絨毛性疾患取扱い規約
7月17日に開かれた第67回日本婦人科腫瘍学会学術集会(JSGO 2025)のTeaching Seminar「絨毛性疾患取扱い規約の改定のポイント」では、井箟一彦先生(和歌山県立医科大学)が改定全体の進捗を概説したのに続き、南口早智子先生(藤田医科大学)が病理領域の要点を解説した。
2011年版以来、実に10年以上ぶりとなる第4版は全面刷新が予定されているが、南口先生は「現在示されている内容はあくまでドラフトであり、来年公表予定の最終版で修正される可能性がある」としたうえで、WHO最新分類の取り込み、p57 KIP2免疫染色の必須化、診断精度を底上げする具体策を提示した。
演者:藤田医科大学 南口早智子先生
1)p57 KIP2の運用基準
形態、あるいは臨床所見で全胞状奇胎が疑われた時点で、必須追加検査とする。
陰性=父性ゲノム単独 → 全胞状奇胎確定、陽性の場合は、部分胞状奇胎と流産の鑑別のためにSTR法が必要であるが保険診療では不可能であり、日本では通常は行えない。
2)Early CHM/PHM診断精度の向上
HE所見のみの診断一致率は低水準。臨床的ないし、形態的にCHMが疑わしい場合にp57の免疫染色の推奨を規約本文に明記。
3)異型絨毛病変(Atypical villous lesion)/異常絨毛(Abnormal villous lesion)の扱い
p57陰性除外後に初めて検討する「記述的カテゴリー」に留め、安易なPHMの診断を避ける。
診断困難例は画像・臨床情報を含めた多職種カンファレンスを推奨。
4)紛らわしい病変の鑑別ポイント
卵管妊娠由来変化、着床部結節(PSN)、ETT/PSTTと良性着床部反応はHE単独では誤診率が高く、Ki-67や画像所見を参考にする。
直径2cm以上の腫瘤が画像で確認できるか否か、hCG推移の一貫性が鍵。
5)まとめ
病理診断の困難な症例、特に稀なケースや鑑別が難しいケースに対しては、コンサルテーションシステムの活用が重要である。病理学会は無料のコンサルテーションシステムを提供するが、病理医からの相談が原則であり、臨床医からの直接依頼には症例診断に関わる病理医の了解が必要である。これは検査センターや一般開業医からの依頼において課題となる可能性がある。
最終的に、絨毛性疾患の正確な診断のためには、産婦人科医と病理医の密な連携が不可欠であり、より円滑なコンサルテーションや診断システムを構築する必要があることが示唆された。