ポン出しツールを使おう:24年版
by だんぷてぃ・ダイ(劇団√根)
いままで,ポン出しといえば Soundplant ばかり使ってきたが,他にもないのかと探してみたらいいのがあったので紹介したい.
※ただし,Win PC限定のお話.
◆要約
ここでは2つのポン出しアプリを紹介する.サンプラータイプの「ONJO by KANAE Project」とリストタイプの「MultiPlay by da-Share」.
「ONJO」は日本語メニューで初心者にも使いやすく、最大64個のボタンに複数音源を登録できる.
「MultiPlay」は英語表記のみだが多様なキュー設定と詳細な情報記録が可能な高機能アプリ.
目的に合わせて使いわけるべし.
◆目 次
code:目次
◆ポン出しツールに必要な事
◆ざっくり比較
◆ONJO:サンプラータイプのイチオシ
◆MultiPlay:リスト型のイチオシ
◆付録:MacOSにはQLab
◆ポン出しツールに必要な事
演劇等の舞台パフォーマンスには音響・照明のポン出しが重要.
今回は音のポン出しのツールについて調査し,推薦ツールを紹介する.
◎ポン出し機械のトレンド
ポン出しはもともと専用の機械単体や,リモートスイッチ( 再生と送りボタンのみからスイッチが並んでいるタイプまで )を接続できるMDプレーヤなどだったが,大型のミキサーがほぼディジタル化するなど,この10年ほどでディジタル化の波は強く,ポン出しも現在ではPCと再生アプリの組み合わせが主流になっている.
今回紹介するのはWindows PCで稼働するポン出しソフトである.
◎ポン出し方法の種類
ポン出しのやり方は大きく二種類ある.
1.サンプラー方式
有名なサンプラーRoland SP-404 のように,ポン出しボタンが沢山並んでいて,必要に応じて押すタイプ.
https://gyazo.com/9616903ea67ddf45e7f281970ac24da8 https://gyazo.com/c05db1c5f16235b88ede6cf1e4cf4a0c
左: RolandSP-404mk2 右:放送局のポン出し専用機
参照: ラジオ番組で聴こえる効果音ってどうやって出しているの? 通称「ポン出し」を解説 | ラジトピ ラジオ関西トピックス
個人で扱える,機械単体によるポン出しはこのSP-404一択と言ってもいいだろう.現在は mk2 となって機能も価格も上昇し,6~7万円と,学生や市民劇団ではすぐには手が出せない金額になっている(USB-Cで給電できるのは嬉しいが).
PCでのサンプラータイプのソフトも数多くあるが,本当に使いやすく,状況に応じて柔軟に設定できるものは少ない.
【強み】サンプラータイプの装置は,何度も同じ音を出す使い方に適している.例えばクイズイベントでの「ピンポン!」「ブッブー」などだ.演劇ではアクションや剣劇の「カン・キン・ドシュ!」などは激しく叩くことになる.これは次に述べる順次再生方式では困難である.
また,本来DJのオペに使われるものなので,瞬間的な音響効果( ピッチベンドや単発のエコー,フランジャー等々 )はサンプラーの得意とするところである.
【弱点】サンプラータイプの弱点は,ボタンの数が限られること.別のボタンセットを割り付けられるページ機能があれば,ページを切り替えながらの再生になるが,音源の数が多ければ多いほど操作は複雑になる.
ボタンを押して再生するというシンプルな操作ので,特定の場所からの再生など,細かい要求には対応しにくい.
また,サンプラーボタンへの音源の割り付けは,音源リストを流し込んで一気に登録ということが難しい.この点も数の多い音源に対応しづらい要因である.
2.順次再生( キューリスト )方式
順次再生方式は,いわゆる音源リストに基づいて,キュー(待ち行列)リストを作成し,それを順番に再生していくタイプの装置である.
https://gyazo.com/f63192f75d9d6032ed82c6235897f905
Ableton Liveをポン出しに使う:参照:Ableton Liveを使ったポンだし|gigacri
20年くらい前まではプロ用のMD/CD再生装置にはシリアルコネクタが付いており,簡単な再生と曲送りスイッチを音響卓の横に置いて,舞台の音出しをやっていた.今やCD/MDの単体機械時代は終わり,円盤の音源であってももPCに吸い出してPCで再生というのが主流である.なかなか変化を受け入れないプロ用の機器も大きく変貌を遂げている.
PCでの順次再生方式で最も利用されているアプリは Ableton Live | Ableton であろう.ただし,これは有償ソフトで,簡易版・学割版でも1万円,全部機能入りは8.5万円する.劇団で楽曲作成も兼ねて使うなら持っていてもいいアプリだが,やはり財布には痛い.
ちなみにLiveは再生リストとして使うだけでなく,サンプラー的なレイアウトにしてDJプレイも可能.また,DAWとして本来の楽曲作成・編集機能も十分に備え,MIDIファイルや音ファイルを加工することも容易にできる.複雑な処理を繰り返す際に役立つマクロ言語も備えており,応用範囲は非常に広い.
【強み】キューリスト方式の強みを以下に挙げる.
1. 音源リストを一括登録できる.音源数が非常に多い場合もリストが長くなるだけなので対応可能.
2. 細かい設定をさておいて,楽曲を並べるだけでも最低限の再生はできてしまう
3. キューコントローラにより,再生時/再生後のトリガ処理を細かく設定できる
4. きっちり設定をしてしまえば再生ボタンだけで操作が完結する.これが最大の強みである.オペレータの負荷が減れば「押し間違い」のリスクも低くなる.演劇等で場面毎に流す音源が決まった作品では,きっかけさえ間違えなければ誰でもオペ可能になる
5. MIDIに対応しているアプリなら照明や映像のキュー出しも可能で,音も交えた総合的なキューシステムを組むこともできる(いろいろ大変だけど)
【弱点】リスト方式のデメリットは次のようなことがある.
1. 繰り返し使う効果音,どこで使うかわからないからいつでもスタンバっておきたい音源等は,順次リストとは別に割り振る機能がないと対応が難しい.レイアウトの中で別ボタンが用意されていたり,別途キー割り当て機能があれば,リスト形式のソフトでも対応は可能.しかしDJプレイのような縦横無尽な使い方は一般的に難しい.
2. 再生リストの音量やフェードのIn/Out/XF,カットイン/アウト等のコントロールをする設定は,直感的ではなく論理の組み合わせになる.このため,音源ファイルリストの間に別途キューコントローラを挿入して設定することが多い.しかも多くの場合は現場に合わせての試行錯誤が必要で,コントロール欄の設定が決まるまでの手間がかかる.もちろん設定操作についてはある程度の慣れが必要.
3. 複雑なオペレーションもやろうと思えばできてしまうので,事前に考え準備することが増えてしまう.「こんなことやれないか」と演出家に無茶振りされても断れない苦しさ(^^)がある.
以上のように,サンプラータイプとリストタイプはそれぞれのメリット/デメリットがある.そういうわけで,ここで紹介するのは,厳選されたサンプラータイプのアプリと,リスト方式のアプリ1つずつである.
サンプラータイプ:ONJO by KANAE Project
リストタイプ: MultiPlay by da-Share
◆ざっくり比較
この2つを機能とか使い勝手で比較しておく.
table:機能のざっくり比較
ONJO MultiPlay
―― ―― ――
タイプ サンプラ リスト
価格 無料 無料
登録音源数 64ボタン(†1) 無制限(†2)
1ボタンに複数音源 ◯(†3) ◯
言語 日本語 英語
日本語入力 ◯ ◯
ファイル一括登録 ✕ ◯
ホットキー登録 ◯(†4) ◯
順次再生 ✕ ◯
Fade In/Out ◯(†5) ◯
ボタン説明記入 ✕ ◯
MIDI対応 ✕ ◯
(†1)これ以上は別リストを読み込むことで対応するしかない
(†2)PCのディスク・メモリに依存するがほぼ無制限
(†3)音源は44.1KHz限定らしい.その他謎の制限あり
(†4)キー登録メニューにバグあり
(†5)FI/FO長さはプロジェクト全体で設定,単体では不可
◆ONJO:サンプラータイプのイチオシ
Yuzuru Jewell(KANAE PROJECT)さん作のフリーサンプラー.
https://gyazo.com/af22a189c0fef7ac19f07660b85a37f1
日本人によるアプリなのでメニューも日本語.
一通りいじればだいたいわかってしまうシンプルさは,往々にして初心者オペレータ/なんちゃってオペレータが多い演劇音響には好ましい.
ただしマニュアルはシンプルすぎてよくわからない点もある.
また,困ったことに,登録音源の種類や長さによってエラーになることがある.これは原因も条件も不明.
登録ボタン数は変更可能で,最大64個.一つのボタンに複数の音源を登録も可能(連続再生のみ).客入れ・客出しには使えそう.
64個も登録できればほとんどのイベント・舞台で困ることはないだろう.
インストールは簡単.zipファイルを解凍するだけ.中身のonjo.exeがソフトの本体.
設定も簡単.ボタン枠の書類アイコンhttps://gyazo.com/28b2881c9fb8050bdb6d8a0a7a5eda57 で設定ダイアログが開く.
https://gyazo.com/e7fd73e13c259146528d4047dacd048c https://gyazo.com/b0eb24cc54cededa7e59dc8442a10229
「参照」ボタンで音源ファイルを選ぶ.うまく読めるかどうかは「チェック」ボタンで確認できる.
再生時の動作は「繰り返し」「フェードイン」「フェードアウト」「他の音を全て止める」のチェックで選択.
再生範囲も選択可能だが,波形が見えるわけでもないし,数値はおそらくサンプル数なので,ぱっと指定は不可能.
※もしやるとすれば,他の波形編集ソフトで確認しておく必要がある
再生時の音量も設定可能:デフォルトは80%
ボタン枠の色を変更することが可能
ホットキーも設定可能.テンキーの数字も選択可能なのでテンキーだけでの操作もできる.
FI/FOが音源各個でできないのは少し不便だが,プロジェクト全体で20~1000という数値で調整できる.
※数値の意味が不明だが,試したところ,おそらく✕0.1秒.:100だと10秒でFI/FOする.
前の音をFOさせてその上に新しい音を重ねることもできる.
※前の音の設定:FOを✓,次音の設定:他の音をすべて止めるを✓
https://gyazo.com/fe33e9b6dfd499421331ea00ef3940c1 https://gyazo.com/b457e72a389832e19f8ad2af115389db
↑↑ 左:前音の設定,右:次音の設定
ともかく,やってみよう.
◆MultiPlay:リスト型のイチオシ
リスト型でフリーウェアとしてはこれ以外にないというくらい,「かゆいところに手が届く」逸品.
MultiPlay – da-Share: https://www.da-share.com/software/multiplay/
https://gyazo.com/9f680c91203b93b4d421762f2c545264
↑↑ は私が試しにいろいろいじってみた画面
ツールも説明も英語なのでちょっと辛いが,日本語の紹介記事がある.ありがたや.Thanks maimai様.
参照:演劇音響アプリ関連記事 0-1 目次|maimai
だいたい ↑↑ の記事に沿ってやれば使えるようになる.事例もあるので同じ様にやってみればいい.
【キューリストとキューの種類】
メインウィンドウの表計算みたいな部分が「キューリスト」.この1行がひとつのキュー=命令になっている.
キューはたくさん種類があるが,主に使うのを以下に挙げる.
a. https://gyazo.com/d02a528257f927778bb5495983b686e7Audio:音ファイルを挿入する
b. https://gyazo.com/59544a4fcb0beec0f53b1b1c41b0835dPlaylist:複数の音をまとめて一つのキューに登録する .リスト内でシャッフルもできる
c. https://gyazo.com/387c8a22315ed6ec6c815790839b2f77Control:前後や離れたキューに対する操作をする.よく使うのはVolume Changeつまり音量調整だ.ほかにも18種類のコントローラが備わっている.
https://gyazo.com/88730d00c783d838c8179fdf27cadb7d
d. https://gyazo.com/74ef74a15781d75e0d57274ce9ae13d3Wait:次のキューに行くまでに待たせたい時に使う.「20秒音楽を聞かせて次のFadeOutのControlキューに渡す」みたいなことができる.
【キューの進み具合:Que Advance】
各キューには"Cue Advance"属性がある.これは「そのキューを実行したら次にどうするか」を決められる属性で,これをうまく使えばキュー実行の自動化や舞監の指示(人間キュー)待ちなどを設定でき,キューを実行する手間を最低限に減らす事ができる.
https://gyazo.com/234272035407edc113afca2fa190f764
キュー進行の種類は,キュー種によって変わるが,例えばAudioキューだと9種類,Controlキューで5種類ある.
これはやりたいことと音源とコントローラの組み合わせによっていろいろと使い分けることになる.
実際にいろいろ使ってみるのが一番いいので細かくは書かないが,ざっくりした例を挙げよう.
<ケース1> コントローラなしの音源キューのみのリストの場合:全部「End Advance」にしておく.こうしておくとその音楽が終わるまで,ウィンドウ左側のキューコントロール画面が,現在演奏している音楽の状態を示す.まあ,当たり前っちゃ当たり前.
<ケース2> 音キューをどこかのタイミングでフェードアウトしたいときにはコントロールキューを下に追加する.この時,音キューのCue Advanceは「Start Advance」にする.つまり,音キューを実行したらすぐに次のキュー,つまりフェードアウトを設定したコントロールキューにフォーカスが移行し,スタンバイ状態になる.いつでもフェードアウトを"Go"することができるわけだ.
<ケース3> 音キューの再生後,数秒たった後にフェードアウトして次の音を出す場合.音キューの後にWaitキューをいれる.音キューは「Start Play」にして,音再生が始まり次第すぐにWaitキューを実行する.Start Playは「同時実行」なので,再生している音楽は止まらない.WaitキューのAdvanceは「End Play」に設定すると,Waitで設定した秒数が終わると,次の音を自動再生する.こうすると,最初の音キューを"Go"するだけで,Waitがかかり,その後継の音楽を再生するところまで,自動でやってくれる.
以上,Advanceの使い方の例を紹介したが,なによりやってみるべし.
【すごく嬉しいキューのNote】
https://gyazo.com/684b23c4ef72ac9a77ab1437c10f188b
このソフトの最も素晴らしい点(と私が思う)は,全種類のキューにNote機能があることだ.そのキューの意味や役割,前後との関係や切掛けなどを自由に記述することができる.書き込んだNoteはViewメニューから表示させることができる(最初の画面参照).いまフォーカスしているキューだけでなく,前のキューと次のキューのNoteを並べて見れるのがニクい!これは他のアプリにはない特徴.あってもコメントやメモはオマケくらいにしか扱われていない.Noteの意味を理解したときには感動した.どんどん活用したい.
【GoはEnterで】
Goボタンには,デフォルトでSpaceキーが割り当ててある.が,これはやめてEnterキーにしたほうがいい.なぜならば,
a. Spaceキーは日本語IMEがONになってると効かない.本番でやってしまうと慌てること間違いない.Enterなら関係なく効く.※日本語IMEはOFFになっているべきなので事前に確認はするべき
b. Spaceキーはよく音楽再生や映像再生のキーになっている.これに慣れすぎていて,何気なくSpaceを押してしまう危険性がある.ひとつひとつのキューにたいして「Go!」をするのだから,それにはEnterが似合っていると思う.
※ちなみに,ストップは Esc キー.
ホットキーの割当は設定メニューhttps://gyazo.com/9d93cc0e8c5b3ca35164642c81516297 >Shortcuts で設定することができる.
https://gyazo.com/a9657b804a180a6fac6f842bbae9d8e2
以上,駆け足でおすすめアプリを2つ,紹介してきた.私もまだ使い始めなので,面白い使い方を見つけたらまとめて報告したいと思う.お疲れ様でした.
◆付録:MacOSにはQLab
https://gyazo.com/ab06c3b91b85da2270722d32d1273a6c
by RTT.inc
この記事では紹介していないが,Macユーザには QLab というポン出しアプリの定番がある.音響屋さんにとってはこちらがド定番のようだ.上の画面を舞台音響の現場でよく見かける
参照:QLab
日本語の記事はこちら:第21回!音響屋さんのお仕事〜QLab編〜│RTT.inc
かなり使いやすそうで,これだけのためにMacbookを購入するなんてことにもなりそう……ハハハ……
以上.
2024/12/9