『真ん中の歩き方』はじめに
はじめに 真ん中の歩き方
まっすぐ歩くのは、簡単そうで案外難しいものです。
目をつぶって歩み出せば、すぐに逸れてしまうでしょう。耳をふさいでしまえば、自分の足音すら聞こえなくなります。
もし、目を開き、耳を澄ませても、ノイズが多い場所ではあてにはなりません。私たちを道の隅っこに誘い込む情報は山ほどあるのです。
人は、フラフラする生き物です。
命令通りに業務をこなすコンピュータとは違います。心の内側には矛盾や弱さがいつでもあります。それを否定することも、無視することもできません。
ついつい、端の方に引き寄せられてしまうこともあるでしょう。
「そんな弱さなんて、無くなってしまえばよいのに」
そう感じること自体が、端への誘いです。
勇気と無謀は違います。
勇気は弱さを認め、そこから一歩を踏み出します。弱さを無視して猛進するのは、無謀でしかありません。隅っこに一直線です。
右に逸れたら左に戻り、左に逸れたら右に戻る。その繰り返しが、フラフラしてしまう人間にできる唯一のことです。
もしかしたら、まっすぐ歩くことなんて、いつまでたってもできないかもしれません。でも、真ん中を歩くことはできます。この二つは、似ているようで、やっぱり違います。
常に目を見開き、耳を研ぎ澄ませる。そして、考え続ける。
それが真ん中を歩くために必要なことです。
きっと、それは簡単ではありません。少なくとも楽なことではないでしょう。でも、不可能なことでもありません。人間に与えられた、一つの能力でもあります。
本当に怖いのは、まっすぐ歩いているつもりで、どんどん真ん中からずれて行ってしまうことです。そんなとき、人は不思議なほどの高揚感に包まれるか、逃れがたい絶望感に覆われてしまいます。隅っこというのは、そういう場所なのです。
バランスよく生きるためには、考えることは欠かせません。でも、考えているだけでも足りません。自分の足で歩いて行くことが必要です。それが、生きるということの意味です。
本書は、あなたに答えを与える本ではありません。あなたが考えるための本です。答えは、この本ではなく、あなたの頭の中にあります。
本書には直接的に問題が提示されたものもあれば、抽象的に示唆されているだけのものもあります。メタファーを使いすぎて、問題の本質が見えにくいものもあるかもしれません。突飛すぎて、理解を超えるものもあるでしょう。
でも、人生とは、そういうものです。
誰かがわかりやすく問題を提示してくれることは、本当に稀です。何について考えるのかすら、自分で見出さなければいけません。しかし、逆に言えば、何をどう考えるのかは、まったくあなたの自由でもあります。
本書が、あなたの考えのきっかけになってくれれば、著者としては望外の喜びです。