お月様のようなどら焼きを前に『あん』を想う
読書感想文の選定を学生局から相談されたとき、ドリアン助川の『あん』を薦めた。ハンセン病がテーマになっている本だということを彼も知っていて、読み進めていくうちに、町の小さなどら焼き店「どら春」の、周りの人々の交流や暖かい雰囲気に惹かれていったという・・・
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町の小さなどら焼き店「どら春」の店長の千太郎は、ある日店に訪れた客の徳江のしつこい説得により、徳江に製あんを手伝ってもらい始めるところからこの物語は始まる。
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徳江がまるで会話をするように光る小豆を炊き上げ、その小豆のお陰で「どら春」の売上は上がっていったが、ある時から売上が落ちて行った。その理由は徳江の湾曲した指、引きつった右頬にあった... 。
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後日彼に感想を聞いた。読み始めた時は自分と徳江とは共通点もなく、徳江のことを他人事のように感じていたそうだが、徳江がハンセン病になり家族と離されて施設に連れてこられた年齢が、同じ 14才だったと知ったとき、自分のことのように感じ始めたという。
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家族や友達と離れて、たった一人で生活することなどあり得ない。一人で本を読んだり音楽を聞いたりすることは楽しいけれど、一番に楽しいと感じたり幸せだと感じたりする時は、友達と遊んでいる時や家族と夕食後に会話する時だからと。
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学生局からの質問に答えた。この物語の中で私が一番好きな所は、徳江が生きている意味を感じなくなっている時に、夜空の月を見上げ回想する場面だと。
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私はあの森の道で、本当にただ一人で
月と向かい合っていたのです。
すると、私はたしかに
聞いたような気がしたのです。
ドリアン助川『あん』ポプラ社 2013
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月が私に向かってそっとささやいてくれたように思えたのです。
お前に見て欲しかったんだよ。
だから光っていたんだよ、って。
ドリアン助川『あん』ポプラ社 2013
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やさしいお月様のような、どら焼きを前にして、千太郎や徳江のことを思い出した。読み進むうちに涙が出てきてしまうような、限りなくやさしい魂の物語。ドリアン助川『あん』を、みなさまにもお薦めします。
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