三種類のコンテンツ
(A)過去のコンテンツ
(B)現在のコンテンツ
(C)未来のコンテンツ
(A)のコンテンツはおおむね過去にある。したがってそのコンテンツを動かすには過去に向けてのインストラクションが必要だ。わかりやすくいえば歴史編集だが、それだけではない。たとえば会社のリソースは過去の蓄積が多いだろうから、そのリソースの移動にはこの(A)的なインストラクションができなければいけない。そのため、ここにはきわめて総合編集的な「知識移動の構造」が準備される必要がある。それをつくりながら知識の移転をはかる。
この“過去理解”のことを勘定に入れているのはワーマン情報建築学のすぐれたところで、ふつうの情報整理術屋たちはインストラクションに「時間朔行」や「歴史」を持ち出せない。
(B)は現在の行為についてのコンテンツである。それをインストラクションする。現在の行為についてのインストラクションとは、自分や自分が属しているチームが何かを思考していたり試行しているときのインストラクションをさす。したがって、ここでは価値が決定していないことが多い。それゆえここにこそ、いわゆるアイディアの産出がおこる。先にのべたように、アイディアとはインストラクションの途中から生まれて新たな理解力をつくるためのものなのだ。ワーマンはアイディアが生まれ、それにあとからインストラクションがくっつくより、インストラクティブ・プロセスがアイディアを生んだ場合のほうが、ずっとその後のアイディア成長力がいいという結論にも到達している。だから(B)においては、まさにリアルタイムの自己編集と相互編集が起動するべきなのだ。
(C)は「次の行為」に属するコンテンツだ。その「次の行為」を促すためにインストラクションがある。
一般にはこれだけがインストラクションだと思われてきた。だからこのインストラクションはわかりやすくは「上司の指示」や「尋ねられた道を教える」といったことにあらわれるけれど、それだけではない。未来に属するインストラクションがすべてここにある。会社の方針をどう説明するか、経営者のヴィジョンをどう説明するか、社会の未来像をどう提示するか。これらは(C)のインストラクションなのである。
実はここには、自分が気がついていないインストラクションも含まれる。社会が暗黙のうちに、また偶然に与えているインストラクションも(C)なのだ。つまりこの(C)のインストラクションには、「社会の解読を促すインストラクション」がひそんでいるということになり、それを明日に向けて発信するのが仕事だとすれば、ここでは「他者の知恵」を取りこむことこそ、新たなインストラクションになりうるのである。
しかし、このインストラクションの“種”は、たいていの場合、戦争の予感や政治不信に出入りしていたり、書物の中にあったりテレビの中にあったり、ファッションや株価になったりしているので、また廃れた商店街や低迷する業界にあったりするので、そこにインストラクションがひそんでいるとはなかなか思えない。だから(C)のインストラクションを組み立てるのはきわめて高度にもなる。けれどもそこを組み立てるのが、最もラディカルで、最も未来的なインストラクション編集なのである。こうして、すべてのインストラクションの矢は世界の知恵と戦略に向かって放たれる。