売る
自分の持っていたものを手放して、何かしらの目的(物)と交換すること。
手放したものは、絶対に、戻ってこない。仮に戻ってきたとしても、傷がついている。
レッズ・エララでは……というか人斬りお嬢・時雨は、同姓たる女性が「体を売る」ことを、好んでいない。 やむを得ないことであるとは思う。今日のごはんを得るために体を売ることは。人を殺してご飯を得ることよりは、よほど良いと思う。
ただし「手放したもの」が、ちょっとマズいのだ。時雨的には。
エヴィル「快楽性……エロスをとやかくするのがまずい、ということではない……のだな?」 時雨「たぶん。官能性っていうのも、肉体のひとつの表現だから」
エヴィル「そっちがイヤなのかと思うわな、ふつう」
時雨「私も彼女(娼婦)たちも、同じ肉体作業でお金を稼いでいるわけだからねー」
エヴィル「肉体作業が尊いかどうかはともかく、まず肉体作業は低いレベルにあるものではない、なるほど。まず論理分岐のフラグをここで立てておこう(ピコン)」
時雨「偉い学者さんでも、歯が痛かったら、人生の真理を歯痛に見出すものですよ」
エヴィル「うーん哲学。さて、じゃあ、問題が【肉体】にないとしたら?」
時雨「あのねー、私、ほのぼの気づいたのだけど、誰かの奴隷になるっていうのがしぬほど嫌いみたいなんだよ」
エヴィル「ほのぼの気づくような類のモンかというツッコミに抗いがたい。しかしなるほどだ、娼婦は、自ずから奴隷になりにいってる、と」
時雨「娼婦のひとたちがどう思ってるかはわからないよ。体を売っても心は売らず、ってよく言うじゃない」
エヴィル「しかしその常套句の存在自体が、すでに奴隷性の自発性を証明してるってことだわな」
時雨「エヴィル君はさすがに天才だからこういう悪魔の流れがスラスラ出て来てだいすきだよ」
エヴィル「それは皮肉?」
時雨「ん…………、あ、皮肉じゃないよ。うん、皮肉にもとれなくもないよね、今の。怖いねことばって」
エヴィル「お前たち……イチャコラはここまでだぜ!」
時雨「道化っぽく唐突に演技臭ただよわせて話題を変えるのって、エヴィル君が照れてる時だよね」
エヴィル「ゴアー」
話が横道にそれる横みっちゃん、なのがレッズエララのいつものパターンなのですが、一度整理してみんとす
時雨の持論「体を売るのは個人的に好みじゃないよ」
「肉体を行使するのが嫌い、という短絡性じゃないよ」
多分えろも文化的に大事だよ
問題は「奴隷なるもの」なんだよ
私は奴隷になりたくないよ
エヴィル「こんな感じで纏めてみました」
時雨「おー!わかりやすいよ」
エヴィル「では逆から攻めてみるか。時雨君は【奴隷な人】をどう思ってるんだ?」
時雨「えー? 結局他人のことだし、私はとやかくは……」
エヴィル「その逃げは卑怯だぜ。そもそも今回の話題は【娼婦なるものが嫌いだ】の話なんだから、【奴隷なるものが苦手だ】から逃げてはならんのは、カレーライスがカレー粉から逃げられんのと同じくらいだ」
時雨「うん……ごめん、ね」
エヴィル「じゃあ正直に言ってみようか、なに、ここには奴隷は居ないんだから、死にゃしないさ」
※例によって草原のただなかです
時雨「まず、その人が奴隷になっちゃったのは、ケースバイケースなんだよね?」
エヴィル「それは、この世の幸福にも不幸にも言える、前提だわな。全ての事象は数学的論理的に独立している、という」
時雨「うーん、そうだよね……」
エヴィル「だが、そんなサンプルケースを集めてみて、確かに見えてくる【傾向】はある。言いたいのは、そんなとこだろ?」
時雨「エヴィル先生握手してください!」
エヴィル「(ふんぞり返って)まだ早い。まず、時雨君が最も嫌う【奴隷的傾向】について話をしようか」
時雨「んー……たぶんね、そのひとたち、こういう風にのんきに草原を散歩出来ない、って思うんだよ」
エヴィル「俺様たち、のんきに散歩して旅するために、奴隷を拒否ったからな。まったくその通りだ。それに人生のリソース、才能の結構な領域を突っ込んでるからな」
時雨「あんまりにも、奴隷なひとたち、楽しそうじゃ……ないんだよ」
エヴィル「奴隷だからな!w」
時雨「だよね!w」
エヴィル「いやー今のはオチがすげぇキマった」
時雨「あはは。でも、やだよね、楽しくないの。そして、楽しくないのを、最初から決め込んだ人生っていうのは」
エヴィル「……そいつら、いつ、【自分の人生を楽しくないようにしよう】と決め込んだのだ?」
時雨「えっ」
エヴィル「ちょっと違うような気がする。そいつらは決意でもって【これっぽっちも楽しくない人生イクゾォオォォァ!GO!】ってしたわけでもないだろう」
時雨「あーー、言われてみたら」
エヴィル「むしろ【これっぽっちも楽しくない人生イクゾォア!】って言ってるやつ、よっぽど人生を楽しんでいやしないか?w それはともかく、奴隷な奴らの傾向のひとつっていうのは、【決断しない】ってところだろうな。付け加えると決断の源泉たる【意志】がない。【楽しみに向かう精神】ってものがハナから欠けている。そのように整理した方が、よほど正確ではなかろうか」
時雨「ほーーーう。なるほどー! 自分の考えてたのが言語化されてきもっちいいよぅ」
エヴィル「時雨君、決断する人間やん」
時雨「え、決断しない人生ってあるの?」
エヴィル「…………はい、拙僧の知る限りこの世界の人民には相応に……」
時雨「そっか………………」
会話がお通夜ムードになってきたのを察知したエヴィル君だったので、強引に娼婦の話に戻す。
エヴィル「言うても、時雨君、かなり娼館の用心棒やってきたやん」
時雨「プロヘッソナルですよ、それに関してはw」
エヴィル「やっぱり、同じ女性ってことで安心感がダンチなんだろうなぁ」
時雨「うん。洋服を着せてもらうこともあるよ」
エヴィル「流石に人形におべべを着せるのは、イカツい筋肉漢は論外だからな。うん。でも、娼婦の営業衣装って時雨君、似合わんべ」
時雨「うん。それに、私の体の傷だと、ちょっとね。だから、娼婦のひとたちの営業衣装でなく、あのひとたちの【いつか大切な時に着れたら良いなぁ】っていう、虎の子のひらひらフリフリなおよーふくを、着せてもらうことがあったんだよね」
エヴィル「へーーー!!」
時雨「いつもは仕舞ってるけど、たまには空気を通した方がいい、って。結構喜ばれたんだよ」
エヴィル「用心棒だけど、こういう美人形だからな」
時雨「いや、実はそういう人形が、ちょっと刀を構えてかっこよろしいポーズをすると、結構見惚れるひとがいるんですよね」
エヴィル「楽しそうで何よりだが、業が深いように思われる」
時雨「あははw ま、娼婦のひとのなかでも、一定数からは私は恨まれるよ」
エヴィル「ふむ?」
時雨「だって私、自由だから、ね」
エヴィル「うーーーーん、そこなー。檻の中に居るやつにとって、近くにこうも空行く鳥が居たら、それはなぁ」
時雨「だから、娼婦のひとたちの肉体労働がイヤなんじゃなくて。でも、あのひとたちの自由への嫉妬もよーくわかる。で、私は、娼婦的なものの何を憎んでるんだろう、って思うの」
エヴィル「まず、この中世、一方的に少女を売る奴らは居る」
時雨「うん」
エヴィル「少女の親であり、少女をさらってきた奴らであり、少女の自称恋人であったり」
時雨「ゴブリンは?」
エヴィル「奴らに売るという知性はない。で、売る奴らは、金という対価を得たわけで、まず少女には何も与えられていない」
時雨「そうだね」
エヴィル「あるいは、借金のカタであるとか。自分がしでかした罪の償いであるとか。苦界に入る/入らされるのの理由は、だいたいそういうところだな」
時雨「かなり早い段階から、自由ってものが奪われていたんだ」
エヴィル「女性が、決断しようとするはるか前にな。じゃあ、決断すればいいじゃない、って云おうとしたろ? それはやめといた方がいい」
時雨「なんで?」
エヴィル「決断は他人が強制するもんでない、って原則。の他に、苦界にある彼女たちにまともな教育なり文化なり教養、知識が、得られると思うか?さらには、チャンスをゲットするにも、この教育なり文化なりが前提だ。つまり、奴隷状態っていうのは、当人に与えられる知識とチャンスの両方が欠如した状態で、【お前らが決断しなかったから悪い】という自己責任論を突きつけられる状態だな。だいたい、世間常識やら、教会神学が、【穢れた卑しき者たち】と定義づけをして、奴隷たちの境遇をセットアップする。そんで固定化しておけば、長い間その下層階級から、様々なものを得ることが出来る」
時雨「……さまざまなものって、何だろう?」
エヴィル「自分たちがやりたくないことを、全部そいつらにやらせればいい」
時雨「その人たちがやりたくなかったら?」
エヴィル「やらせる」
時雨「でも……」
エヴィル「だって奴隷だからな。それに否と言えば、さっさと殺してとりかえっこだ」
エヴィル「出口がないだろ」
時雨「うん」
エヴィル「一番最初に話を戻せば、娼婦、彼女らは、手放してしまったし、手放させられた(強制系)。そこだな。そして、それを戻すには、ものっすごい量の財貨が必要なわけで。でも、それでも、まだ戻ってこない、っていうのがある。自由な精神だ。あるいは、そいつが奴隷精神のままで居る以上、そいつは奴隷だって話だ」
時雨「ひとつ思い出した話があるよ。ものすごい劣悪な売春街があったんだよね。で、そこを公共工事で「清め」ようとした。そのとき、そこでやってた娼婦たちが物凄い反抗をした」
エヴィル「【私たちからこれを奪われたら、何をして生きていけるというの?】ってとこか」
時雨「一言一句、その通りなんだよね」
エヴィル「これなー、娼婦たちを救う、ってことをやろうとしたら、一国に革命をしないと出来ないレベルなんだよなー」
時雨「たぶんね、【もう売らない】って決めないと、だめなんだよね」
エヴィル「何もない自分でも、もう自分を安売りしない、っていう風にな」
時雨「そう考えると、私達って、何なんだろう、ね」
エヴィル「娼婦のような売り方はしてないが、多分、いろんなもの、売ってるぜ。無自覚に人を切り捨てたりだとか」
時雨「関係性を? それとも刀剣で物理的に?」
エヴィル「さて、どう違うでしょうか」
時雨「娼館ってなんであんなに安っぽいんだろうね」
エヴィル「調度品なる文化にどれだけ金を払えるだけの教養のあるやつらが、実際居るかって話だ。従業員にも、オーナーにも、客にも」
時雨「つまり……」
エヴィル「文化か。文化だわな。もちろん、売春街、娼婦の周りでの淫靡性ってものが、ひとつの絵になったり、ひとつの音楽になったりする。その煽情性は、文化の発展だ。でも、やっぱり元ネタ……娼婦は、奴隷は、奴隷のまま、っていうのが、この話のなかでもさらに救いのない話だ」
エヴィル「【娼婦の息子!(サノバビッチ:son of a bitch)】って言葉あるよな。あれ、実はこのあたりのスパイラルから抜け出せない奴なんだよお前は!っていう表現だとしたら、人類の未来って遠いよなって話でもある」