『哲学の門前』
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入門しなくていい。門前で楽しめばよいのだ。
自伝的エピソードの断片と哲学的思考が交差して織りなす、画期的な「哲学門前書」の誕生。
十九歳の夏にニューヨークで出会ったタクシードライバーとの会話、伯父の死に涙する祖母を慰めた夜、読書会で生じた環境型セクシュアルハラスメントの後悔、新卒で勤めた国書刊行会で接した個性的な面々、創業間もないヤフーでの目の回るような忙しさ、デビュー作『心脳問題』を山本貴光と書いた日々――
文筆家・編集者・ユーチューバーとして活躍する著者が、コミュニケーションや政治、性、仕事、友人関係などをテーマに、暮らしのなかで生じる哲学との出会いや付き合い方について、体験談を交えて考察する、ユニークな随筆集。
相棒・山本貴光氏による「吉川浩満くんのこと」収録。
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日々、新たな哲学入門書が刊行されています。こんなにたくさんの入門書が世に出るのは、哲学には入門の手続きが必要だという信念が存在するからです。なぜそれが必要なのかといえば、哲学というものがあまりに多様で、ときとしてあまりに難解だからでしょう。どちらもある意味では本当のことです。だから哲学入門書はつとめてやさしい言葉で書かれています。
とはいえ、いったいどうなったら哲学に入門できたことになるのでしょうか。やさしい入門書を読み終えたとして、それでめでたく入門できたと実感したことや、門をくぐる許しが得られたと満足したことがあるでしょうか。一知半解なまま数多の入門書を渡り歩く「入門書流民」を続けるうち、哲学に対して見果てぬ夢のような感覚がわきあがってくることはないでしょうか。
(第7章「哲学 reprise」より)
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【目次】
はじめに
1 哲学
Call me Ishmael
哲学のはじまり(と終わり)
2 ディス/コミュニケーション
ゴムボートとタイタニック
人間っぽいAIとAIっぽい人間
コミュ障についての小話
3 政治
伯父の帰国運動
右でも左でもある普通でない日本人
4 性
削除された世界の起源
空ばかり見ていた
《幕間》君と世界の戦いでは Ⅰ/Ⅱ/Ⅲ
5 仕事
勤労日記(抄)
私の履歴書
複業とアーレント
6 友だち
山本貴光くんのこと
友だち、遊び、哲学
吉川浩満くんのこと(山本貴光)
7 哲学 reprise
門前の哲学
あとがき
"自発的にであれ強制的にであれ、認知の自動運転が解除され、なにがなんだかわからなくなる。そして。そこから根本的にものを考え直されなければならなくなる。これこそ、私たちが哲学的なものと関わる契機になると考えてみるのです"
"しかし、議論を行うためには、そもそも当の研究会が議論の場としてそれなりに成立していなければなりません。そしてそこが議論の場として成立するためには、議論以前に、議論のための環境がそれなりに整備されている必要があります"
「勤労日誌(抄)」は、同じく締切を持ちながら仕事をする身として非常に胃の痛くなる話だけども、“唯虫主義者による修辞的疑問”のくだりで思わず笑った、あと、夜はがんばらない、の姿勢はたいへん共感できる。
「複業とアーレント」、すこぶる面白さだった。哲学や思想を「使う」、とでも言えるような感覚。
不思議な本なのですが、掴みどころがないという感じではありません。生活と、その中にある「考える」という行為。あるいは、何かおさまるべき場所を探し続けるような感覚。そんな感覚と共に読み進めていく本です。