第5回のQ&A

前回のSlidoから

ゼルダってどのジャンルに入るんですかね

A. RPGと言われることもありましたが、基本アクションアドベンチャーだと思います。

ユールの定義したルールとフィクションが、イマイチわかりにくいです。通常使う語彙の意味と違うので

★A. 日常的な用語法と意味が違っていてわかりにくいのはその通りですね。このケースにかぎったことではないですが、テクニカルターム（専門用語）は、日常的な意味からずれていようがいまいが、ふだんの用法はいったん忘れて当の議論の文脈でどういう意味で使われているかに注意を向けるほうがよいです。とくに哲学の本や論文を読むときにはそういうことが頻繁にあります。

ドラクエ関係

堀井雄二と中村光一が出会ったように、別々に活動していた人々や会社が共に作品づくりに取り組み生み出された有名タイトルには、例えばどのようなものがあるのだろうか。

A. 当時の堀井や中村はいまでいうインディーゲーム開発者のようなものだったので、イメージされている事態とは多少違うかもしれません。『クロノトリガー』は『ドラクエ』のスタッフの一部と『FF』のスタッフを含めたスクウェアの開発者が協力して作った（「ドリームプロジェクト」）ことで有名な作品ですが、企画物の性格が大きいですね。

ドラクエが週刊少年ジャンプで独占的に情報が公開されていたことについて、他に似たような例はあるのか気になった（幅広い層がゲームに親しむ今日では、雑誌での情報公開はさほど有効ではないようにも思える）。

A. 思い浮かばないですね。『月刊少年ガンガン』（1991年創刊）はドラクエのパブリッシャーであったエニックス（スクウェアと合併する前です）の雑誌ですが、そこまで独占的にドラクエの発売前情報を出していたわけではなかった気がします。記憶でしかないので、ちゃんと調べると違うかもしれません。

ドラクエの説明の箇所で、最初のものが出た次の年にドラクエ2が出たとのことでしたが、そんなにはやくにゲームの開発が可能なのでしょうか。最近では新シリーズがでるまで２～３年間ほど期間があいているので少し違和感を覚えました。当時はまだ今のソフトに比べて単純だったから開発が簡単だったのでしょうか。

A. 『ドラクエ』や『FF』は、ファミコン～スーパーファミコン初期の時代くらいまでは、年に一作程度のスピードでナンバリングをリリースしていましたね。「単純だった」という言い方をしていいかわかりませんが、制作規模（人数も予算も）が現代とはかなり違っていたので、いまの感覚だとイメージしにくいと思います。とくに3Dの時代（初代PlayStation以降）になってから制作規模が膨れ上がったという話はよくあります。

ビデオゲーム史関係

シューティングゲームというと、『グラディウス』などにあるようなパワーアップ要素が思い浮かぶのですが、これもレベルアップと同じくRPG的な要素と考えるべきでしょうか。また、今回の講義を聞いて『スペースインベーダー』などはADV、RPGの流れと合流する前のアーケードゲームの作品ですが、「宇宙人」、「UFO」といった虚構世界を想像させるフィクションの要素も含まれている作品なのではないかと感じました。

A. 『グラディウス』の成長要素は、当時としてはRPG的な要素として考えられていたかもしれません。

アーケードゲームの系統とADV/RPGの系統が「合流」することで、それぞれの系統のゲームに謎解きやアクション要素が追加される例が見られたましが、『レイディアントシルバーガン』においてはストーリーテリングがかなりアニメに近く、シューティングゲームのパートと完全に分かれていることが印象に残りました。今では、そのようなゲームはおそらくシューティングの場面でもワイプのような形でキャラクターが映り、ストーリーが展開するものが想像できるので（具体例は思いつきませんが）、『レイディアントシルバーガン』は「合流」の過渡期の形式なのだろうかと思いました。

A. 『レイディアントシルバーガン』の冒頭のアニメの表現は当時としても独特なので、少なくともその点については時代を代表させないほうがよいです。

今となっては、「アドベンチャーゲーム」というとアクションアドベンチャーやそれに準ずるものが目立つような状況で、国内外問わずそういったものが主流になっているように思われ、授業内でもあった通り、やはり純粋なADVはむしろ(相対的に)マイナーなジャンルとなっているように感じられる。日本においては、授業でも取り上げられたビジュアルノベルが比較的従来のADVの流れをそのまま受け継ぐものであるが、ビジュアルノベル的な形態はあまり海外作品で思い当たるものがなく、日本独自のものではないかと思った。関連して、海外においては従来のADVに近いタイプのものは初期ADVより後にはどのようなものがあるのか、そしてそもそも海外のビデオゲームにおいて、2つの流れの関係は日本とは異なるような独自の動向を見せたのかどうかが気になった。

最近はあまり聞かないですが、2000年代ごろには「洋楽」ならぬ「洋ゲー」という言葉があって、そういうFPSなどに典型的な、日本にはないビデオゲームのあり方を指していました。目下人気のバトルロイヤルゲーム（バトロワ）は、ジャンルとしては2010年代半ばに確立するものですが、FPSのマルチプレイヤーモードを継承しているものです。

・アーケードゲームの特徴を残している代表的な例として格闘ゲームが挙がっていましたが、対人戦がメインのFPSようなゲームも純粋なアクションゲームに近いゲームとしてその一種に数えられるのでしょうか？格闘ゲームは今でもアーケードコントローラーを使うなどアーケードと近い操作性を保っているように思うので、PCゲームで格闘ゲームに対応するのがそのようなゲームなのではないかと考えました。

A. FPSのマルチは、ゲームの内容としてはアクションゲームでアーケード系統に近いですが、歴史的な流れとして見た場合は、上記のようにどちらかと言うとPCゲームの系統から出てきたものです。

アーケードゲームとRPG/ADVの合流で、ゲームも複雑化し、さらなる面白さが出てきたとは思うのですが、その合流以来、数多くのゲームにもアクション要素が入ってきたりして、最近のゲームにはかなりプレイヤーのゲームスキルをそれなりに必要とするものが多くなっているように感じます。もちろんゲームスキルが必要ないゲームも多く存在しますが。このゲームの複雑化は、二つの合流の結果ということでいいのでしょうか。それとも単に技術が発展して複雑な操作がゲームでできるようになったからでしょうか。

A. 最近のビデオゲームが一般的に「複雑化した」「より高いスキルを求められる」と言えるかどうかがまずはっきりしませんが、仮にある種のゲームジャンルは複雑化しているとして、その要因はいろいろ考えられると思います。技術的な発展による面も考えられる一方で、単純にジャンルとしての内在的な進化（あらゆる芸術ジャンルに言えること）の面もあると思います。

80年代半ば以降、アクションゲームとRPG・ADVの相互合流が進んだことは、ビデオゲームという娯楽媒体（と言っていいのかどうかわかりませんが）がより成熟・発展してきたことを明確に示していると直感的に認識したのですが、「合流（＝作品の深化）」を成熟・発展と短絡的に結びつけてもいいのでしょうか。媒体としての発展の歴史において個々の事象をどう捉えるべきなのか、ビデオゲームという媒体に特殊性を感じている（実際に特殊性があるのかもわからないです）せいで余計に悩んでいます。

A. 疑問のポイントが理解できているか自信ないですが、歴史的な流れ自体は「深化」「成熟」「発展」のような価値含みの言い方で語る話ではないと思います。もちろんその変化にポジティブな（あるいはネガティブな）価値づけをしてもかまいませんが、それは歴史記述とは別のレベルのことです。

カイヨワとユールの理論

ユールのルールとフィクションの考え方は、ルールがそのゲームのプレイにかかわる要素で、プレイヤーのいる現実での事実を示し、フィクションがそのゲーム内の虚構世界での事実や出来事を表し、フィクションとルールが互いに影響を与え合うこともあるというものだったが、これとカイヨワの遊びの理論とのかかわりでうまく理解しきれない部分があった。カイヨワの遊びの理論の第五項目（ルール）と第六項目（フィクション）では、ルールが現実にはない新しいルールを導入するもの、フィクションが現実を模倣、表象するものとの見解が示されており、現実との距離がカイヨワの理論とユールの理論では反対になっているような印象を受けるからである。ビデオゲームの文脈で考えた時には、新たに導入されたルールがプレイヤーの行為によって現実の事実をもたらすものになるという特殊な状況が起こっていると理解すればいいのかどうかが気になった。

★A. この点はおそらく「現実との距離」で考えるとわかりづらくなってしまうのだと思います。

ルール上の事柄が本当に「現実に存在している」と言えるのかどうか、野球には言えたとしてもそれはビデオゲームにも当てはまるのか、といった疑問があるかもしれません。そのへんは以下のリンク先で補足しています。

ユールの出すルールとフィクションの関係の具体例がかなり馴染み深く、カイヨワの言うようにルールとフィクションが「互いにほとんど相いれない」ということがどういうことなのかあまりわからなかった。

A. 上記のようにややこしい理屈かつカイヨワ自身があまり明晰に書いてないので、『遊びと人間』を読んで判断していただいたほうがいいでしょうね。ざっくり言うと、遊ぶときの態度が両者（たとえばスポーツとごっこ遊び）でまったく違うということだと思います。

カイヨワのOR説は、強気というか断言が難しいことを主張しているように思えるが（そして、両者が相反するという根拠はあまり説得的に感じられない）、カイヨワがあえてこう主張していることに論敵などの文脈があるのか気になった。「定義」として挙げたために、歪な感じがするだけなのだろうか。

A. 明確に論敵や議論の文脈がある感じはしませんね（ありえるとすればホイジンガ『ホモ・ルーデンス』かなと思いますが）。上の回答の繰り返しですが、カイヨワの元テキストを読んで説得力について判断してしていただきたいところです。おっしゃるように明らかに変な主張ではあるのですが、逆にそこに面白さも感じます。

疑問点としては、カイヨワによると基本的に相容れないはずのルールとフィクションの2つの要素が、なぜビデオゲーム内では共存しうるのかどうかという点です。カイヨワの定義論に則れば、ビデオゲームは厳密には「遊び」と呼べないもになってしまうのでしょうか。

A. 単純にカイヨワの主張が間違っていて、そこまで相いれなくもないということでしょうね。とはいえ相性の悪さは多少あるとは思います。

・カイヨワの「遊びの定義」における5，4が選言的であるのは分かったが、1－4は選言ではないということでいいのだろうか。

・選言的な遊びの定義を参照するならば、いずれかの命題を満たせば十分なのにもかかわらず、ビデオゲームというものはなるべく多くの命題を満たすべく設計される傾向があるのではないかと考えた。この主張がゲームの定義の連言性を論じたユールの主張と差をもつ部分は、連言性を持つゲームをあくまで「理想的なゲーム」に限っていること(絵画において筆跡と内容という二重の認識を実現するために巧みな手立てが必要なように)、また、カイヨワの定義を含む、あらゆる選言的定義について当てはまると主張していることである。

A. 選言なのは5、6ですね。カイヨワは明確に書いていませんが、1・2・3・4・（5 or 6）は連言だと思います。ユールもあらゆるビデオゲームが5と6の両方を持つと言っているわけではないので（つまりビデオゲームの定義論をしているわけではない）、カイヨワの主張と論点がずれているということかもしれません（ユールはそれもわかったうえで書いているとは思いますが）。

カイヨワの見解によるとゲームはルールかフィクションのどちらかでしかないとありましたが、このゲームというのは、ビデオゲームも含まれることを意図したものなのでしょうか。それとも、ゲームというのは、ただの遊びといった意味合いなのでしょうか。ビデオゲームはどうしてもフィクションの要素が排除できないと個人的に感じたので、前者の場合だとすると、ユールより前に指摘する人が出て来なかったのはなぜなのかと感じました。

A. カイヨワの時代にはビデオゲームはまだないので（少なくとも実験的なもの以外）、カイヨワ自身はビデオゲームを含むことは意図していません。とはいえ、それらの概念をビデオゲームに適用することはできるでしょうし、ユールがまさにそれをやったということだと思います。

初歩的な前提ですが（最初の回に話した気もしますが）、「ゲーム」という語でビデオゲームを限定的に指すことは専門的な議論においてはほぼないと考えてよいです（英語だと日常的な用法としてもあまりないです。日本語の「ゲーム」がかなり異常です）。「ただの遊びといった意味合い」の意味がわからないので、その点は答えられません。

「ビデオゲームはどうしてもフィクションの要素が排除できないと個人的に感じた」というのは、それこそ「個人的な感じ」として理解したほうがよいと思います。フィクション要素のないビデオゲーム作品の実例はいくらでもあります。あと次回の授業で説明しますが、ユール自身はフィクションよりもルール推しの立場のゲーム研究者です。

また、ビデオゲームはフィクションとルールという排他的（に思われる）概念に革新をもたらしたのか、虚構世界に重点を置くフィクションと現実世界に則ったルールが融合する「遊び」として初めてビデオゲームが登場したのか、については少し疑問に思った。カイヨワがビデオゲームが発達する少し前の時代を生きた人であったからOR理論に至ったのかと考えたが、ボードゲームなども少なからずビデオゲームと同じような流れがあったのではないかと思ったからである。

A. 少なくともユールの発想では、ビデオゲームの登場が決定的に両者の結合を進めたということのようです。ただおっしゃるようにボードゲームにもそれなりに両方の面はあると思います。TRPGやそれ以前のウォーゲームはわかりやすくそうですね。近年のボードゲーム（ユーロゲーム）はビデオゲームの登場以降に盛り上がってきたものなので、またちょっと話が違いますが。

授業で聞いている間は、ルールとフィクションのユールとカイヨワの定義が理解しづらかったが、このリアクションペーパーを書くにあたり復習しなおして、ようやく理解できた。

講義の中でもふれられていたように子供の「ごっこ遊び」はフィクションとルールで構成されており、積み木であれ砂であれ作られた物の「見立て」（ここが秘密基地、ここが宇宙、等々）が「フィクション」であり、そこでどうやって遊ぶか（これをさわったら遊べない、等々）が「ルール」いあたると理解した。

ただカイヨワの遊びの類型分類を調べてみるともう少し複雑であった。

アゴン（競争）、アレア（サイコロ遊び）、ミミクリ（物真似）、イリンクス（めまい）という分類にパイディア（遊戯）ルデュス（競争）という軸が入り、複雑に分けられていたが、ビデオゲームにはこの全てに近い要素が、それぞれの場面で用意することができ、そのゲームに含められている要素が多ければ多いほど面白く、一部の人でなく多くの人々を魅惑して離さない作品になるのだと思った。

A. 想定されている方向のごっこ遊びの「ルール」については、おそらくカイヨワは想定していませんね。見立てがフィクションだというのはその通りです。有名なカイヨワの四分類およびパイディア／ルドゥスの二分法は面白い話ではありますが、この授業ではとくに取り上げません。ちなみにカイヨワの本は、定義論と分類論（1～2章）だけが参照されることが多いのですが、実は後半のほうが変な話（スケールの大きい話）をしていて面白いです。

ルール／フィクションの理解

最後のスライドの、ビデオゲームの二面性というキーワードがよく理解出来なかった。ルール的側面とフィクション的側面の二面性ということでいいのだろうか。

A. それで問題ないです。

例えば現実のサッカーにおいてはごっこ遊びの要素はなくただルールのみが存在するのに対し、ウイニングイレブンのようなサッカーをモチーフにしたゲームにおいてはサッカーをシミュレートしているという点でごっこ遊びであり、もちろんルールも存在している。シミュレーションであると言ってしまえば何でもフィクションになりうるというのはずるい気もするが、これがゲームの二面性の理由と考えた。

A. おおむねその通りです。「現実の」スポーツと、ビデオゲームのスポーツゲームの対比で考えるのはわかりやすいですね。

特にRPGでは、ゲーム内で主人公以外のキャラクターとの会話が用意されているが、そのときのセリフも、フィクションとしてのセリフとルールとしてのセリフとに分けられると考えても良いのだろうか。つまり、ストーリーを進めるヒントやプレイヤーができる行動についての情報などを与えるわけではないセリフはフィクションとしてのセリフ、ゲーム内での行動についてのヒントを与えてくれるセリフはルールとしてのセリフと言えるのだろうか。（例えば、ポケモンだと、ポケモンセンターに行くとポケモンの回復をするか否かを聞かれるが、このセリフは「この場所に来るとポケモンを回復することができる」というルールの理解につながると考えられるので、ルールとしてのセリフだと考えた）

A. それで問題ないですが、排他的な区別ではなく、ひとつの要素が両方の側面・働きを同時に持つことはあります。

この授業で取り上げられているRPGやADVと言ったゲームでは、ルールかフィクションどちらかの側面しかないものは少ないかもしれないが、アナログが元となる数独などのゲームはルールの側面しかないものにカウントされるのではないかと思った。しかし、将棋やオセロではゲーム画面上に存在する(現実世界に存在するわけではない)盤はフィクション部分なのか、疑問にも感じられる。

このような二つの側面を両方持ち合わせているのはビデオゲーム以外にもあるのかどうかが気になります。色々考えましたが例が思いつきませんでした。

A. モダンなボードゲーム（ユーロゲーム）の多くは両面あると思います。人狼などでもいいです。

ユールのルールとフィクションは組み合わさるという考えは、ビデオゲーム（と一部のボードゲーム）でのみ適用されるものなのだろうか。日本のドロケイのような遊びなどにも、泥棒と警察のごっこ遊び的なフィクションの要素と、おにごっこ的なルールの要素が共に含まれているように思ったのだが、ここにおいてルールとフィクションが組み合わさっていると見なすことはできないのだろうか。

A. どろけいはそう考えていいかもしれませんね。ちなみに海外にもcops and robbers（英語圏の呼び名）という同種の遊びがあります。

ルールとフィクションの話に関して、両者を併せ持つものが今日では主流である一方、片方の側面が主であるものも生き残っているという話があった。フィクション的側面が主であるものは何となく想像がつきますが、今日のゲームルール的側面が主であるゲームがあまりピンと来ていません。パズルゲームがそれかなと思うのですがその認識でよいのでしょうか？

A. ほぼルールしかない（フィクションの要素がほぼない）ビデオゲームの現代的な例は、おっしゃるようにパズルゲームがわかりやすいと思います（それでもフィクション要素がいろいろついているのが普通ですが）。ルール的側面が主というだけなら、格闘ゲームなど（もっと言えばeスポーツの種目になりえるタイトルの大半）はそうなんじゃないでしょうか。ただ授業でも話しましたが、このへんは個々のプレイヤーがビデオゲームに何を求めるかによっても違うので、ルール重視の遊び方をまったくしない人（あるいはそれを自覚していない人）にとってはどこまでいってもピンとこないかもしれません。

スライドの３３枚目ではゲームにおけるフィクションを「インタラクティブなフィクション」イメージした方がいいと指摘されていました。このインタラクティブなフィクションについて、私はゲームのフィクションの内容に応じてルールに基づき反応をすることによってフィクションの内容が変わっていくもので、ルールの関与の度合いによってインタラクティブの度合いが変わる、といったイメージを抱いているのですが、実際にはルールはインタラクティブであることにどれほど関わるものと言えるのでしょうか。

A. ややこしい話なので授業ではあいまいにしていましたが、そこでいう「ルール」という概念をどう定義するか次第で答えが変わります。「ルール」を「ビデオゲームにおけるインタラクションを実現するためのコンピュータプログラム」くらいの意味で考えると、インタラクティブなフィクションにもルールが必要（そのインタラクティブ性を作り出すために必要）ということになります。一方で、「ルール」を「狭義のゲームプレイを実現するための要素」くらいの意味で考えると、インタラクティブなフィクションにはルールが必ずしも必要ないということになります（そのインタラクティブ性を実現する要素は別にありえると考える）。『ビデオゲームの美学』でとっている戦略は後者ですが、『ハーフリアル』における概念規定が前者なのか後者なのかははっきりしません。たぶん後者なんだろうとは思いますが。

私は居合道（刀を用いた形武道）を部活でやっているのですが、ここにもルールとフィクションの二面性があるなと思いました。

居合道は

・決められた形を行い、その正確性や動きの鋭さ、技全体の完成度を競う

というルール的な面と

・仮想敵を想定し、その敵の動きに対応して、刀を用いて殺す（様子を演武で表現する）

というフィクション的な面があります。

優劣を決する大会ではルールが主軸となっており、そうではなく自分の演武を表現する場としての演武会ではフィクションが主軸になっていると言えるのかなと思いました。（とはいえ、大会にせよ演武会にせよルール・フィクション的な面いずれも大事にしなければならないので、両要素が「合流」したものではありますが…）

また、居合道をする剣士ひとりひとり、ルール的な面とフィクション的な面どちらを大事にしてやっているかが異なるのも、ビデオゲームの「プレイヤーによって変わってくる」ところと似ているなと思います。例えば、鋭く見栄えの良い動きで審判の目を引くことを優先する人の演武では要義的に正しい動きをするという点が犠牲になっていることもあります。

★A. いい例ですね。ルール／フィクションという概念がうまく当てはまっていて、かつそれを当てはめることでよりよく理解できるようになるケースだと思います。

虚構を想像させるための要素すべてが「フィクション」に相当するものであり、それは必ずしもテキストやグラフィックに限定されないといったような話がありましたが、音楽やハードの形態も虚構世界を想像させるものだろうなと思いました。たとえばドラクエの悲しげな音楽は、私に寂れた村の風景や廃墟の城を想起させますし、「モンスターバトルロード」というドラクエのアーケードゲームは、筐体に王者の剣が刺さっていてそれを突き刺すことでとどめの一撃を繰り出すというシステムだったのですが、この剣のギミックは子どもの頃の私に勇者を体験させてくれました。ただこの剣システムは、たぶんに「ルール」の側面も含んでいるものでしたが。

A. いい例ですね。

ゲーム実況をみる、というのは実際にコントローラーを見て操作しているわけではないためプレイの要素がなく、フィクションだけを享受しているように思われるが、実況者の技量からか、実際ゲームをしているかのように楽しむことができるのが不思議だと思った。

A. スポーツ観戦と比較してみると理解しやすいかもしれませんね（あるいは囲碁将棋の観戦でもかまいません）。スポーツ観戦の楽しみは、当のスポーツのルールをどれだけ理解しているかによって変わると思いますが、ルールをまったく知らない人にとってのスポーツ観戦が、ゲーム実況でフィクション面だけを鑑賞するというのに近いかもしれません（スポーツの場合はフィクションに相当する側面がろくにないのでたいして楽しめないでしょうが、多くのビデオゲームはフィクションもリッチなのでそれだけで楽しめるという違いはあると思います）。

ビデオゲーム以前のゲームにはルールとフィクションはどちらかしか存在できなかったが、ビデオゲームには両者が共存しているという話を聞き、ビデオゲームのどのような特徴がこの共存を可能にしているのかが気になった。

A. リッチなグラフィックを使えるという特徴は大きいと思いますが、ビデオゲームでなくても両者を組み込むことは可能です。

そういえば、なぜルールとフィクションの二つの要素を持つビデオゲームを｢ハーフリアル｣と呼ぶのであろうか。ハーフフィクションとは言えないのか。あくまでもリアルが基盤ということであろうか。

A. 「ハーフリアル」とともに「ハーフフィクショナル」という言い方もわずかながらしています。とはいえ、書きぶりから言ってルールのほうが本体だという発想はあるんでしょうね。

このような二つの側面を両方持ち合わせているのはビデオゲーム以外にもあるのかどうかが気になります。色々考えましたが例が思いつきませんでした。

近年はその二つの主従が曖昧になっているジャンルも多くなったとあるが、人気作品は基本的に主従がはっきりしているのではないかと感じたが、具体的にどのように曖昧になっているのだろうか。一人で遊ぶゲームは基本的にストーリーが重視される、いわゆるフィクションを主としたものになり、複数人でのプレイを前提とした作品はルールの側面が強くなる。RTAなど、そのゲームの本懐ではない遊び方を除けばどのようなゲームでも前出のどちらかの要素が色濃くなるように感じた。

（例外としてポケモンはストーリーに重きを置く人と対戦に重きを置く人が存在し、その点で主従が曖昧な例と言えるが、その他が思い当たらないので教えていただけるとありがたいです。）

A. ジャンルで言えばSRPGとかが一番わかりやすいですかね（多少マイナージャンルですが）。FPSのキャンペーンもある程度そうだと思います。人気作品かどうかはともかく、ライトゲーマー向けのシングルプレイだとフィクションが主になりがちというのはそうでしょうね。

分岐も選択肢も一切ないヴィジュアルノベルにルールと呼べるものはあるのでしょうか。

また、ルールの有無はさておき、それをノベル「ゲーム」と呼ぶ人が一定数存在しますが、それはメディアプレーヤー全般を「ゲーム」とみなす宣言として理解されかねないと思いました。

★A. 前者の疑問については、ルールなしでいいと思います。

分岐・選択肢ぬきのビジュアルノベルとメディアプレイヤーの違いはそれなりに大きいので（ソフトウェアとしての性格はおおむね同じかもしれませんが、文化史的な文脈がまったく違います）、「ビジュアルノベルはゲームだ」という主張が「メディアプレイヤー全般はゲームだ」という主張を含意することもないと思います。

その他

最終目的はおそらく強いモンスターを（時には人と協力しながら）倒すことですが、そのための過程を考えると、果たしてRPGなのか、と疑問があります。

個人的には、まず第一にADVではないと思っています。ストーリーがあるわけではないですし、ダイアログもなかった（あったとしてもごく少ない）と記憶しているからです。『オホーツクに消ゆ』のような「選択肢を選べ」形式でもないですし、アクションアドベンチャーみたいな、ストーリー＋アクションでもないので、これは違うのかなと思います。『シェンムー』みたいな、謎解き要素があるとか、いろいろ情報を聞いて回ってそれに基づいてさまざまに推測したり行く場所を考えたりすることもないので、ADV系統ではないと考えられるはずです。〔…〕

で、授業で取り上げられた例や内容を考えると、おそらくRPGでもないのではないかと思っています。より正確には、授業で取り上げられた『聖剣伝説』的な「アクションRPG」でもないのではないか、ということです。RPGは操作キャラの成長によって課題を解決できるようになっているのだと思いますが、モンハンの場合はそもそもキャラが成長しませんし、武器を強化していくのが「何とかの牙を材料に使う」みたいな、それまでの能力だけではどうにもならなくて、自分のテクニックも使ってモンスターを倒さないといけない（武器が倒せるレベルに達していてもプレイヤー自身の現実のコントローラースキルがないと倒せるわけではない）という形になっています。こういう場合をRPGと呼んでいいのかは自分にはわからないので、ご教示いただければと思います。アクションであるという点は同意できるのですが、RPGなのかが分かりません。

A. アクションRPGでいいんじゃないでしょうか。プレイヤーキャラクター自体の属性なのかその持ち物の属性なのかは、フィクションとして付与されるラベルの違いでしかないので（ルール的には大差ない）、成長要素は明確にあると言ってよいでしょう（ちなみに「プレイヤースキルを上げる必要はなく、プレイヤーキャラクターの属性を上げるだけでゲームが進められる」みたいな条件はRPGにはありません）。RPGと言うには成長要素が薄すぎるということであれば「成長要素の多少あるアクションゲーム」くらいでもいい気はしますが、そもそもある作品がどのジャンルに属するかを確定することにどんな意義があるのかを考えてみたほうがよいと思います。

〔…〕人間は自分以外の人生を生きることができないという大きく絶対的な壁を取り払った例の一つであるとも言えるのではないだろうか。マルチエンディングやMMOなどのゲームが熱い人気を誇る理由も、人間の変身願望に根ざしているように思える。

このような変身願望とゲームの関連性についての研究などはあるのでしょうか。

A. 「変身願望」という語で何かが論じられることはないですが、同一化（identification）や没入（immersion）はゲーム研究でよく取り上げられるトピックのひとつです。あるいは、カイヨワが「ミミクリ」と呼んでいるタイプの遊びの一部はそういう類のものです。もうちょっと話を広げると、模倣（imitation）や表象（representation）はそれ自体で人間に快をもたらすものであり、その実現を目指すのが芸術の本質であるという議論は古代ギリシアからあります。美学史的には、狭い芸術観として却下されてきた古めかしい考え方ですが、ビデオゲーム文化の中では根強く生き残っている気はしますね。

ローグライク以外にハマったゲームジャンルを教えていただきたいです。