自発活動は本当に外部入力無しでも起こるのか?
Carsen Stringer1,2,*,†, Marius Pachitariu1,3,*,†, Nicholas Steinmetz4,‡, Charu Bai Reddy4, Matteo Carandini4,§, Kenneth D. Harris3,†,§
Science 19 Apr 2019:
Vol. 364, Issue 6437, eaav7893
DOI: 10.1126/science.aav7893
複数の焦点面からのCaイメージングでマウスV1の10,000以上の興奮性ニューロン活動を同時にモニターして自発活動パターン及び視覚刺激に対する反応パターンを記録。また、同じ実験を8本のNeuropixelsを用いて複数領域(V1, RSC, 感覚運動皮質, 前頭皮質, 線条体, 海馬, 視床, 中脳)にまたがる1,000~2,000ニューロンの活動をモニターした。
V1の10,000ニューロンの自発活動を1.2 sのビンでSVCA(共変動する成分に対するPCA)をかけたところ100次元以上は意味のある寄与率を持っていた(Fig.1)。この次元は、20次元で飽和するという単純なシミュレーションの結果よりはるかに多い(Williamson, Plos comput biol, 2016)。そしてSVC1(PC1)は走行やひげの動き、瞳孔の大きさといった、覚醒度の指標と相関した。また、マウスの顔の動画を同時に記録しており、フレーム間の差分motion energyを計算し、各ピクセルに重みづけるようにPCAを行い、facial behaviorの主成分を算出した。このfacial behaviorの主成分にたいして縮小ランク回帰(activationを入れない3層ニューラルネットで中間層の次元を変えていき、モデルの精度が飽和する次元を見つける手法)で神経活動のSVC1~128成分を予測したところ、予測精度が16次元で飽和した。また、facial behaviorの方が走行やひげの動き、瞳孔の大きさよりも予測精度が高かった(Fig.2)。領野間のニューロンの活動パターンの解析もほぼ同様の結果であった。(Fig.3)
→このことから、V1の自発活動は、少なくとも第一主成分は、これまで考えられていた、「過去に経験した視覚刺激の再生や次に来る視覚刺激の予測」ではなく、「覚醒度や顔の動き」をコードしていることを示唆している。
では視覚刺激を与えた場合は自発活動とevoked反応を区別できるのか?全体の分散をstim.とbehav.の共有分散とstim. only、behav. onlyに分けることができ、分散説明率を計算すると、stim.とbehav.の共有空間は第1次元のみで意味のある割合を持っていて、それ以降の次元では説明率0%であった。つまりFig.4Eの概念図のようにstim. drivenな活動空間とbehav. drivenな活動空間は一次元のみ共有しており、その他の成分は直交している。そのため、Fig.4 Gのように活動量をstim. onlyやstim.-behav.、behav. onlyなどの各成分に分解できる。また、共有している主成分の各ニューロンの重みはほとんど正であった。stim.もbehav.もニューロン全体の活動頻度を上下しうるのでこのような共有次元が現れたのだと考察している。
→多くの過去の研究で言われているように自発活動がevoked反応と類似しているのは、これまで観測していたニューロン数が少なかったために、共有次元のみしか見れていなかったため?
自発活動はもともと、刺激反応とよく似ていることから、外部環境の内部モデルである(すなわち自発活動を事前分布、刺激反応を事後分布として、発達とともに事前分布が事後分布に近づいていくという説;サンプリング仮説)と考えられていた。しかし、本研究の結果からは自発活動も視覚とは関係ない覚醒や動きや観測できていないその他のbehaviorと対応する反応である可能性が生じてきたため、自発活動が事後分布のサンプリングをしているという必然性はなくなった(否定されているわけではない)。自発活動と学習の関係を考えるうえで重要な知見である。(自分の仮説的にはネガティブ?)