Janeways免疫生物学
Janeway's免疫生物学 / Kenneth Murphy, Paul Travers, Mark Walport著, 2010
Chap.1 免疫学の基礎概念
病原体関連分子パターン
自然免疫系の認識パターン
オリゴ糖, ペプチドグリカンなど
immunogen != pathogen
適応免疫応答の活性化には抗原だけでなく自然免疫の活性化が必要
死菌や抽出物 = アジュバント
クローン選択
適応免疫(リンパ球産生)の中心的原理
- 前提1. 固有のレセプターを一つずつ有する
- 前提2. 外来分子とaffinityの高いレセプターの相互作用で活性化が誘導
- 前提3. 活性化リンパ球由来の分化エフェクター細胞は同じ特異性を持つ
- 前提4. 自己分子に特異的なリンパ球は初期段階で消失 (免疫寛容)
抗体
BCRの分泌型
heavy-chainとlight-chainからなるY字型
可変部と不変部を持つ ... 遺伝的再構成による膨大なレパートリー
抗原に直接結合, エフェクター形質細胞に分化
ただし、B細胞の活性化・抗体産生にはヘルパーT細胞の助けが必要
TCR
膜結合型しかない
α鎖とβ鎖からなる
可変部と不変部を持つ
抗原には直接結合せず、他の細胞に結合した抗原断片を認識する (MHC=mojor histocompatibility complexが必要)
抗原内部に埋もれたエピトープも認識できる
リンパ球へのシグナル
生存シグナル (受け取れないとアポトーシス)
末梢のリンパ球レパートリー内で生存, しばらくレセプターに反応がないと死滅
リンパ球と病原体の遭遇は主に末梢リンパ組織(リンパ節など)で行われる ... 樹状細胞が抗原を運ぶ
抗原のリンパ節輸送から活性化, 分化, 増殖を経て適応免疫が機能するまでに4-6日
典型的な相互作用
1. BCRが抗原を補足
2. 未成熟B細胞表面に抗原提示
3. ヘルパーT細胞が抗原を認識, B細胞に活性化シグナルを送信
活性化したリンパ球は1000個程度にクローン増殖してからエフェクター細胞へ分化
免疫記憶
クローン増殖したリンパ球の一部は死滅せずに組織に残存 (memory cell)
二次免疫はより高速に増殖・反応する (親和性成熟 B細胞のみ)
適応免疫のエフェクター機能
- 抗体の機能
1. 中和 (抗体結合による阻害)
2. オプソニン化 (貪食細胞の誘引)
3. 補体活性化
- T細胞の機能
1. キラーT細胞 = ウィルス感染細胞を直接殺傷
2. Th1細胞 = 細菌感染マクロファージを活性化してリソソーム癒合を引き起こす + ヘルパーTとしてB細胞と相互作用
3. Th2細胞 = ナイーブBを活性化
- B細胞の機能
1. 抗体の産生
MHC
class 1 - 細胞内で合成されたウィルス由来タンパクなどを提示 -> キラーT細胞に認識されて殺傷
class 2 - 細菌感染やBCR結合により取り込まれた抗原を提示 -> ヘルパーT細胞に認識されて相互作用 ... 樹状細胞やマクロファージ, B細胞に限る
chap.2 自然免疫
pathogenの分類
ウィルス, 細菌, 真菌, 原虫, 蠕虫
病原体の生活史
細胞内(virusなど)
NK細胞, 細胞傷害性T細胞など
細胞外(多くの細菌)
抗体, 補体, 貪食など
病原体の組織破壊様式
直接破壊 ... 毒素産生, 直接細胞障害など
間接破壊 ... 免疫複合体, 抗宿主抗体, 細胞免疫など
炎症
マクロファージ由来のサイトカインが血管細胞の拡張や接着分子の発現増強を行うことで発生
エフェクター分子や細胞を感染部位に動員
局所血栓の形成
組織修復の支援
自然免疫系におけるパターン認識
一揃い全てがマクロファージなどの表面に発現している (モノクローナルではない)
病原体関連分子パターン(PAMP) ... 繰り返し構造
レセプターは主に貪食作用を誘導するが、その他サイトカイン産生によるシグナル伝達などの引き金にもなる
TLR(Toll-like Receptor)やNODタンパクが代表的。十種類しかないが代表的なpathogenに対応
補体系と自然免疫
病原体のオプソニン化と炎症反応の誘導に働く
-> オプソニン化された病原体は補体レセプターで識別される
-> 炎症反応は小蛋白フラグメントが関与 (アナフィラキシーショック要因にも)
タンパク複合系で普段は非活性状態。酵素カスケードで活性化される
抗原提示細胞は補体に被覆された抗原を優先的に取り込む
病原体に直接結合する古典経路の開始成分C1は、抗原抗体複合体にも反応 -> 適応免疫と自然免疫の橋渡し
古典・レクチン・第二いずれの経路でもC3転換酵素の形成と、C3b分子の結合が食作用誘導に関与
補体最終産物は重合して細胞膜に穴を開ける (実際の免疫システム上の重要度はそこまで高くない)
補体活性化は病原体表面で限局的に起こる ... 宿主細胞を保護
補体は様々な方法で細胞に致死的な作用を与えるので、各段階で宿主細胞を保護するメカニズムが用意されている
感染に対する誘導型自然免疫
サイトカインやケモカインに依存した応答, 適応免疫が成立するまでの感染阻止
白血球由来のサイトカインをインターロイキンILと呼ぶ
例) IL8(CXCL8): 感染初期に分泌, 走化性を誘導する
CCケモカインとCXCケモカインがあり、CCRとCXCRがレセプターとなっている
ケモカインの種類によって対応する白血球の種類や目的地が異なるらしい
-> 接着分子の振る舞いを変化させるとともに濃度勾配を作り出し感染部位への走行を誘導する
-> インテグリンリガンドであるICAM-1の発現を誘導
TNF-αは血液凝固などを介して感染拡大を防ぐが、全身で発現するとショック死する
サイトカインは内因性発熱物質として全身状態の変化も誘導する
インターフェロン
ウィルス感染に反応して生産されるタンパク質。二重鎖RNAなどに特異的
ウィルスRNAの分解に関与するオリゴアデニル酸合成酵素などを誘導
その他、マクロファージや樹状細胞を抗原提示細胞として活性化させたり、NK細胞を活性化させたり
NK細胞は二種類のレセプター(KLR/KIR)を使って感染細胞を見分ける。+免疫グロブリン -MHCclass1 ... 遺伝的浮動が激しい
自然免疫様リンパ球 ILL
TCR再構成を受けるがバリエーションがなく自然免疫のように振る舞うもの
自然抗体 IgM
chap.3 B細胞レセプターとT細胞レセプターによる抗原認識
免疫グロブリンとTCR
可変部(V region)が抗体認識, 定常部(C region)がエフェクター機能を担う
BCRではエフェクターではなくシグナル伝達
TCRは抗原を直接認識するのではなくMHC-ligand complexを識別 (MHC restriction)
MHC遺伝子はほとんどの人がヘテロ接合体で持っている
抗体分子の基本構造
heavy chain (50kDa) と light chain (25kDa) の組み合わせでY字を作る
Y字の先端部分が可変部位になっており特異性に関連
isotypeとして IgM, IgD, IgG, IgA, IgE が存在 ... 重鎖の構造が異なる
免疫グロブリンドメイン(110アミノ酸単位)の組み合わせでLC(2つ), HC(4つ)ともに構成される
LC, HCともにN末端側の1ドメインだけが多様性を示し(VL, VH),残りのドメインはほとんど抗体間で共通
パパインでヒンジ部を分解した際に出てくる二つの抗原結合性フラグメントをFab, 定常部由来の一つをFcフラグメントと呼ぶ
Fabのうち可変部だけでできた人工抗体を単鎖Fvという。治療目的で有用
可変ドメインは定常ドメインより1ループ長い
抗体分子と特異抗原との結合
超可変部 ... Vh, Vlにそれぞれ3箇所ずつ存在。それぞれ7,8塩基の長さ
それ以外はフレームワーク部といってバレルを構成, 超可変部はループ
超可変部はCDR(complementarity-determining region)ともいう
研究初期では抗体産生性腫瘍細胞からのでたらめな抗体しか使えなかった -> 特異的抗原をスクリーニングするのは大変だった
モノクローナル抗体の生産技術によって抗体抗原結合様式の研究が進んだ
エピトープ: 抗原のCDRによって認識される構造
構造依存性/非連続エピトープはタンパク質などの折りたたみで生じるエピトープ。 <-> 連続性エピトープ
Tリンパ球による抗原認識
TCRの構造は免疫グロブリンのFabフラグメントとほぼ同じ
各T細胞が30,000個の同一の特異性のTCRを持つ
α鎖とβ鎖は根本の部分でジスルフィド結合している
定常部Cαの折りたたみ構造が免疫グロブリンとはかなり違う -> CDRの配置もBCRとは異なり結合性の違いが生じている
MHC
class 1: 8-10アミノ酸程度のペプチドをまとめて包み込んで安定化, 病原体由来ペプチド
class 2: 13アミノ酸以上の様々な長さのペプチドと結合,
T細胞の種類
CD4: ヘルパーT細胞になる, MHC class 2
CD8: キラーT細胞になる, MHC class 1
CDxはMHCの定常部分と結合して補助する(補助レセプターとも 呼ぶ)
MHCの発現
class 1はウィルス感染時などに断片を提示する -> ほとんどの細胞に含まれる (赤血球などは除く)
class 2はエフェクター細胞の活性化に関わる -> マクロファージや樹状細胞が発現する
chap.4 リンパ球抗原レセプターの形成
一次免疫グロブリン遺伝子再編成
各個体が持っている抗体レパートリー10^11以上 ... ある時点での抗原特異性数は個体差が大きい
生殖細胞遺伝子説(germline theory)+体細胞突然変異説(somatic diversification)
通常の細胞では免疫グロブリン遺伝子の定常部と可変部は離れているが、B細胞では近い ... 遺伝子再編成 (体細胞遺伝子組換え)
軽鎖
V遺伝子(variable segment) + J遺伝子(joining segment) で一個のエキソンを作る
RNAスプライシングで可変部エキソンと定常部エキソンが直接結合
重鎖
VとJの間にD遺伝子断片(diversity segment)が加わる
V+(D+J)という二段階の組み換えでVDJエキソンが生じる
全長2Mbにも及ぶ
V遺伝子断片
免疫グロブリン遺伝子座にはV断片が連続して並んで存在
軽鎖は7ファミリー40個(κ鎖), 8ファミリー30個(λ鎖), 重鎖では7ファミリー40個の遺伝子断片が存在 ... それぞれ違った染色体上にある
いずれも偽遺伝子は含まない数字
J遺伝子断片
λ鎖ではJ-Cの決まったペアが4種類存在
κ鎖では5種類のJと一種類のCが存在
重鎖では6種類のJが存在。また、定常部がイソタイプに対応して複数並んでいる (IgM, IgDなど)
遺伝子再編成の様子
ncDNAである組換えシグナル配列(RSS)を介して再編成が行われる
重鎖だと V|23> ... <12|D|12> ... <23|J のようになっている (12/23法則)
CDR1, CDR2はV遺伝子断片でコード
CDR3はV(D)J結合によって配列が決定される ... 5%程度ではDD結合も生じるが仕組みは不明
遺伝子再編成の原理
ヘプタマー末端が環状DNAとして切り離されてゲノムから除去される
V(D)J組換え酵素(RAG-1/2)が特異的にRSSに結合、切断を行う
切断後の再接続は一般的な酵素(Ku, DNA-PK, アルテミスなど)が機能する
RAG組換え機構はレトロウイルスのインテグラーゼや移動性DNAトランスポゾンの転移機構と似通っている
イントロンがないなどの特徴からも、起源はトランスポザーゼでV遺伝子断片組換えに利用されるようになって脊椎動物で獲得されたらしい
多様性生成機構
1. V/D/Jの組み合わせ (組合せによる多様性)
2. 結合部多様性 ... 組換え時に結合部位で塩基がindelされる
3. 重鎖と軽鎖のペアリング
4. somatic hypermutation
1+3 -> 1.9E6種類
- 軽鎖はλとκあわせて120+200=320種類, 重鎖は6000種類のバリエーション
- ただし、V遺伝子断片の利用頻度にはムラがあるので実際は1.9E6全部が使われるわけではない
1+2+3 -> 1E11種類
- CDR3はV(D)Jの結合部に存在
- RSSのペアリング, RAGヘアピン形成, アルテミスによるヘアピン開裂(->回文構造), 塩基付加, DNA二本鎖合成という段階
- -> P-N-Pという塩基挿入が発生する(塩基付加は主に重鎖)
- 2/3くらいは非機能的再編成(nonproductive rearrangement)となる
T細胞上の抗原レセプターTCRの遺伝子再構成
TCR再構成もほとんどBCRと同じような仕組み
α鎖が軽鎖、β鎖にそれぞれ対応し、前者はVJ、後者はV(D)J reconstructionを行う
12/23法則や関連酵素も共通
免疫グロブリンとTCRの主な相違点
- B細胞のエフェクター機能は分泌抗体により、イソタイプが意味を持つ
- TCRは直接エフェクター機能を持たず、細胞間の接触による -> 定常部がシンプル
TCRの多様性
CDR3ループ(D/J遺伝子断片)のみ多様性が大きく、CDR1/2ではV遺伝子断片をそのまま利用
... MHC分子結合性があればよく、リガンドと直接触れるCDR3のみ本当に多様性が必要
Jの多様性はBCRよりも大きい (61個の遺伝子断片 vs. 5)
γδ型TCRについては機能やリガンドがまだ詳しく分かっていない
somatic hypermutationはTCRでは起こらない
免疫グロブリン定常部の構造とその種類
概要
重鎖定常部分Chが9種類あり、それによってエフェクター機能が異なる
ナイーヴB細胞ではCμとCδを使い、膜型IgM, IgDが発現する
活性化B細胞ではクラススイッチが発生、二種類以外の免疫グロブリンも産生されるようになる
主なクラス
IgM(μ) ... 五量体形成, 補体活性化 定常部のゲノム上配置のため最初に発現する
IgD(δ) ... 機能はあまりわかっていない
IgG(γ) ... マクロファージなどのFcレセプターと結合, 食作用を促進, 母子移転する
IgE(ε) ... 肥満細胞, 好塩基球, 好酸球などと結合, 補体カスケードの活性化
IgA(α) ... Fc部分によって能動輸送される
また、最初は膜結合型に限られる
分泌型とのスイッチングはRNAプロセシングによる
抗体レパートリー増大のための第二次多様性の導入
RAGによるV(D)J組換えは確かに非常に高い多様性を持つが十分ではない
二次多様性が抗原刺激によって惹起される
1. somatic hypermutation - 可変部に点変異が導入される
2. gene conversion - 可変部配列のブロックを偽遺伝子となっているブロックと入れ替える (AID: 活性化誘導型シチジンデアミナーゼが惹起)
3. class switching (定常部に関する多様化)
AIDによる点変異導入
AIDが一本鎖に開裂されたDNAに結合、CをUに変換
UNGがウラシルを除去して脱ピリミジン塩基とする -> 塩基転移による点変異
APE1がリボースを切り出して一本鎖DNAに切れ込みを作る
-> 鋳型に基づく修復 ... 遺伝子変換
-> 二本鎖DNAの切断 ... クラススイッチング
遺伝子変換
ニワトリなど、VDJrecombによる多様性はきわめて小さい代わりに遺伝子変換で確保
V遺伝子中の短い配列が上流の偽V遺伝子断片と置換される
これを繰り返して多様性を獲得
クラススイッチング
不可逆的過程 ... サイトカインなどによって惹起
スイッチ領域:各重鎖イソタイプ遺伝子の上流に存在
AIDがスイッチ領域を切断したり再結合させたりして
chap.10 適応免疫の動態
感染に対する適応免疫応答の経過
感染
- 細胞外病原体:感染後、初期感染巣からリンパ行性あるいは血行性に拡散
- 細胞内寄生病原体:細胞間直接拡散、外液経由拡散
- 細菌:上皮面に感染巣を形成、毒素分泌
適応免疫応答
- 抗体・食作用による除去
- エフェクターT細胞による感染細胞の除去
自然免疫応答
細菌感染
- 炎症 ... マクロファージ活性化, サイトカイン分泌
- 内皮細胞の活性化 ... セレクチンによって血管内皮細胞上でローリング, 白血球の病巣導入
- 樹状細胞の活性化 ... 抗原を取り込んで二次リンパ組織へ流入、適応免疫応答の開始
- ナイーブT細胞の活性化 ... エフェクターT細胞の成熟
抗原特異的T細胞の分化
Th17細胞 -> サイトカインの誘導 自然免疫系炎症応答の増幅
Treg細胞 -> 自己抗原や常在微生物への反応の抑制
Th1細胞 -> 貪食細胞や抗体産生の補助
Th2細胞 -> 中和抗体産生やマスト細胞活性化に関与
互いに分化を調整し合う
エフェクターT細胞の感染局所誘導
基本的にあらゆる抗原特異性の細胞が感染巣に侵入する
数日でクローン増殖を繰り返して多数がpathogenを認識するT細胞になる
分化したエフェクターT細胞は局所でもシグナルに反応する
その他T細胞関連
CD8 T細胞応答(キラー)は一部のpathogenではCD4の助けなく活性化する
局所リンパ節内でT細胞が同じ特異性を持つB細胞を活性化し抗体産生応答をさせる仕組みは未知
エフェクター機構は病原体によって異なるものが活用される
感染終了時には少数の記憶細胞を残してほとんどのエフェクター細胞が死滅する
免疫記憶
免疫記憶は長時間持続する
記憶応答の半減期は8-15年
記憶細胞は常にごく少数が細胞分裂して維持される ... 未知のサイトカインによる?
B細胞における免疫記憶
記憶B細胞はナイーヴB細胞の100倍程度
二次抗体応答の場合はIgMだけでなくIgGやIgA, IgEも生産される
記憶B細胞はナイーヴB細胞よりも少ない抗原量でヘルパーT細胞と相互作用する
記憶T細胞
記憶B細胞はエフェクターB細胞とは異なり抗体産生をそのままではしないが、
記憶T細胞とエフェクターT細胞を見分けるのは困難
抗原原罪 (original antigenic sin)
免疫された固体に残る抗体・記憶リンパ球が同じ抗原に対してナイーヴT,B細胞が活性化されることを抑制
-> 母子でRh型が合わないときに事前に抗Rh抗体を投与すると症状が抑えられる
あるウィルスに感染した人は最初に出会ったエピトープのみに反応し、別の変異株の持つ新しいエピトープに対応できない