脳内シミュレーションと「〜らしさ」
私たちの脳はおおよそ常にシミュレーションを行っている。車の運転中高速でカーブに突入すると、「あっ、これ曲がりきれないやつだ」と感じて速度を落としたり、ハンドルをもっと切ったりする。意識とは外のところで、物理的なシミュレーションが働いているのだろう。 私たちは人間相手にもそれを行う。次の言動を無意識に予測しているのだ。そこから大きく外れるとき、人は違和感を覚える。逆もまたしかり。
小説におけるキャラクターが「生きる」のは、この力を最大限発揮したときである。著者の意識がキャラクターを創造するのではなく、シミュレーションされたやりとりをそのまま書き写すとき、そのキャラクターらしさが生じることになる。知識ではなく、予測が大切だ。