綺麗な理念と貪欲な利益追求
採用する契約社員は最長2年間の期限付きで、最大1千人。同社が本社機能の移転を進めている兵庫・淡路島での実務や研修を経て、ほかの企業や自治体への就職を支援するという。
契約社員である。二年間の期限がある。まったく安定していない。二年より後は「ほかの企業や自治体への就職を支援する」とある。支援であって、エスカレーター式な保障があるわけではない。もし就職できなければ、「あなたの能力がなかったのだ」がパラフレーズされて当人に突きつけられるのだろう。嗚呼、自己責任。
ただ月給は大学・大学院卒が16万6千円、短大・専門学校卒は16万1千円で、新卒正社員の7割程度。淡路島の社員寮に入ることになるが、寮費2万6千円と食費3万9600円が毎月かかる。研修の講座にも別に受講料が必要。負担を考慮し、一部を免除する制度も設けているという。
二年間の期限がある不安定な契約社員であっても、しかし月収は新卒正社員の七割。さらに寮費と食費で6万6千円が持っていかれる上に、研修費もかかる。携帯電話でお安い料金だと思ったら実は光回線とセットだった、みたいなものがあるが、それよりもひどい。丁稚奉公よりはマシ、くらいのものだ。
生らは入社後、人事や総務などの部署のほか、同社が淡路島で手がける商業施設などに配属され、ビジネスマナーや経理、営業などの実務経験を積みながら様々な研修も受けるという
そうした契約社員は「同社が淡路島で手がける商業施設などに配属され」るらしい。これを逆向きに見てみよう、この会社は自社の商業施設に(他に行き場がないという意味でおそらく止めないであろう)働き手を、通常の七割で配属できることになる。日本企業では、人件費がバランスシートの多くを占めていることを考えれば極めて利益率の高い構造になるだろう。
しかも、である。日本企業では一般的に勤続年数が上がっていくと給料も上がっていくわけだが、この社員たちは契約社員であり、しかも二年という上限がある。つまり、経年による給料のアップは考えずにすむ。毎年毎年、働く場所がうまく見つけられない若者を「受け入れれ」ばいい。彼らには働き場所が提供され、この企業は安く人を使える。ああ、なんと素晴らしい構造であろうか(皮肉だよ)。
本当に、この社会の構造と状況をうまく利用した施策である。知は力とはよくいったものだ。もちろん、その知は血と共に使われてこそ、という点はあるわけだが。
とりあえず、「氷河期世代」を作らないという理念は立派なのだが、その実体が「安くこき使われても我慢せよ」という暗黙の命令だとしたら、それはそれでまた別の地獄ではあろう。でもって、そうしたビジョンしか示せないのが彼らなのである。