第二章 籠にいない野良猫。倉庫内戦争。解放のとき
前日譚
野良猫を二時間かけて説得した話
おやすみ、野良猫よ
捕まえたのが夕方だったため、動物病院には予約を入れ翌日につれていく手筈にしていた
借りている小さな倉庫の片隅に籠を置き、毛布をかけ、他のボランティアに向けて「中に猫がいます」と張り紙を貼る
毛布をかきあげ、落ち着いて入るが少し不安そうな目をしている猫の顔を見て「おやすみ、また明日」と喋りかけシャッターを閉めた
半年以上に渡る彼との長い戦い。勝利の余韻に浸り仲間たちと談笑するnomadoor.iconはまだ、彼が諦めていないことを知るよしもないのだった……
どこ行った?野良猫よ
翌日、昼食の準備を軽く済ませ、さて病院へ連れて行こうと車を倉庫に横付けし、シャッターを開ける
おはようと声をかけながら籠に近づくも、どうも様子がおかしい
毛布をかきあげようとするも、なぜか毛布が籠に食い込んであげられない
いや、それどころではない。鍵があいている?
籠を傾ける。軽い。中を覗き込む
もぬけの殻であった
この毛布の跡を見るに昨晩、籠の中で暴れまわり毛布を引っ張り、その余波で鍵があいてしまったのだろう
籠は飼い猫用で、鍵は90度に傾けるだけの簡単なもの。中から開けられてしまう可能性は十分に考えられたのに…
昨日の触れ合いで彼とは和解したものだと完全に油断していた。
倉庫内戦争(大仰)
倉庫は表のシャッター以外出入り口がないため、まだこの倉庫内にはいるはず
スマホのライトを片手に、散乱するものを踏みつけクライミングしながら彼を探す
棚の一番上、板の裏に彼はいた。
こちらを見るにすぐ警戒モード。野生だったころ(2日前)よりは多少目は優しいだろうか。それでも怖がり逃げ回る
おい、昨日あんなに仲良くなったじゃないか
昨日と同じようにまた部屋の隅上部に固まったので、昨日と同じようにまた籠を前につけゆっくり話しかける
「一晩も籠に入れさせるとは確かに昨日言わなかった。申し訳ない。でも腹をすかせねばいけないようでね…」
なんて弁解をしながら、また手を背中に置く。
鼻息が荒くなる。nomadoor.iconの顔も手の温もり(冷え性)も忘れてしまったのか野良猫よ。
またここからかよ…と、再びの二時間の戦いの予想をしていたら籠の下の隙間を抜け逃げ惑う
昨日のキッチンと違い、ものが多すぎる。つまるところ隠れ場所もたくさんある
全力逃げモードになった彼は鼻息すら封印し、nomadoor.iconはついぞ完全に彼を見失うのだった
解放のとき
チュールをおいてしばらく倉庫から出る。
戻るとチュールだけ無い。そらそうか
猫がよってくる音声をYouTubeで調べて流してみる。
来ません。
動物病院の受付は午前中。
ただいま11時30分。
私の負けだ。
シャッターを開けたままにし、倉庫を出る。
動物病院へ、逃げられました(´;ω;`)と一報を入れているときの私は、昨日籠に入っていった彼ときっと同じ顔ししていたことだろう…
to be continued
夕方、庭で作業をしていると、あろうことかあの野良猫がタッタッタと眼の前を駆け抜けていった
少し行ったところでピタ、と止まりこちらを見る。目が合うとまたタッタッタと走り去る
道路に出たところでまた、止まりこちらを見た。「油断したな馬鹿め」という顔をしていたかどうかはよく見えなかったが、またすぐ隣の家の裏へ走り去っていく彼の背中に、そんなメッセージを感じたnomadoor.iconだったのであった
本日の学び
最後まで油断してはいけない(戒め)