テーマが「冷」のショートショートSF小説
【急速冷凍!】 5/6文フリで頒布予定の 「オルタニア緊急増刊7.5号」の 掲載原稿を急募します。 文字数は2000字ぐらい。 ショートショートのSF小説で、 テーマは新元号にちなんで「冷」。 締め切りは24時間後の 4/24正午ジャスト。 掲載は早い者勝ち!! ページの許す限り載せます。 投稿はDMで! タイトル案
冷えゆく宇宙
冷えゆく星
冷凍された人
冷凍された星
冷えゆく星
地球の凍結が決定されてからの人々の行動は早かった。母なる大地と一緒に氷づけになりたくなければ、すぐさま脱出しなければならない。幸い、地球以外の惑星での居住もぽつりぽつりとであるが始まっていたし、そのまま居住可能な大型宇宙船は、先進国家がいくつも所有していた。十分なお金を積むか、自身を労働力として提供できるなら、逃げるのには問題ない。そもそも、母なる大地に哀愁を感じている人間は、少しずつ減っていた。気候は荒れきっていたし、生態系もずいぶん破壊されていた。人が住むことで、人が住めるような環境ではなくなりつつあった。他の惑星人から見たら皮肉な話だろうが、そこに住んでいる人間にとっては、怒りの対象を必要とするような劣悪な環境がたくさん生まれていた。そこに、あの伝染病である。
その伝染病は、非常にゆっくりとであるが、確実に広まっていった。対処できるワクチンがないばかりか、あらゆる防護服が用を為さなかった。その理由すら、どんな医師や学者にも不明だった。
ある人は言った。「あれは光に乗って感染するんだ。感染した人間を目視するだけでうつってしまう」
ある人は言った。「あれは精神の波長にのって感染するんだ。ミラーニューロンが活動した瞬間に感染してしまう」
本当のところは何もわからなかった。ただただ、人がゆっくりと死んでいった。
厳重に隔離された国家が、ほとんどゴーストタウンになるはるか以前に、それ以外の国々は意見を交わし、惑星外への脱出を検討していた。そして、すみやかに決断は下された。倒せないなら、逃げるしかない。
幸い技術の進歩で、多くの国は貿易がなくても充分に自国民の食をまかなえるようになっていた。生態系の悪化で人口だけでなく、人が住める場所も減り、国家同士は距離的にも交流的にもかなり隔たりがあった。伝染病が広がる速度の遅さもあり、逃げるだけの時間はかせげそうだった。
一番の問題はエネルギーだとされていた。惑星外に逃れるためにも、コロニーを建設するためにも、膨大なエネルギーが必要になる。地球を棄てる決断をした人たちの選択肢は広かった。地球内部にあるエネルギーが吸い出され、大気圏に大型のパネルが設置された。ほとんど地球を覆い尽くすようなそのパネルは、24時間太陽からのエネルギーを吸収することになった。もちろん、地表に光が差すことはない。
地球は急速に冷え込んでいった。あらゆるものから熱がなくなり、氷はその固さと面積を拡げていった。もちろん、そうなることは誰の目にも明らかだった。それを理解した上での脱出プランだった。
地球に残らざるを得なかった人々は、足の遅い伝染病によって、遅かれ早かれ死んでいただろう。だから、氷づけで死んだってそんなにかわりない。いや、むしろ人の形のままで死ねるのだから、その方が尊厳がある、と初めて建設されたコロニーの名誉市民である学者は言った。彼はいつもいつも人間の尊厳を訴えかけていた。安全なコロニーの中で、彼の論説はとても人気だった。
後から振り返ってみれば、そこまで大量のエネルギーが本当に必要だったのかは疑問が持たれた。いくつか窮屈な思いをすることはあるにせよ、地球から脱出するだけでも人々の生活は維持できたはずだ。しかし、残った国家の主席たちは、自明な地球の凍結を決断した。おそらく、恐れていたのだろう。ゆっくりと感染した人たちが、自分たちの力で宇宙に上がってきてしまうことを。なにせ、人類はさまざまな不可能を成し遂げてきた。技術と意欲と資源さえあれば、惑星だって壊せる爆弾を作ってしまえる。残された人々だって、何を為せるのかはわからない。その芽を根本から摘みにいったのだ──
そんなことを言うジャーナリストもいくらかはいたが、世間からはまったく無視された。そのような計算高い現実は、誰の好みにも合わないようだった。
巨大なパネルに覆われた地球は、もはやその姿を外から見ることも叶わず、やがてそれは惑星であったという事実すらも人々の記憶から消えていった。どれだけ技術が進歩しても、人々の心から宗教心が消えることはない。幾世紀もが過ぎ、やがてその冷えた石は、人類の出発地点として崇められるようになった。「あの石から、はじめての人間が生まれ出たんですよ」と両親は子どもたちにおとぎ話を語った。子どもたちは半信半疑ながらも、そのおとぎ話に耳を傾けていた。
一方で、記憶が風化するのと同じく、パネルもまた風化していた。いくつかのパネルがはげ落ち、太陽光が内側に差し込んでいる部分があった。でも、そんなことは誰も気にしなかった。そもそもそのパネルは、エネルギーの供給源としてまったく利用されていなかった。そのエネルギーがどう使われているのか誰も気にしていなかった。
あるとき、冷えた石から1隻の宇宙船が飛び出した。その光跡を見た子どもが言った。「まあ、まるでおとぎ話みたい」