The Story of Art
E. H. Gombrich
※原書
Introduction
美術における美は対象(被写体)そのものの性質ではない
デューラーの一見醜い老婆のスケッチは美的価値がないものだろうか?
バルトロメの描いた浮浪児を魅力的にしているのは何か?
Melozzo da ForliとMemlingの天使像、Reniと中世トスカーナの受難像、デューラーの写実水彩とレンブラントの象スケッチ
分かりやすい色彩、表情、写実性などの美点ばかりが価値を持つわけではない
「誤った」カリカチュアが多くを効果的に伝えることもある
先入観の問題
前後の足を開いて駆ける馬のモチーフは頻出だが、写真の発明で実は正しくはないことが発見された
写実性と思っているものはしばしば先入観に過ぎない
先入観により新たな表現が否定されるのはカラヴァッジョの聖マタイなど枚挙にいとまがない
美のルール
芸術家は「美」などの大文字の概念を直接意識することは少ないが、rightな状態を実現するために細心の神経を尖らせる
ラファエロの聖母子像の例
明確に言語化することは難しいし、規則化の試みで一般に成功したものはない
むしろ優れた芸術家はその時規則と思われていたものを打ち壊しつつ美的な成功を収める
美やrightさを特徴づける規則を知ることはできないが、良し悪しを自ら判断する試みは見る目を養う
忌避すべきは半可通・スノッブで単に珍しいものを好む素振りをしたりラベリングに満足してしまうこと
Chap.1 Strange Beginnings - Prehistoric and primitive peoples; Ancient America
装飾を目的とする芸術(art)の概念はごく近代の発明であって、特に芸術の起源は機能utilityに照らして理解することが肝要
宗教施設や劇場といった機能を持たない建築物は存在しない。絵画や彫刻もまた同様
primitive artsを見る際にもそれらに求められた機能を意識しなければならない
prehistoric and primitive people
彼らにとって芸術行為は(現在の我々にとってのそれより遥かに)実用性usefulnessと強固に結びついている
strangeness = 描くことやかたちづくることと対象に力を及ぼすこととの区別が曖昧な状態
我々もまた人物写真を傷つけることに逡巡したり、ガイ・フォークスの人形を燃やしたりする感覚を共有している
最古の例:ラスコーなどの動物壁画は、絵を通じて動物の力を弱めるための方法だったかもしれない
表象を通じた対象との一体化:動物を模ったコスチュームを用いた祝祭での舞踊
より直接の動物と人間の近縁性の概念を持つこともある。これは西洋文明にもある(例:ロムルスとレムス)
primitive artで重視されるのはこうした表象と対象のつながりを通じた機能であり、美的性質は二次的な要素
伝統や要請とともに職人・芸術家の個性が発揮される余地もまた存在する
技術的熟練が軽視されるというわけではない。「写実的な」表現の例も多く知られている
当然、技術が芸術的価値を決めると考えるのは誤りである。ボトルシップは最高の芸術か?
抽象的表現
実験:単純な落書きの顔でも目が欠けていれば不憫に思えるし、逆にパーツと配置さえ揃っていれば各要素がいくらか変わったところで全体的な印象が変わることはない
primitive artではこうした観察に基づく抽象的な表現や幾何学的な表現が多用される
物語を模ったトーテムポールのように複雑な時間や概念が表現された造形物も見られる
美術と文字・記号
蛇の組み合わせで造形されたアステカの雨の神の彫像
蛇のモチーフは雷雨に関する文字としても取り入れられていった
Chap.2 Art for Eternity - Egypt, Mesopotamia, Crete
エジプト美術は西洋美術に直接のつながりを持つ最古の美術体系
代表例:ピラミッド=絶対的支配者の死後の永遠の繁栄を保証するための建造物
ミイラ化も同様に永続性の保証のための方法
彫刻も補助的に副葬品として用いられた。幾何学的様式化と写実的観察のバランスがエジプト美術を特徴付ける
静的な描写
庭園の壁画であれば、池は直上からの視点、木々は真横からの視点、動物は全て側面からの視点と、オブジェクトごとに「正しい」描き方をする
特徴的な人物描写も同様。横顔だが目は正面を向く、胴体は正面を向くが腕は側面など一見歪んだ造形
観察者の偶然的なパースペクティブは尊重されない。静的で正しい造形の表現
男性が女性よりも大きく色黒に描かれるなど、「正しい」描写のルールが厳密に定められ千年以上維持された
決して描写が稚拙なわけではなく、精密にバランスを取った線の配置と自然観察に基づいている
アマルナ革命
アクエンアテンの時代に多神教からアテン神一神教への転換と同時に美術伝統も一旦破棄された
既存ルールを逸脱するルーズなポーズを取った人物、男女の同じサイズでの描写など
クレタ文明の写実的な動物画などの影響があったかもしれない
結局息子のツタンカーメンの時代に旧スタイルが復古
バビロニア・アッシリア
石材に乏しい土地のためほとんどの建造物が焼きレンガのため風化で多くの遺物が喪われている
死者の永続性のために似せた造形物を残すというアイデアが存在しなかったことも大きいか
高度な観察や対称性の意識に基づく装飾品は発見されている
戦争画の石碑:勝利の永続化を祈念するものか