どこかで朝は始まる、ぼくらは朝をリレーする
「家ができあがったら日本に帰りたい」住まいてはアメリカでの暮らしは30年だと言った。あらかじめエアメールで送付した図面を基に、国際電話で打ち合わせをする。彼が電話しやすい午後6時は、私が電話に出たくない早朝4時。1回の通話は2時間ちょうど、そんな国際電話での打ち合わせは2年以上続いた。
https://gyazo.com/bedf4065d6981c0e2ebb24321a99f019
「昼になったら成田に向かいます」住まいてとは一度だけ日本に帰国していた時に会った。電話での顔の見えない打ち合わせは疲労を感じたが、彼の顔を思い浮かべた。彼は電話を終えると今日一日も終わりお休みになる。一方で私は、電話を終えると窓の外は明るくなっていて、私の一日が始まるのだった。
https://gyazo.com/6e4fa6f2a3fc17c83ff1472be274c890
この地球で
いつもどこかで朝がはじまっている
ぼくらは朝をリレーするのだ
経度から経度へと
そうしていわば交換で地球を守る
眠る前のひととき耳をすますと
どこか遠くで目覚時計のベルが鳴ってる
それはあなたの送った朝を
誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ
谷川俊太郎『谷川俊太郎詩集 続』思潮社 1981
https://gyazo.com/e778cafc61a3d7ffb88ae1e5fb94e73d
「なるほど彼の一日と私の一日は繋がっているのか」と自分の発見が愉快だった。「ぼくらは朝をリレーする」大好きな詩も口にした。高い鉄塔たちがリレーして送電線はどこまでも続く。朝焼けを背にし一層頼もしく美しい。「彼と私とを繋いでくれた通信線は、このチームかも」と誤解するのも楽しかった。
hr.icon