ブルーノ・ラトゥール
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Bruno Latour, 1947–2022
フランスの哲学者・人類学者・社会学者。
科学技術社会論(STS: Science and Technology Studies)の代表的理論家であり、現代思想における「ポスト構造主義以後」の重要人物とされる。
元々は哲学・神学を学び、その後、アフリカでの科学実践の民族誌的調査から社会学へ転向。パリ・グランゼコールの一つ、パリ政治学院(Sciences Po)の教授を長く務めた。
主な思想とキーワード
アクターネットワーク理論(ANT: Actor-Network Theory)
社会は**人間と非人間(モノ、装置、テキストなど)**が共に「アクター(行為主体)」として関係しあうネットワークで構成されている。
科学技術も、単に客観的事実が「発見」されるのではなく、実験装置・論文・研究者・資金などの複雑な絡み合いによって構築される。
モノにも「発言権(agency)」を与えることで、伝統的な人間中心主義を乗り越えようとする。
科学の社会構築性
科学的事実は「自然の本質」を発見するのではなく、「ラボ内外の交渉・翻訳・装置・説得」の過程で段階的に安定化していく。
著書『科学が作られているとき(Laboratory Life, 1979, with Steve Woolgar)』では、パスツール研究所の民族誌からこの点を分析。『われわれは決して近代的でなかった(Nous n’avons jamais été modernes, 1991)』で近代の「自然/社会」「事実/価値」の二分法を批判。
ポスト自然主義的な政治思想
科学と政治の分離を批判し、「事実」も「価値」も共に交渉される場(アリーナ)で扱うべきと主張。
気候変動の議論では、単なる「事実問題」ではなく、「我々がどこに住むのか」という世界構築の問題として捉え直す。
『ガイアとの闘争(Face à Gaïa, 2015)』ではラトゥール流の政治的エコロジーを展開。
よく使われる言葉・比喩
「黒箱化(Blackboxing)」:一度定着した技術や理論は、内部構造が見えなくなり、事実として扱われるようになるプロセス。
「翻訳(Translation)」:異なるアクター同士が交渉し、新しい秩序や意味づけを作っていく過程。
「ハイブリッド」:人間と非人間、自然と社会が混ざり合った存在のこと。ラトゥールはこれを現実のあり方として肯定的に捉える。
代表作(邦訳あり)
『科学が作られているとき』(1979)
『パンドラの希望』(1999)
『われわれは決して近代的でなかった』(1991)
『ガイアとの闘争』(2015)