ヒュポムネーマタ
このヒュポムネーマタは自分のために役立ちますが、他人のためにも役立ちます。利得と恩恵とのこうした交換、魂の世話の柔軟な交換において、ひとは善へ、自分自身の歩みながら他人の約に立とうとするのですが、その場合にも書く行為が重要なのです。そしてーーこれは当時のきわめて興味深い文化現象、社会現象なのですがーー文通がきわめて重要な活動でした。それは霊的な文通、魂の文通、主体から主体への文通であり、その目的は政界について知らせることではなく、おたがいに自分自身について知らせること、相手の魂に生じていることについて問い合わせること、相手の魂の中で生じていることについて知らせてくれるようたずねることなのです。
フーコー講義集成11 p409
これはたんなる備忘録のようなものではない。ストア派の人々は、重要な思想を書き記したノート(ヒュポムネーマタ)を手元においておいて、それを何度も読み直し、書かれたことを想起し、それによって自分の生活を律するようにしていた。アレントの日記も同じような意味をもっていたかもしれないが、それは何よりも、手元にテクストがないときにも、そのときのもっとも重要な関心事について、思索を続けられるようにすることを目的としたものだった。
実際にアレントは、テクストを参照することのできない旅先には、このノートを持参し、思索がとぎれることがないようにしていたし、旅先でも書き込みはつづけられた。フライブルクのハイデガーのもとにこのノートを持参して、ハイデガーに書き入れてもらったりもしている。この書き込みがあれば、アレントはハイデガーとともに考えることができるのだ。