段落を作らない文章がどれほど読みにくいのかの実験
『段落論』でわかりやすい文章の作り方を学ぶ
はかない記憶をたどってみても、段落についての知識はたいして持ち合わせていません。義務教育では、形式段落と意味段落の二つについて教えてもらい、それ以上込み入った話は聞かなかったように思います。そんな曖昧な知識であっても、こうして文章を書けるのが日本語の良さです。段落について知らなくても、本だって書けちゃうのです。あるいは、無数の本を読んできた中で、「段落の息遣い」のようなものを自然に体得したのかもしれません。つまり、暗黙知として段落の使い方を知っているということです。なんにせよ、文章を書く上で一度「段落」についてきちんと知っておくことは悪いことではないでしょう。特にわかりやすい文章を書きたいのならば尚更です。本書では、文章における段落の役割を「箱」にたとえています。たとえば、引越しの状況をイメージしてみましょう。家にある物を一つひとつ運んでいたのでは、いつまでだっても作業は終わりません。そこで、箱に荷物をまとめて運搬することになります。食器は食器、本は本、衣類は衣類といった分類をし、箱詰めをして、トラックに運び入れれば、引越しはよりスムーズに進められるでしょう。この「運ぶ」という行為を、情報の伝達として捉えたとき、段落の役割が見えてきます。情報を伝えようとするとき、すべてを一塊のまま伝えたのでは、受け手はその「重さ」に苦しむことになります。切れ目がまったくない文章を読む状況をイメージしてみればよいでしょう。耐え難い苦痛です。だからこそ、書き手は伝えたい情報を、一つひとつのまとまりごとに「箱」に入れます。それが段落の役割です。段落を箱として捉えると、いくつか大切なことがわかります。その1:段落には適切なサイズがある(大きすぎても小さすぎてもダメ)その2:段落は、どのような順番で並べるかが重要その3:段落を包括するより大きいまとまりもありうる箱に入れて運ぶのは効率的だからといって、一つの箱に大量にものを詰め込むと重すぎて運べなくなります。もちろん、小さすぎる箱は箱を使っている意味がありません。ちょうど良いサイズの箱を使うのがベストです。つまり、ある程度物を運べて、運びやすいサイズ、言い換えれば意味を汲み取りやすいサイズの段落を作るのがよいわけです。また、トラックの中で箱を積むとき、重いものを上にしてしまうと下の箱が潰れてしまいます。出し入れをするときに、都合の良い順番もあることでしょう。同様に、段落を並べる場合も、その順番が「運びやすさ」(=伝わりやすさ)に関わってきます。この点に関して、箱の中身(段落の中身)をきちんとまとめておくと、その順番の点検がやりやすくなります。いちいち箱の中身を見なくてもラベルをみれば判断がつくのと同じように、段落を構成する文章が一つの意味にまとまっているなら、その意味だけを取り上げて順序を検討できるのです。それがトピック・センテンスで構成されたアウトラインです。最後に、引越しの荷物はトラックで運ぶわけですが、箱の数がたいへん多い場合は、複数台のトラックを使うことになります。このとき、一つのトラックは一つの大きな箱だと捉えられます。実際、物流でよく使われている「コンテナ」は、小さな箱を収納するより大きな箱と考えて間違いないでしょう。文章の場合でも、段落を作ればそれでおしまいというわけではなく、より大きな文章を構成するときは、段落をまとめる箱(たとえば章)を作ることになります。その場合でも、段落作りと同じような考え方を用いることができます。一つの箱には、ひとまとまりのものを入れ、ちょうど良いサイズで、順番に気をつける。つまり、文章作りは再起的な作業だと言えるでしょう。上記は、本書にある「段落」に関する話のほんの一切れでしかありません。これ以外にも、面白い話がたくさん出てきます。それらは、文章を読む際にも、書く際にもきっと役立つことでしょう。個人的には、文章を書く際の「流れ」と「構え」の話が面白く読めました。段落は「流れ」(ボトムアップ)と「構え」(トップダウン)が交差する場所だという指摘は、「シェイク論」としても読めると思います。