.
【今回のまとめ】
役者からお客様へのプレゼントは「作品のエネルギー」=「人物の心」
それを届けるのが役者の仕事
声はその仕事の一部
声は大切だけど,声だけ上手に出せるだけではだめ
以上.
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2022/5/2, 初出:2012-09-01