屍霊術師について
「そんなことを言う人は貴方くらいよ……屍霊術師の一般的扱いなんて、みじめなモノだわ。まあ、自分で選んだ生き方だから、不満はないけれど。ぐすっ」
本名:不詳
テーマ曲「恋隠れネクロマンシー」
登場作品(話)
「時雨とエヴィルと忘却少女」
「忘却少女のサナトリウム」
職業:屍霊術師(ネクロマンサー)
やりたいこと:屍霊術(ネクロマンシー)の研究
しかしそれよりも:今はアークの……
「天職」:解剖学者、桜の守り人
見てくれ:ボロ布。頭からすっぽりフードというか、くたびれきって汚れもつきまくった白いローブを着ている。肘と腰にある鉄のパーツが、どうにも白魔術師と思えない禍々しさを放つ。
実は童顔の、ウェーブのかかったセミロングの髪。化粧をすればクール美人系だが、化粧をするような人間ではない。
屍「白粉(おしろい)? 塩化性の鉛化合物でしょ? 肌に悪いわ」
エ「お前二重の意味でどの口でいうとるん?」
便利屋アーク・フォガットの保護者。時雨とエヴィルを相手にした、地下洞窟の召喚バトルの一件以来、アークと行動を共にしている。
沈着冷静、世をヒネた目で見ている。でも、アークの馬鹿正直なまっすぐな生き方を、羨ましくも思っている。
自分がなかなか「天才」の領域にまでいききれないというのを知っている。ネクロマンシーを選んだのも、どこか「マイナーニッチ領域を極めれば、その分自分の価値も上がるだろう」という計算のあってのこと。
しかし……この屍と霊を扱う領域の魔術研究は、とても自分の肌に合っていた。所詮、人間など征く末はこのようなもの。ハラの肉袋はいずれ腐り、骨にまとわりつく肉もいずれこそげ落ちる。それだけに、見えてくる人間のリアル。肉を食らい草を食らい糞をへり出すその一連、まさに生化学。屍を知ることは人間を知ることであり、屍に見える人間の限界は、すなわち社会システムの限界でもある。我々はそれだけ「自然」を知らない。(養老孟司の著作にその消息は詳しい)。
なぜ、アークにこれほど自分が関与するのか、よくわかっていない。
哀れにも思う。アークの「自分の記憶を消去して超人になり、仕事をこなしていく」その姿が、自分の写し絵のようにも見えたりするから、かもしれない。
でもそれだけじゃない。
……楽しかったんだ。
理由はわからない。でも、そんな恋しい彼女(アーク)が、死にそうになっている。
当然だ、あれだけ記憶を消しまくって、脳髄、交換神経系に多大なる緊張・負荷をかけ過ぎた身体は、いずれ自壊していくのだ。自分は、そういう肉体の自壊・崩壊というものならば、専門家なのだから、よくわかる。
自分に出来るのは、その進行を遅らせること。そして、ツテを辿って、アークに何かしらの希望を与えること。
それは、あの天才ならば、信じられないような魔術でもって快復をしてくれるかもしれない、という希望であり。
たといそうでなくても、あの二人は、確実にアークの友達だったのだから……アークの笑顔は最低限見られる。そういう希望でもある。
だから。
時雨とエヴィル。あの旅人達に、この手紙が早く届くようにと…………
ーーー「忘却少女のサナトリウム」0、前日譚