翻訳は無上の精読
翻訳という愉悦は、堀口大學にとって、精読の愉悦であった。このことを幾度も言っている。「飜譯すること、それは私にとつては、またとない精讀の機會に他ならない」。「よろこびの大半は、完全な精讀の機會を興へられること」。「翻訳は無上の精読」。 確かに、そのとおりだ。翻訳は精読の理想の形である。そこを世の翻訳者は、改めてしっかと肝に銘じておくべきだろう。せっかく理想の形で本を読む機会を与えられながら、目に小砂が入っていてはまずい。たえず目を洗って読む。この人にそれを学びたい。
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