問題の探索・設定方法
良い問題とは何か 評価の方法
良い問題には「誰も解けなかった問題」か「誰も見つけられなかった問題」の二種類しか無い。
その時点でまず、
1. なぜ私だけが特別にこの問題を見つけることが出来たか。
2. なぜ私だけが特別にこの問題を解くことが出来るのか。 に対して答える必要がある。
問題の重要性について客観的に見ることは難しい。多くの場合、自分の問題がいい問題だと思いたがる。
「自分のレストランだけは違う理由を見つけようとする」byティール
11. 痛みを避けるバイアス
12. 自信過剰のバイアス
13. 過度に楽観視するバイアス
問題の重要性について、客観的に評価することができる方法を自分で作成、発明する。
これを持つことが出来れば再現性もとることができ、長く戦える。すなわち秘伝の技術。
僕が使っている方法
これまでに挑戦された時間の数xこれから必要とされる時間の数で評価する。
仮に終焉の科学であってもよい。
具体的にこの発見、発明によってどのようなブランチが育つか。
過去の論文で担保を取る。(大昔に発見されているが長い間見過ごされている)
新規性x議論を呼ぶかx実現可能性 (hamaguchi)
ほとんど最初のかけ算だけかな。それしか評価法が無いし... それと重要性の担保をどこにとるかというので、大昔に既に発見されているけど見落とされているというのが個人的には好き。
良い問題の発見の仕方
バイアスがかかり、「大きく」過小評価されているものを探す。そして見つかった問題に対してどのようなバイアスがかかっているか問うてみる。(これにより何故自分が解ける・発見できるという理由になり得る)
具体的には
データを徹底的に読む -> ex) big short、前島先生、白髭先生
big shortにおいてバーリはデータからひずみに気づく
前島先生は自分で電顕の写真を取っていくうちにおかしいことに気づいた。
自分で観察・計算してみる -> 自分のやり方、岡田先生に教わった。
いつ自分がその考え(バイアス)を持つようになったか疑う -> 広海先生
その記憶はいつからあるか。出典はどこか。
現在の思考フレームが出来上がる前に遡る。
例えば現在の生物学はマウスや酵母、線虫といった「モデル生物」に対する過剰な研究投資によって成り立っている。その枠の外に出る。
解空間を限定することによって解きやすくしている。->アルファGOと囲碁
新旧の本を読み比べどこが発展していないか調べる。
教科書を疑いながら読む (本庶先生)
一次情報を読む。
定期的に素人を入れる (Nancy)
人は思考フレームから逃れられない。思考フレームを持たない人間を流動的に入れるシステム自体を作ることで回避する。
賛成する人がいない大切な真実とは何か? by ティール
1. 現在気づいていないが、未来そうなるであろうこと
2. 現在進行形ではあるが、気づいていないこと
3. 過去そうであったが、変化しており、気づいていないこと
これもすなわち、何故その真実を自分は知っているのか?という問いかけが重要
実現可能性
実は結構この部分の定量が重要、みんな夢見がち(死にがち)
死にたがってはいけない。やるなら勝つ。
いい問題があったとしても自分がそこにどれぐらいの時間・金の投資で到達可能か
シングルステップで到達可能か (ギャップが二個以上あると無理だと思った方がいい)
ギャップが二個以上ある場合、一個のギャップを達成しただけでも価値があるか。(すなわち問題が並列か?)
直列で二個とも達成しなければ価値が創出されない場合、辞めた方がいい
今、自分がその問題に対して優位な情報、技術を持っている。
50%ルール。野心的なことをする場合、50%の力は担保しておく。全部ぶっ込みは死ぬ。 by Bungo Akiyoshi
例えば秋吉さんは、トリパノソーマのセントロメアという野心的なテーマではあるが、もともとセントロメアの専門家である。
例えば僕の場合、新しい減数分裂というテーマであるが、元々染色体動態、イメージングの専門家でありその方法論を使うことで優位性が取れる。これは秋吉さんの忠告をうけてそうした。
例えばnancyの場合、元々遺伝学をやっていてそのテクニックをフルにつかえるということで減数分裂に参入
最初にしたことは「減数分裂を起こす割合が非常に高い酵母の選別とそれをスタンダードにする」
ここをつかんだことがNancyの今の地位を作ったと見ている。
最初の情報、技術はどこで手に入れるか? 僕らの場合は大学だが... 仕事の現場もありうる。
ポートフォリオの作成
具体例
減数分裂の問題について
まず、秋吉さんの忠告を2014年に受け、以下のテーマを探そうとした。
1. 自分の力が半分生きる
2. なおかつ自分の興味範疇にある
1にはいくつか含まれたがライブセルイメージングかクロマチンを設定した。
2に対して、「生体における情報検索」「少数性」などのキーワードを設定した。
色々なテーマはあったがその中で1, 2の条件を満たすテーマは難しかった。
時間は過ぎ、焦っていたが、ある時前島さんからナンシーのミーティングに誘われたから行こうとの話をもらった。
NancyはJob Dekkerの師匠ぐらいのイメージしかなく、meiosisには一切興味は無かった。
しかし、それをきっかけに色々読み進めていくうちにmeiosisにおける情報検索の問題にたどり着く。この問題は以下の4点をはらんでいた。
1. 染色体の動きは遅い
2. ターゲットが一個しかない
3. 実際の検索時間は理論上検索する時間よりも10000倍近く早い
これは何か高速化するためのシステムが存在することを意味している。
4. ライブセルイメージングでしか解決できない。
1, 2は自分のこれまでの経験と少数性を通して得た知識によるものであり、3は独自に計算した。そして何よりも自分には4のアドバンテージがあることが分かった。また1-3を通してこの問題こそが生体内における究極の情報検索問題であることが分かった。
さらにmeiosisの減数分裂は以下のポイントを含む
5. 絶対に成功させなければならない (一般にやられているDNAダメージの修復は失敗しても細胞が死ぬだけだからOK)
非常に難しそうに見えるが絶対に減数分裂は成功させなければならない。
6. 進化上、重要である (真核生物は全てにおいて存在している)
言い換えるとこの減数分裂というシステムが持っていた幅によって、酵母から人までの生殖が可能であり、その原システムのすばらしさが伺える。
多くの細胞に個別の特殊化した減数分裂が存在しておりそれぞれを比較することができ、システムの進化を捉えられる。
7. これから人類の存続・発展を考えた時、非常に重要な問題である
減数分裂を如何にiPS細胞上で行うことができるか
不妊を乗り越えられるか
ここまでかいたように、大きな果実であるにもかかわらず、その扱いの難しさ(培養できないなど)からメインの問題ではなかった。また情報検索の観点から観た論文はほとんど存在しなかった...
が、Nancy1人だけは30年間、この問題に1人で取り組んでいた。さらに遡ると1910年付近ですでに僕が考えた観点は提唱されていた。これらを問題が重要であるという担保にした。
もう少しいうと1950年代ぐらいまでは古くの顕微鏡観察によって知識が蓄積されていたが、近代分子細胞生物学の発展とともに忘れ去られた。そのため、上記した1910年付近の論文をここ20年で引用しているのはNancy一人のみである。
結果的に、計算による問題発見、少数性の知識、イメージングの技術からこの問題を解ける人間は数少なく、自分が取り組むべきテーマとして定めた。