論文「ニクラス・ルーマンの索引カード箱とコンピューター」
ドイツの社会学者であるニクラス・ルーマンが使っていた索引カード箱の手法の分析と、その手法にある「デジタル」性の分析を通じて現代のコンピュータとの類似性を示す。 カードを使っていた
ヨアヒム・ユング
トマス・ ハリソン(カード棚)
ヨハン・ヤーコ プ・モーザー(カード箱)
ルーマンは「コミュニケーション可能な機械」 と考えていた
ルーマンは膨大な索引カードの所有者として有 名であり,総数は 9 万枚にも及ぶ. 6 つの索引カ ード箱があり,それぞれに 4 つの引き出しがつい ている.大きく 2 つに分けられ,1951年から1962 年の間につくられた ZK 1 と1963年から1996年につ くられた ZK 2 とに分けられる.後期のものは,21 の引き出しから成り,1~11の整理番号をつけられ ている.後期のカードの総数は 6 万6000枚にも上 る.見出しは 1 万6000,キーワードのリストは約 300ある
カードの種類
カードの種類は,メモ用紙,文献目録,キーワ ードのリスト,その他
参照システム
個別参照と集合参照, そして分類構造内の参照がある
別の 1 枚のカードを参照するのが個別参照,大 分類につけるカードリストが集合参照,小分類に つける目次が分類構造内参照,とシュミットは分 けて考えているようである .
コミュニケーション・パートナーの要件
ルーマンによれば,コミュニケーションが成り 立つ前提として,異なる情報を持つ他者,コミュ ニケーションパートナーが必要であるという.人 がコミュニケーションをするときには,そこに信 頼が生じる.問題となるのは,索引カード箱がコ ミュニケーションパートナーに値するような存在 であるかどうかということになる.
サイバネティクス思想と結びつける(もう一人の自分)という拡張
索引カード箱が第二の自己として機能する背景 には,メモを書き込んだときのデータと,それを 取り出すときの情報が,過去と現在の差異によっ て変化するプロセスがあると考えられる.索引カ ード箱から情報を取り出すときには,常に新しい 発見が期待できる.ルーマンにとってそれは,自 分の知らないこと,気が付かなかったことを教え てくれるパートナーである.このプロセスはコン ピューターの導入によってさらに発展していくこ とになる.
カードを整理 するにあたりカード番号を用いることで,複雑性 の縮減が可能になる.複雑性の縮減はルーマンの 社会システム理論に重要なテーマである.印刷技 術とマスメディアが発達してきた現代においては, 我々が到底捉えきれないほど膨大な情報が溢れて いる.これに対応するためにはより効率的な情報 整理の技術が必要になる.
これはルーマンの社会システム理論に援用され ている.ルーマンは社会を独立したシステム群の 集まりと考えており,各々のシステムは境界を持 ち,他のシステムから独立している.あるシステ ムが外部のシステムから影響を与えられるときに は,情報の選別という操作が行われている.たと えばニュースであれば,入ってきた情報が新しい ものであるかそうでないかが選別の条件となり, 古い情報は排除され,新しい情報のみがシステム に組み込まれることになる(ルーマン 2005).
ルーマンに影響を与えた物理学者ハインツ・フ ォン・フェルスター