未来社会と意味の境界
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言葉を操る人工知能はすでに私たちの身近にある。
だからこそ今、私たちは人間と機械のコミュニケーションに改めて向き合うべきなのだ。
本の概要
AI・ロボット社会の未来のあり方を考えるために「意味」について考える。
AI・ロボットにとっての「意味」
人間、生物にとっての「意味」
この二つの意味の境界をめぐるテーマについて情報・理工系と人文社会系の学融的議論に基づき論じている
谷口忠大教授の紹介
専門は人工知能、創発システム、認知発達ロボティクス、コミュニケーション場のメカニズムデザイン。
人間のコミュニケーションの本質的理解につなげる研究領域を創成している。
記号創発システム論とは?
記号の意味という存在を「閉じた認知」の上でとらえる構想
他人の頭がのぞけないという前提を受けいれたうえで
言葉がどのように立ち現れ共有されコミュニケーションが可能になっていくかという問題を説明する
そもそも私たちは世界に生じている諸現象に関して、全てを観察することができない
他人の頭を覗けるかどうか以前の問題である
私たちは、一個の自律的で自己閉鎖的な生命体としてこの世界を生きている。
前提となる思想
1898年~アメリカで成立した哲学思想
本質や真理は、
その行為によって動的に変わるので多様である。
1970年代から1980年代にかけて生まれたシステム論の潮流
客観的な制御→主観的な観察世界
環世界
あらゆる生物は自らの感覚器と運動器に閉じたそれぞれの環世界を持つ
自らの視覚、聴覚、触覚から流れ込んでくる情報をもとにして自らの世界を構成していく必要がある。
これは自らの環世界の中で発達学習していくともいえるし、環世界を漸進的に構成していくともいえる
発生的認識論
認知システムを細胞分裂していく生命体のようにとらえ、その動的平衡により認識の構成を発生的にとらえた。
感覚から得た刺激をシェマが同化する。
同化した刺激に基づいて自らを調整する。
シェマは分化し、組織化されていく。
構成主義
私たちが見ている世界はこのような過程を得て私たち自身が構成しているものである。
パース記号論
サインと対象と解釈項の三項関係
記号の本質はサインと対象の関係性
またその記号が導入する世界の分節化に恣意性があり、動的に変化しうること。
ソシュール記号学との対比
ソシュール記号学
ヨーロッパ
一般言語学
ラングという集団が持つ記号システムも存在する
日本語や英語のような言語体系
パース記号論
アメリカ
プラグマティズム
認識論的な思索に基づく
言葉の意味は究極的には個人の意味付けに帰着される
意味とは創造的であり、生成的である。
しかし、記号システムが社会的なものではないという事ではない
大切なのはそのサインに意味付けし、記号とするのは能動的な解釈主体としての受け手
複雑系における創発
記号に基づくコミュニケーションが創発現象に支えられている。 局所的な相互作用が大域的な秩序を生み出し
その大域的な秩序が逆に局所的な相互作用を支配するという双方向の相互作用
前提のまとめ
ユクスキュル・ピアジェ・パースとつなげていくと、記号の意味という存在を閉じた認知の上でとらえる構想が生まれてくる。
これが記号創発システム
記号創発システムはボトムアップな内的表象系の形成と記号システムの組織化
集団においてこの記号システムが,記号的コミュニケーションにおける恣意性の自由度を縮減する秩序を与える.
記号システムに従う限りにおいて,記号は意味を持ち,コミュニケーションはその機能を有する.
ボトムアップに形成された記号システムという秩序が
各エージェントにトップダウンな制約を与え,
これがエージェント集団に新たな機能を与える.
その秩序自体はボトムアップに形成されるのだ.
このミクロ・マクロ・ループは複雑系における創発特性そのものである.
人間とコミュニケーションできる人工知能は作れるか?
記号創発システムを構成する要素であり続けられる人工知能を作るか?
人工知能やロボットが社会に浸透し、
それが真に私達とコミュニケーションする相手、
つまり他者となることができるかという問いは、
次世代の共生社会を構想するにあたり重要な問い
記号創発システム論
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記号創発システム論とは
個々人の環世界に基づきながら
社会において記号システムが生まれ
記号的コミュニケーションを可能にする過程を
全体としてとらえた図式
身体的相互作用
身体的相互作用を通して
実世界の中で経験を重ね内的表象系を構成
内的表象系に基づき記号を意味付け
記号を生成していく
創発的記号システム
人々はコミュニケーションを成立させるため
徐々に記号と解釈を共有していく
このようにして創発的記号システムは形成されていく
ミクロマクロループ
一度社会の中で創発的記号システムが
組織化され共有されると
新しくその社会に参画する人間は
その記号システムに従うことが求められる
予測符号化
予測符号化とは人間の脳が感覚情報を予測できるように学習し また行動決定を行っているという考え方
その生成モデルとしての描像はベイズ脳の考え方と関係している 言語とは外在する言語資源を一体のエージェントがただ内化し保持するだけのものではない.
言語とは社会の中で分散的に保持されて,また常にその使用を通して変容していくものである.
集合的予測符号化の視点から見ると
言語は単なるコミュニケーション手段ではなく
集団全体が環境に適応するための重要なもの
言語は、集団全体で共有される予測モデルを形成し、環境への適応を促進します。
記号創発は、集合的予測符号化に基づく表現学習の結果として捉えられる。
これは、集団全体が環境から得られた情報を符号化し、共有する過程です。